■コラム「創造力の根っこ」VoL.30(09/29/2011)
「マンガ時代−1」 鈴木淳平
戦後、加速度的に膨れ上がった日本経済と共にすごし、人間と同じような成長痛を伴いながら駆け上がり飛躍してきた成長期が、マンガ時代になります。
歳を重ねるごとに社会現象を引き起こす宿命を背負った団塊世代の誕生に呼応し成長してきたマンガ時代です。
商品ライフサイクルの導入期、成長期、成熟期、衰退期の4つに分類すれば平安時代からの【漫画の歴史(創造力の根っこ 29)】は、導入期でした。
産声をあげ、ゆりかごの中から外の世界を覗いていた揺籃期(ようらんき)でもあり、赤子のように見様見真似で社会を観察し、伝統に寄り添った表現技法を使いこなすことで12世紀中頃の戯画や江戸時代の浮世絵となり800年後の20世紀、戦後復興まで社会に適応し緩やかな導入期を漫画時代はすごしました。
そして成長期にあたる青春時代のような【マンガ時代】を迎えたのです。
団塊世代の青春時代に漫画がマンガの表現に変わったといえます。
団塊世代は、成長と共に、学校不足、受験戦争、就職難、住宅不足、そして今や一斉に定年退職を迎え常に様々な社会問題を抱えながら生きています。
1948年から1951年の4年間1世代平均240万人と実にここ20年間1世代平均出生120万人の倍になり4世代合わせて900万人を超える日本の最大のメガ・ベビー・ブーマーの団塊世代です。
マンガは団塊世代と共に〔メガ成長〕を遂げ、漫画をマンガに変えたといえます。
・新聞、〔四コマ漫画の時代〕
時事通信と同じリアルタイムにその時代を生きる人々の共感を得ることに成功し、その時の話題や事象を四コマ漫画で、多くの読者を獲得してきた新聞がマスメディアとして時代を闊歩していた時期が、マンガ時代の成長期の中の黎明期(れいめいき)だったと言えます。
『サザエさん』は、四コマ漫画で人気を博し普遍的な地位を築いた代表例です。
四コマ漫画が毎日発行される新聞紙面を飾るタイムラグ(創作活動から印刷され読者が笑って楽しむまでの時差)はせいぜい1、2日から1週間程度です。
現在、サザエさんのCM(コマーシャル・メッセージ)の契約料は、芸能人のSMAP一人分と同じ一社につき億円単位が相場と言われています。
新聞など紙媒体が時代を凌駕していた頃からテレビアニメとして今に生き続け〔定番化〕した例としてサザエさんは、代表的なキャラクターでもあります。
(キャラクター商品としてはジンクスもあると言われ、ヒット商品は数えるほどですが、ノベルティ(おまけ)の人形焼とセットで300万個、生産された例もあります)
・連載漫画から〔連載マンガ〕へ
貸し本屋さんが、街になる前のどこの町にもあった昭和30年代を、振り返れば懐かし時代が商品になり懐古趣味と言い切れない、東京タワー建造を背景に描き大ヒットした映画『ALWAYS三丁目の夕日』も原作は漫画でした。
各出版社から漫画雑誌が出版され黎明期から発展期に成長をとげる連載漫画がコンテンツ不足のテレビに登場し始めた時期でもあり黄金期にもなります。
連載漫画によって漫画家と出版社がビジネス・業界を確立した時代です。
この頃から漫画が並行してマンガと言われるようになりました。表紙に漫画と印刷するよりもマンガと印刷する方がマンガ雑誌が多くの読者を獲得できると出版社は判断し、同時にマンガの低年齢化を招き拡大させることにもなりました。
この頃に挿絵はイラストと言われ、漫画はどこかにマンガである理由の単純化された風刺やユーモア(Humour)が息づいていることを読者が好んだ傾向から分離しマンガの勢いが加速し発行部数がうなぎ登りになっていきました。
マンガに限らずその原動力になったのが、ここ数年定年退職者として話題を集め日本のすべての市場を広げた団塊世代です。
原稿を締め切りに間に合わせるため寝食を忘れるほど活躍する売れっ子マンガ家と、マンガ家の自宅に原稿が出来上がるのを徹夜で待つくらい二人三脚の編集部の〔異才能クリーター集団〕化が、ハッキリとしマンガ・ビジネスが産業、業界として揺るぎ無い地位を獲得し築けたことが更なる成長へと導かれたのです。
・〔マンガ単行本〕の勝算と価値
一度読んだ連載マンガを単独出版のマンガ単行本にすると何故売れるのか、単純なことです。出版社とマンガ家にとってのメリットは引き続き読みたくなるコンテンツを連載することで固定した読者、ファンを獲得できるからです。
テレビの連ドラ(連続ドラマ)でも多用される手法でコンテンツの良し悪しと出演者で視聴率は決まります。人氣連ドラが映画化されるのと同じで連載マンガが単行本化されるのは至極当たり前で、むしろマンガ単行本の売れ行きで後からテレビが追従する結果を観る例が多々あり、そちらの方が確実となっています。
人氣の高い作品・商品の連載マンガは、読者がもう一度読みたくなり口コミ効果で読んでない読者も加わり、週刊、月刊連載マンガが書店に置かれる期間より常時陳列され購買に結びつきやいヒットした連載マンガを単行本として出版すればさらに売上を伸ばし書店の棚に必ず並ぶようになり市場を築きました。
各マンガ雑誌社が単行本マンガを重要視するのは、人氣の連載マンガを単行本出版する合理性でさらに需要が拡大し膨大な利益を獲得できるからです。
マンガ単行本は、日本が誇れる世界的なビジネスのキッカケを創りました。
マンガ時代はマスメディアの主力である紙媒体の新聞、雑誌からテレビなどの波媒体へ進出する登竜門の役目をはたす価値もあったのです。
(To be continued)