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増子瑞穂さんの「キャスター・マッシー通信」連載 - 44(6/30/2007)

「配慮とあたたかい目」

 今年の梅雨は雨が少ないですね。雨が降ると赤ちゃんを連れての移動は抱っこやおんぶになり一日が終わる頃には肩や腰はガチガチ。疲れきってしまいます。雨が少なすぎるのも困りますが、天気がいいとベビーカーを使えるので助かります。そのベビーカーで5月下旬、あわや大惨事という事故がありました。ニュースでも報じられたので記憶に新しい人も多いと思います。

 ある母親が電車にベビーカーで乗ろうとした際、ベビーカーの足の部分がドアに挟まり、そのまま電車は発車。4ヶ月の赤ちゃんを乗せたままベビーカーが電車に引きずられるという事故でした。幸いにも赤ちゃんはホームにいた男性に助け出され無事でしたが、一歩間違えば大惨事になっていました。この事故についてはインターネット上でも様々な議論が交わされました。車掌の目視ミス、検知システムの不備、ベビーカーを押していた母親の責任など。実際に事故現場を目撃していないので、根本的な原因は何だったのかはわかりません。赤ちゃんや母親、周囲の人が無事で本当によかったです。

 この事故に関する個人のブログなどを読んでいてとても驚いたことがあります。そもそも赤ちゃんをベビーカーに乗せたまま電車に乗るのは非常識だという意見がとても多かったことです。私はこれまで、ベビーカーが周囲の邪魔にならないよう自分のほうに極力引き寄せたり、電車が空いている時間帯を選んで乗るようにしたりしていました。が、赤ちゃんを乗せたままベビーカーで電車に乗ることそのものが非常識とは。夢にも思いませんでした。このことはベビーカーでの電車移動について調べるきっかけになりました。

 JRにこの事故を受けて、ベビーカーで乗車する際のマナーについてメールで問い合わせました。すると、「ベビーカーをご利用の場合には、たたんで利用するなどのお願いは特にしておりませんが、混雑時等には周りのお客さまのご迷惑とならないよう配慮していただいたうえで、お客さまご自身の責任において駅・列車内でご利用いただきますようお願いをいたしております。」との回答がありました。

 混雑時の配慮。これも人それぞれの考え方があって、これがマナーと決めるのは難しいですよね。しかし、ベビーカーはたたんでとの呼びかけもされていません。ではなぜベビーカーで電車を利用することを痛烈に批判する意見が多いのでしょうか。批判的な意見を読んでいると、ベビーカーで嫌な経験をしている人が多いことがわかりました。
例えば、車内でベビーカーをぶつけられて一言の詫びもなかった。猛スピードで駆け込み乗車するベビーカーを見た。複数のベビーカーが通路をふさぐように置かれていた。などなど。人にぶつかったり、駆け込み乗車をしたり、通路をふさいだりというのは、ベビーカーでなくても日常よく見る光景です。(もちろんぶつかってしまったら「すみません」の一言は当たり前ですし、駆け込み乗車はもってのほかです。)ただ、ベビーカーでこれらのことが起こると、強く印象に残ってしまうのではないかと思うのです。多くのベビーカー使用者は色んなことに気を配りながら電車を利用していると思います。一部の人が起こしたことが原因で、電車でのベビーカー全てに批判的な目を向けられるのは悲しいことです。

 では、どうすればいいのか。赤ちゃんをベビーカーに乗せたまま移動せざるを得ない状況は多々あります。人の気持ちを動かすのは難しいことですが、自分の気持ちは心がけ一つで変わります。子連れで出掛けると、泣きやしないか、オムツはぬれていないか、暑くないか、などどうしても赤ちゃんに神経がいってしまい周りが見えなくなることもあります。そこで肩の力を抜いて、周囲の状況を見渡して、その都度できるだけの配慮をする。ママやパパがこのことを繰り返すことによって、ベビーカーへの批判的な目も少しずつ和らいでいくのではないでしょうか。全ての子どもたちは宝なのですから。あたたかい目に包まれて成長していってほしいものです。

参考:ベビーカーをご利用のお客様へ
http://www.jreast.co.jp/railway/pdf/baby_car.pdf

2007.6.27
増子瑞穂