■増子瑞穂さんの「キャスター・マッシー通信」連載 - 69(07/31/2009)
「子どもとパッケージ」
多くの子どもが夢中になるおもちゃ、トミカ。以前マッシー通信でもとりあげました。息子は最近ではトミカそのものだけではなく、トミカが入っていたパッケージも大切にしています。
折り目が破けボロボロになろうとも。勝手に捨てようものなら大変なことになります。「ミニの箱は?ゼットの箱は?」などとずっと問いつめられます。トミカの空き箱が捨てられないのは我が家だけかと思っていたら、同じ月齢の男の子がいる友人宅でもそうだといいます。我が家にもトミカの空き箱がたくさんありますが、友人宅には比べものにならないくらい多くのトミカの空き箱がありました。その数およそ100枚。これまでに捨てた箱はたった1つだけだそうです。箱を捨てたその直後、しゃべり初めて間もない子どもが「ハコ、ハコ」と必死に探しているのを見て、これは捨ててはならないものだと思ったそうです。以来、トミカの空き箱は全て捨てずにとっているといいます。この日も子どもたちはトミカの箱で遊んでいました。箱をトンネルに見立てて車をくぐらせたり、手にしたパッケージの車を探し出し、中に車をしまってみたり。そしてパッケージを見せ合ってはケラケラ笑っています。彼らにとってそれはただの空き箱ではないらしいのです。ましてやゴミなんかではありません。
こんなこともありました。ある日、カレーを作っていたときのこと。息子はまだ2歳なので大人と同じような辛さのものはあまり食べられません。そこで大きな鍋でカレーの具材を煮込み、カレーのルーを入れる段階になってから小さな鍋に息子の分をとりわけ、別々に味付けをしています。この日使っていたのはグリコの2段熟カレー。大人用は中辛、子ども用には甘口のルーを使います。中辛は緑色のパッケージ、甘口は赤色のパッケージです。それをみていた息子が緑のパッケージを指差し、「父ちゃんの?」と聞きました。私は「そうだよ。こっちの緑色の辛いのが父ちゃんの。こっちの赤くて甘いのが○○くんのだよ。」と教えました。後日、スーパーに買い物に行ったとき、息子がそのカレールーを見つけて言いました。「こっち父ちゃんの、こっち○○くんの。」彼は、緑色の中辛のパッケージは父親のもの、赤い甘口のパッケージは自分のものだと学んだのです。
グリコ2段熟カレーのパッケージは「甘口」、「中辛」という辛さについての文字情報は比較的小さく、大半を占めるのは色による情報です。ちなみに2段熟カレーの辛口は青色のパッケージです。
もしパッケージの色がみな同じで「甘口」「中辛」などの文字情報だけで辛さを表示していたとしたら、小さな子どもには2つの違いが分からなかったでしょう。それはつまり「自分のモノ」、「自分のものではないモノ」の区別がつかないことになります。甘口、中辛、辛口、それぞれに使われている色が違うからこそ子どもはカレールーのパッケージから「自分のモノ」、「自分のものではないモノ」を学ぶことができたのです。改めてスーパーのカレー売り場を見渡してみると、今回使ったグリコの「2段熟カレー」も、ハウス食品の「こくまろカレー」、「バーモントカレー」も、エスビー食品の「とろけるカレー」も「甘口は赤」、「中辛は緑」、「辛口は青」と同じカラーリングだということに気がつきました。これは単なる偶然ではないでしょう。ファミリー向けといえる商品は微妙な色調の差はありますがほぼ同じカラーリングなのです。消費者としてこれはとても分かりやすい。おかげでカレールーの銘柄を変えたとしても、辛さと色の組み合わせは変わらず、子どもが混乱することもありません。「父ちゃんのは緑、ボクのは赤」なのです。
例外なのが、辛さ5倍10倍など辛さが際立った商品や高級感を打ち出した商品。黒や金色などが使われファミリー向け商品との差別化が図られています。これらの商品を使うようになるころには息子も文字からの情報を得られるようになっていることでしょう。(もう一緒にご飯を食べてくれなくなっている頃かもしれません。)興味深いのがこれらの商品を含めても「中辛」のほとんどの商品には緑色が使われていたことです。甘口でもなく辛口でもなく「中くらいの辛さ」というバランスと、緑というニュートラルな色のイメージが一致するからなのでしょう。
分かりやすいパッケージデザインに、スウェーデンの乳製品メーカー、アーラ社のパッケージがあります。北欧のデザインや雑貨などを紹介した書籍にも度々登場しています。スウェーデンのスーパーに並んでいる乳製品のほとんどがこのアーラ社のものだそうです。
たとえば牛乳。パッケージはストライプのデザインで、脂肪分によって4種類に分かれています。普通の牛乳は赤いストライプ、普通と低脂肪の間のタイプは緑、低脂肪は青、無脂肪は黄色と色分けされています。さらにその脂肪分に比例してストライプの幅が変わります。ストライプの幅が太いほど脂肪分が高い牛乳です。色とストライプの太さで、その製品がどんなものか分かるようになっているわけです。分かりやすさに加えて、ポップで明るいデザインは食卓もにぎやかになりそうです。この牛乳パッケージのデザイナーはスウェーデンのテキスタイルデザインにおいてリーダー的存在というTom Hedqvist(トム・ヘドクヴィスト)。数多くのストライプの作品を手がけています。この牛乳パッケージは、スウェーデンのナショナルミュージアムにも展示されているそうです。色とストライプを巧みに使ったこのパッケージは、子どもにも分かりやすいデザインといえるでしょう。スウェーデンの子どもたちが「パパのは黄色、ボクのは赤」とスーパーで会話している姿を想像すると楽しい気分になります。
子どもにとって商品パッケージとは、商品と同じように、ときにはそれ以上に意味を持つものだと思います。おもちゃでもあり、学ぶための絵本や書物でもあります。子どもたちに様々な発見の機会をあたえ、分かりやすく、デザインにも優れたパッケージ。デパートやスーパーの棚で今後も見つけられることを期待しています。パッケージは子どもの成長を手助けする道具になり得るのです。
2009年7月29日
増子瑞穂
http://members3.jcom.home.ne.jp/massyweb/
グリコ2段熟カレー
http://www.ezaki-glico.net/jukucurry/product.html
ハウスバーモントカレー
http://housefoods.jp/products/catalog/cat_1,1020,1021,1019.html
ハウスこくまろカレー
http://housefoods.jp/products/catalog/cat_1,1020,1021,1026.html
S&Bとろけるカレー
http://www.sbotodoke.com/app/catalog/goods_list?brlcd=00300&brmcd=00310&code=brand
参考までに。トミカについてのコラム「手のひらに夢を」
http://www.nudn.net/maccy/61.html
●友人宅の「空き箱」コレクション
●父ちゃんのは緑、ボクのは赤
●アーラ社の牛乳パッケージ
●パッケージは子どもの成長を助ける道具