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増子瑞穂さんの「キャスター・マッシー通信」連載 - 45(7/29/2007)

「母さん休業」

7月7日の七夕、産後初めて仕事をしました。
場所は六本木、東京ミッドタウン。育児に専念中の私にとっては大都会です。ここで写真のイベントが開かれました。プロのカメラマンが撮影した家族写真とそれにまつわるエピソードを紹介するステージが行われ、私はそのエピソードを朗読しました。300人程の観客を前に、久々にいい緊張感のもと仕事に臨むことができ、イベントも好評でした。

1時間程のステージだったのですが、行き帰りの時間や打ち合わせ、リハーサルなどを含めると一日仕事です。仕事の話しをもらったとき息子の世話をどうしようかと考えましたが、離乳食も順調に進み日中はすっかり「おっぱい」から離れた我が子。土曜日ということもあって、思い切って夫に任せることにしました。日頃、オムツや食事の世話など育児には協力的な夫ですが、長時間一人で面倒を見るのは初めて。私も長時間息子と離れて過ごすのは出産以来初めてです。

あらかじめ昼と夜の離乳食を用意し、夫とも食事や昼寝のタイミングなど打ち合わせを重ね、いよいよ仕事の日の朝を迎えました。バタバタと息子の朝食と授乳を済ませ、自分の身支度を整え、いざ出勤。息子はケロッとしているのですが、私は不安と寂しさでなかなか玄関を出ることができません。ひとり後ろ髪ひかれる思いで家を出ました。しかし一歩外に出ると、一人で歩けることの身軽なこと、気楽なこと。段々と足取りが軽くなって行くのを感じました。

ほぼ1年ぶりに一人で乗る西武線。なんだかうれしくて楽しくて仕方がありません。まるで初めて新幹線に乗る小学生のようにドアにへばりついて窓の外の流れる風景を見ていました。普段、子連れで電車に乗っているとそんな余裕はありません。一人で乗った電車で感じたことですが、車内で携帯電話をいじっている人がとても多いですね。メールをしていたり、音楽を聴いていたり。携帯を手にしていない人の方がはるかに少ない気がします。私にとっては貴重な一人の時間、携帯を見つめるなんてもったいない気がして窓の外を眺めていました。
電車を降りても、今日はエレベーターを探す必要はありません。エスカレーターに乗るのもなんだか惜しくて、階段を上り下りする喜びをかみしめていました。六本木に到着し、時計を見ると担当者との待ち合わせ時間までは30分以上あります。待ち合わせだけではなく、その日は一日を通してなんだか時間が余るような気がしました。日頃、赤ちゃん連れで行動すると通常の1.5倍、ときには2倍の時間がかかります。無意識にそんな感覚で行動しているので、なんだか時間が余るのです。今日は目的地まで最短距離で行くことが出来るし、トイレにだって行きたい時にひとりで行ける。自分のことだけに集中できるのです。時間が余るように感じるなんて、以前の私にはなかったことです。
子供を持つまで自分が出来る最大限のことをしようとしていた気がします。いつも自分の限界いっぱいいっぱいで、することをどんどん詰め込んで。電車に乗っているときでさえも、朝見た光景のように仕事やら何やらのメールをせかせか打って。でも子供がいると出来ることが限られてきます。あれもこれもとはいきません。
慌ただしい子育ての中で、色々なことを削ぎ落とし、ゆとりを持って生きる術を学んだようです。ほんの少しゆとりを持って生きると、ただ電車に乗ることすら楽しく思えてくるのかもしれません。

さて、無事仕事を終え、一人の時間を存分に味わい、久しぶり(12時間ぶり)に再会した我が子のかわいく思えることといったら。今回は私目線の一日を書きましたが、息子と二人きりで過ごした夫目線の一日ものぞいてみたくなりました。

2007.7.28
増子瑞穂