「見る力」の〈普遍的常識〉
鈴木淳平
短期的な目先の利害に惑わされない「見る力」が、持続力を養います。
いつもの見方から角度を変えて「見る力」が、発見と観察力を与えてくれます。
表面的な見方から常に根本を探ろうとする「見る力」が、本質を悟らせます。
「見る力」の普遍的な三原則として先人は語っています。
「ものをみるのに「三つの原則」があります。
一つには、できるだけ目先にとらわれないで、長い目でみる。
二つには、できるだけ一面にとらわれないで、多面的に、できうれば全面的にみる。
三つには、枝葉末節にわたらないで、根本的にみる。
この三つであります。
そこで一物の是非を見て大体の是非を問わない、
一時の利害に関わって先々の利害を察しないということは、
つまり全面的に見ない、長い目で見ない、根本的に見ないということです。」
(P193『先哲講座』安岡正篤(著)、竹井書房刊、平成元年 第六刷発行より)
長い目、多面的、根本的、が「見る力」の三原則であり〈普遍的常識〉です。
長い目を心がけることは、目の前に起きた事象に、短期的な判断をして問題をさらに深刻にしてしまう事例として原発事故がいい例です。
かなり古い記憶を蘇らせれば、サン=テグジュペリの『星の王子様』で、〈主人公が描いた、大人たちが帽子に見えるという絵は、蛇が象を飲み込んだ様子を横から描いた〉を憶いだします。当時その挿絵を観て〈カクレンボ〉遊びか、ふざけて子どもが毛布の中で四つん這い(よつんばい)になっている様子を想像しました。たった一つの絵に色々様々な解釈を成り立たせるのも人それぞれ、そこから新たな発想も生まれるキッカケにもなり、自分の経験を反映させた記憶から人それぞれの想念を呼び覚ますことと同じで、この場合は複数の人によって多面的に見る一つの例えといえます。
正確には一つのものを、360度すべての角度からや上から下から斜めから一人で見る多面的な見方が大切だと教えています。
クイズを一つ。
基礎デザインで習う製図の三面図からの出題です。
(これは実際に私の高校時代に友人から問われた出題の記憶です)
頭の中で立体を組み立てて見てください。
出題:〈正面から見ると四角形、側面から見ると三角形、平面(上部)から見ると円形の実際に多くの人が目にしたことのある実用品は何でしょう?〉
実際は会話の中で出題されたものを文章化しました。頭の中で図形として組み立てられるかの訓練として確か授業でも出題されたと憶います。
ヒントとして以下の分かりやすい文章にしてみました。
〈正面から見ると■、側面から見ると▲、平面(上部)から見ると●に見える実用品は何でしょう?〉
さらに、側面から見ると▲を、▼にすると正解率は上がります。
「見る力」三原則をウエアラブルすれば、さらに相乗効果を増幅させられます。
人が生きる上で歳を重ねるごとに経験を積み重ね慎重になり過ぎ、〈考え過ぎ〉や〈表面的な常識が邪魔したり〉、〈邪心〉が湧き出たりし眼を曇らせる人が多くなるのは世の常かもしれませんが、子どもの〈無邪氣〉さに、ハッとさせられ〈氣を付け〉「見る力」三原則を身に着ける大人が近年増えていそうです。
〈無邪氣〉な子どもは本質を突く言動を無意識に口にしているだけです。
〈考え過ぎ〉、〈表面的な常識が邪魔〉、〈邪心〉は意識から生まれるものです。
子どもの無意識な言動に「見る力」を冴(さ)えさせる直感があると感じます。
脳の中で最初に〈記憶から想念を呼び覚まされた〉想いや〈感じ〉は、誤りの可能性よりも正しい可能性の方が高いといわれる直観力がはたらいているからです。
最近、珠玉かつ耳慣れない言葉を勉強しましたので紹介しておきます。
初発心時 便成正覚(しょほしんじ べんじょうしょうがく)です。
〔初めて物事をやろうとした時がすなわち正しい悟りの気持ちに等しくなる〕(字幕の写し)。ほとんど国民がモスリン(イスラム)のバングラデシュに、テレビもない、ラジオもない、電話もない電気も水道もない貧困の地方があり、そこで孤児院などを運営する仏教寺院に2013年から三代目として勤める小学生のころから西行法師の生き方に憧れ、仏教の道に入った日本人僧侶の山本成尊(やまもと じょうそん)さん36歳が番組の終わりころに発した言葉です。
(『世界の村で発見 こんなところに 日本人』、テレビ朝日、8月15日放送より)
歳を重ねるごとに、眼を曇らせる大人が増えるのに反比例し、「見る力」の三原則に加え子どものような〈無邪氣〉に似た相乗効果の直観力の冴えを身に着けることは、曲解かもしれませんが分かったつもりになれば初発心時・便成正覚の教えとが同じように想え、本質を貫いているように感じ、脳内で理屈ではない不可思議な〈何か〉が作用しているように想えてきます。
〈想像力の根っこ〉が必要な養分を吸い上げる時に種々雑多な情報や知識を、正しい判断基準として普遍的常識である長い目、多面的、根本的の「見る力」の三原則と冴えを魅せる直観力で〈異才能集団〉のデザイナーやクリエーターたちが備え活かせれば、安心安全であることは勿論、良質で健全な社会環境が築かれ整うのではないかとさえ想えてきます。
国家や社会、会社・企業、人の行いを見る時に表層(うわべ)に惑わされないで、真実に近づく現実的で有効な普遍的常識である「見る力」の三原則と直観力を再認識する時代なのです。
西行法師(俗名:佐藤義清(さとうのりきよ)、平安末から鎌倉初期の歌僧。百人一首にでてくる歌人としても有名です。
クイズの答え
新幹線や長距離列車に備えてある飲み水用の折りたたまれている〈紙コップ〉に水を入れて立体にした時の形です。