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コラム創造力の根っこ」VoL.13(05/06/2010)

                      鈴木淳平(株式会社ジェダイ代表)

「時間」を閉じ込めた絵画のもつ創造力の凄さ

 二枚の絵画に凄さを感じます。

かつては肖像画というジャンルに有名画家を雇い肖像画を画かせていた時代もありそれは一部で今も続いていますが、静止したポートレートです。
技術の発達と共に写真、ビデオ、デジタル化へと進歩したジャンルです。
風景画というジャンルも同じようです。
デザインを髣髴(ほうふつ)させる絵画があります。
シンプルが重要なデザイン以上の創造力を二枚の絵画に感じます。
二枚の絵画について興味があればインターネットで簡単に検索できます。
『雨』福田平八郎作。
『海からの風』アンドリュー・ワイエス作。
画家の意図を詳しく知ろうとすることより、むしろ絵画が与えてくれる印象を通して観るわれわれの側に想像力をかきたててくれから、面白く楽しいのです。
この二つに共通するテーマは「時間」だと想います。
一枚のキャンパスに「時間」を表現するとしたら、どう表現するでしょうか。

私が二十歳前後のときに展覧会で出会った名画です。
一枚の絵画に見事にその「時間」を閉じ込めた偉大な画家を発見した喜びと感動は、当時、「驚愕の鳥肌事件」と名付け頭をかき乱されました。
今でも鮮明に脳裏に焼きついて、消えることのない情報として記憶しています。

 『雨』は、日本の何処にでもあった屋根瓦だけをキャンパスいっぱいに描いています。立ち止まってしばらく見ているうちに、その瓦に雨の降った跡が、その一粒一粒を丁寧に表現しています。
もっと凝視してみると、その雨の一粒一粒の様々な色彩を使い、色を変化させて雨を描いていることに氣づくのです。今落ちた雨粒、さっき落ちた雨粒、そして乾きそうになった雨粒の跡と、観えてきます。
そこにはランダムに落ちた雨が時間を刻んでいたのです。
<福田平八郎>フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』によれば、生涯「水」の動き、感覚を追及していたとされ・・・とあります。
この絵画の『雨』は、水である雨が屋根瓦に落ちた状態を、時間と共に変化する自然の営みを加えた表現として、凄さを感じさせてくれます。

アンドリュー・ワイエスは、・・・アメリカン・リアリズムの代表的画家であり、アメリカの国民的画家といえる。(フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)
残念ながら昨年一月に九十二歳で偉大な生涯に幕を降ろしました。
『海からの風』は代表作の一つで、風を扱った作品はいくつか有るようです。
私の記憶ではアーリーアメリカンな白ペンキで塗られ重なり合う横板の壁の中央に白木の窓枠のある構図で、その窓枠に吊るされた白いレースのカーテンが心地よい風によってふくらまされた、その瞬間を部屋側から描いた作品でした。
(おそらく東京の展覧会会場で観た順番で隣の絵と、この『海からの風』が私の頭の中で記憶が重なって合成されたのかもしれません)
外に広がる景色を眺められる窓から、ここちよい風が部屋に入ってくるときに白いレースのカーテンをふくらませ、ほほをなでるような風の流れを感じる。
そんな素晴らしいひとときを過せるかも、と想わせてくれます。
普段は単独では目にすることのできない風が、白いレースのカーテンをふくらませる。その瞬間を、絵画として時間を封じ込めた凄い作品です。

 二作品とも観るたびに「時間」が流れ始めるのです。
綿々と続き、止ることのない自然の営みの、その瞬間を抜き取って表現した凄さは画家が見えたとおりに描いたと言えばそうなのでしょう。
私には一枚の絵画から叙事詩として自然の美しさ、そして奥行きや広がりある景観に、流れる「時間」による移り変わりの物語を感じさせます。
立体感や奥行きのある三次元を、平面の二次元に描かれる風景画に、時間を加えた四次元の世界を平面の絵画として描いたことが、凄いと感じたのです。
超越したアイディアを感じます。
 二人の画家は、ただ見えたものを描くのではなく、脳の中に映ったものから何かを学び、そのことにまずは画家自身が感動し、発見し、さらにヒントを得てイメージが湧きそれを固定化し一枚の絵画に凝縮して描いたのだと想います。
ビデオの「静止」状態のように瓦に次々に落ちた雨を一枚の絵画に閉じ込め、ビデオの「静止」状態のようにカーテンをつたわる風を一枚の絵画にした。
これは画家の創造力が、観る側にその絵画をビデオのように静止画像から「再生」のスイッチを押させ、瓦に次々に落ちた雨が順々に乾き始め、風はカーテンをふくらませたあと部屋の中へと流れ伝わる、観る側の想像力を使って絵画の中が動き出すようにしたのだと感じました。
映画『ハリーポッター』の寄宿舎に掛けられている数々の絵画の中が動いて見えるのも同じように感じます。
 創造力の普遍的常識として、表現する前に脳の中では完成予想のビジュアルが映っていなければ、イメージが出来上がっていなければ、いたずらに制作時間を消費し優れた表現力を発揮できない氣がします。

 一般的に時間を掛ければ良い表現ができるわけでもなさそうです。
むしろ短い制作時間で、時間を閉じ込めるくらいの集中力が決め手かもしれません。
集中力は長時間に耐えられないからです。


















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