『おばけ屋敷』の復活・ゲーム時代−〔自発〕5 鈴木淳平
『ドラキュラゲーム』のアンケート集計から『おばけ屋敷ゲーム』は生まれました。
『「創造力の根っこ」Vol.22多様性とクリエーター』でマンガ雑誌の読者アンケートのリクエストや意見を受けいれ方向性を修正させ…、売れるマンガとして人氣を確実にする読者と編集者、受け手側と仕掛け側の「双方向型コミュニケーション」の成功法則を裏付けてもいます。
「遊園地にある「おばけ屋敷」が、なんでゲームになるの?」
全国営業所長会議で『ドラキュラゲーム』に続く商品化計画として「おばけ屋敷」ゲームを1980年夏にプレゼンテーションした時の多くの営業所長の反応です。
遊園地の「おばけ屋敷」は、作り物だと分かっていてもオドロオドロシイ通路や部屋に入ればやっぱり出てくる数々のおばけたちに肝を冷やされ腰が引けながらおそるおそる足を進め、なんとか出口にたどり着き真っ青になった顔が恥ずかしさに変わる、誰もが一度は経験する〔怖いもの見たさ〕のエンタテイメントです。
商品化決定の判断を下す営業所長への説得力として上記では足りません。
プレゼンテーション資料(レジメ・〔レジュメ〕)のまとめが重要です。
客観的なデータを添え説得力と期待を膨らませ商品化の意思決定を速やかにかちとるために事前に用意し開発部内でリハーサルまでして営業所長会議に臨むので神経も緊張も高ぶる儀式のように感じた商品化への通過点です。
子どもたちからの電話応対と時を同じくして
「ドラキュラゲーム」ルール説明の〔電話のお兄さん〕として社内で有名人になっていた担当の元へ毎日ファンレターのようにアンケートハガキが届き始めた1980年夏休み前、電話応対に追われながらアンケートで机の上は山積み、いくつもの袋で足の踏み場もなくなるくらい溜まり過ぎたアンケートをどう扱ってよいか分からないまま、ほこりまみれではモッタイナイと、電話応対と2000通を目標にアンケート集計の日々に明け暮れた約一ヶ月でした。
消費者と発売元・メーカーの間に信頼感とリピーターを増やすCS(カスタマー・サティスファクション)運動・顧客満足度を先取りしていたと思えた時期です。
粗品進呈とアンケートに印刷していたので応募してくれた子どもたちの期待を裏切らないように自社商品をお礼に郵送するのも担当の役目でした。
アンケートは企画開発の宝
集計をしている間もアンケートは増え続けとうとう3,000通のアンケート集計・分析に至りました。初回導入12,000個の25%の回収率はかなりのものです。
パソコンが普及していない時代の集計は、子どもたちの個性あふれる手描きの回答にぬくもりを感じながら1通1通目を通し手書きでまとめた作業は、商品企画開発の本質と合理性を学べた貴重な経験でノウハウの〔要〕になりました。
アンケートにはダイレクトすぎる質問も入れてあり親御さんが回答したか同業他社のゲーム担当者ではないかと想われ勘繰ってしまう「質問が安易すぎる…」とお叱りとも受け取れる回答が記されていたことも懐かしく憶い出します。
その質問は、「作って欲しいゲームがあれば書いてください」です。
(欄外資料は『JALパック世界一周旅行ゲーム』ですが右上がその質問です)
『ドラキュラゲーム』を買ってアンケートを応募してくれた子どもたちのその答えは、実に90%以上が「おばけ屋敷」を作ってほしいという回答が寄せられました。
答えの「おばけ屋敷」に最初は当たり前だな、当然の結果だと納得しながら、一方で予測もしていなかった結果に手は止まりイメージが浮かび始めていました。
子どもたちが描いた「おばけ屋敷」ゲームとは?
前作は、ドラキュラにスポットを当てたので、真逆をやろう!遊園地のおばけ屋敷のように古今東西のありとあらゆるおばけを登場させ〔おばけ百科全書〕のようにしたら子どもたちも喜ぶに違いないと浮かんできました。
簡単な進行で熱中できるゲームを創ろう!
ルール説明も簡単でゲーム進行に煩わされずスリルと興奮を味わいながら「おばけ退治」に集中でき感情移入しやすく夢中になってゲームをしてくれる方法はなんだろう?誰でもが知る方法を取り入れようと想いめぐらしました。
ルールが簡単で、おばけ退治に夢中になれる方法はないものか?
ジャンケンをおばけ対決(勝てば退治)〔らしく〕することで決まりだと決め込み、グーチョキパーの代わりになる言葉でおばけ退治に必要なものは、〔物質〕よりも精神性だと独り即決し、子どもたちも理解できゲーム中に声を張り上げて楽しめそうな言葉、勇氣・知恵…と浮かんできましたが最後の一つが浮かびません。
漢字二文字に統一したいというコダワリに邪魔されていました。
三賢者との出会い
『ドラキュラゲーム』が売れ独りでこなしてきたことが分業のように、広告代理店・印刷工場・企画ブレーン・デザインブレーン・製造工場など20数名のゲーム会議を開くまで〔異才能集団による創造〕が本格化するキッカケの一つに印刷工場開発室の3人の人生の先輩諸氏が頼りになる企画相談・ゲーム開発の窓口として『おばけ屋敷』の具現化を手伝ってくれました。(生産はその工場です)
頭の中にあった「おばけ屋敷ゲーム」の何回もおばけと遭遇しゴールでおばけボスと対決するクライマックス、〔おばけ百科全書〕のイメージ、ゲーム進行はジャンケン方式などコンセプトを3賢者の皆さんに打ち明け、どうしても勇氣・知恵まで思い付き、漢字2文字にしたいが出てこないので案を下さいとお願いし三賢者から出て来た答えは〔力〕でした。三賢者の教養に説得され決定しました。
ジャンケンの要素を満たしゲーム本質に影響無しと、トッサに判断し『おばけ屋敷ゲーム』の骨組はできたあがったも同然の1980年秋口でした。
発想・発案に必要な要素は外部要因がほとんど
創造力の根っこに子どもたちの“思い”が吸収され芽吹くようにイメージが発案に結実します。具現化する過程を経験した人なら〔考える〕という便利な言葉より、もっと電子的で瞬間的に全体像が浮かび上がったと、〔感じている〕はずです。
消費者対象の企画開発は、アンケートなどの〔双方向型コミュニケーション〕から〔自発〕が生まれ調和し完成度を高めると感じます。(続く)
80年8月6日に作成