■増子瑞穂さんの「キャスター・マッシー通信」連載 - 93(09/01/2011)
「夏の珍事」
8月7日、日曜日。4歳の息子お気に入りの電車に乗って出かけました。日芸江古田校舎でもおなじみの西武池袋線です。ひばりが丘駅から乗車して保谷、大泉学園、石神井公園。たった数駅でも息子は大喜びです。一方1歳の娘は少し迷惑そう。男女で好きなものの違いがもう出てきているのかもしれません。
お昼ご飯を食べ、公園で遊んでいた午後2時過ぎ。遠くで雷が鳴り出しました。間もなく激しい雨が降り始めました。ここ数年の夏の天気の特徴ともいえるゲリラ雷雨です 。雨と雷は激しさを増していきます。子どもを連れて近くにあった3階建ての家電量販店で雨宿りをしていました。パソコン、テレビ、マッサージ器に、今人気のモバイルビューティーグッズ。店内をブラブラし 時間をつぶした午後4時過ぎ。小雨になってきました。そこから一番近い池袋線の練馬高野台駅まで歩くと、様子がなんだかおかしい。日曜日の夕方にしては人で溢れかえっています。電車が止まっているのです。
このときはまだ、落雷の影響で電車が止まってしまっている。という情報しかなく、いつ電車が動き出すのか、運転再開の見通しはあるのか全くわかりません。駅はぼうっと薄暗く感じます。夫と息子、娘の4人で、しばらく駅の改札でなす術もなく新しい情報を待っていました。そのうち、隣の石神井公園駅からなら、バスで振替輸送をしているとの情報が駅員さんから入りました。(なぜ練馬高野台駅からは振替輸送がない のかはよくわかりませんが。)私たちは石神井公園駅まで線路沿いの道を歩くことに。石神井公園駅までは歩いて20分ほど。息子でも歩けない距離ではありません。小雨の中、レインカバーをかけたベビーカーに娘を乗せ、息子の手をひいて隣駅まで歩きました。
石神井公園駅に着いて驚いたことといったら。真っ暗です。こんな駅を見たことはありません。終電が走り去ったあとの駅ですら、もう少し明るいのではないでしょうか。その真っ暗な駅から人がぞろぞろと出てきます。ちょっと不気味な感じがしました。そんな中、小さな灯りがチラホラ見えます。懐中電灯を手にした人が何人かいるのです。あの震災以来、ポケットサイズの懐中電灯を持ち歩いている人も多いようです。私のカバンの中にも 入っていました。真っ暗な中、ほんの少しの灯りが安心感につながります。
石神井公園駅に着いたものの、西武池袋線の南側に平行して走っている、西武新宿線行きの振替バスは長蛇の列。いったいいつになったら乗れるのか見当もつきません。健康な大人だけなら、いくらでも時間をつぶせます。電車が動き始めるまで、ネットカフェに行くもよし、飲んで待つもよし。が、子どもが一緒だとそうは行きません。とにかく、この状況を何とかしなければ。
池袋線の南側を走る新宿線行きのバスは長蛇の列ですが、北側を走る東武東上線行きのバスは空いています。多分、遠回りになるのでしょう。子連れで長蛇の列に並んでバス待ちをするのは辛い。そこで東武東上線行きのバスに乗り込みました。東上 線を乗り継ぎ、ひばりが丘駅方面のバスに乗る。ぐるりと北回りコースです。
スムーズにバスに乗ることが出来たものの、車内はギュウギュウ詰めです。しかも、ベビーカーあり。どんなに迷惑にならないよう心がけても邪魔で仕方がありません。電車やバスに乗るとき、いつもなら娘の機嫌のいい時や、混雑していない時間帯など、頃合いを見計らっています。が、今はそんなことは言っていられません。混雑した車内。次第に機嫌の悪くなり始める娘。あぁ、しんどい。夫がいてくれたからよかったものの、この状況を一人で乗り越えなければならなかったとしたら。ゾッとします。 なんとか娘をなだめすかしながら、バスは東上線の駅に到着。とても長く感じました。
東上線を乗り継ぎ、ようやく西武線のひばりが丘駅行きのバスに乗り、ホッとした頃。4歳の息子がポツリと、「おしっこ…。」慌ただしさにかまけて、息子のトイレのことをすっかり忘れていたのです。今度は息子をなんとかなだめすかしながら30分。おしっこを我慢させながら無事、バスは到着しました。あわてて近くのコンビニのトイレへ。混雑した車内、両親が娘の機嫌をとるのに必死なので、息子なりに気を使って色々と我慢していたのでしょう。すまない、息子よ。ちょっとだけ電車にのって、ご飯を食べて、公園で遊んで、夕方家に帰ろうと思っていたのに、気がつけば夜9時を回っていまし た。大河ドラマも見逃しました。
結局、西武池袋線は運転停止からおよそ6時間後の夜10時近くに運転を再開しました。練馬高野台駅あたりで時間をつぶして、再開した電車で帰ればもっと楽だったのかもしれません。しかし、そのときはいつ電車が動き出すのか全く分からなかったのです。困ったものです。
大変ではありましたが、振り返って考えると、今回はまだ良かった。なぜなら止まってしまった電車に乗っていなかったからです。あの午後4時すぎの落雷で西武池袋線の練馬高野台と東久留米の間で乗客の乗った5本の電車が停止し、うち3本は駅と駅の間に立ち往生しました。立ち往生した電車の乗客は最長で午後8時半頃までの4時間あまり、電車に閉じ込められたまま。東京消防庁による と 、東久留米駅近くで立ち往生した電車に乗っていた21歳の男性が、体調不良を訴えたため救急搬送し、軽症だったとのことです。
午後4時すぎといえば、雨が止んできて帰ろうと電車に乗っていたかもしれなかった頃。子ども連れで電車に4時間も閉じ込められるなんて。想像しただけでも恐ろしい。小さな子どもが4時間もトイレを我慢できるはずもありません。停電しているのですから、空調も止まったまま。暑い車内で飲み物もないとしたら。小さな子どもはグッタリしてしまいます。
飲み物と、携帯トイレ、それから懐中電灯。子連れで電車に乗るときは必要だと改めて感じました。携帯トイレはポリ袋と紙袋を重ねたものでもいいですし、大きめの紙オムツや生理用品でも代用できます。懐 中電灯は、携帯電話の種類によってライトの機能がついているものもあります。ですが、バッテリーのことを考えると懐中電灯は別に用意した方が良さそうです。携帯電話は大切な情報源。非常時、携帯の充電も思うようにできません。
あの震災の日。もっともっと大変な思いをして、子連れで家を目指した人がたくさんいました。オムツやトイレ、ミルク、離乳食。非常時、困ったこと、必要なものはたくさんありました 。子連れでの移動は、なるべく身軽で荷物を減らしたいものですが、飲み物、トイレグッズ、懐中電灯。そして余裕があればポケットサイズのおかし。子連れ移動の最低限の必需品です。
9月1日は防災の日。3月11日の東日本大震災から、半年が経とうとしています。あの時の記憶が薄れつつある人もいるかもしれません。まずは自分の身を守るにはどうすればいいか。今一度、考えてみてください。自分の身を守れなければ、大切な人も守ることはできないのです。
増子瑞穂
http://members3.jcom.home.ne.jp/massyweb/
●石神井公園駅。雷が落ちた日、真っ暗に。
●ホームが真っ暗だとしたら。小さな懐中電灯の明かりが転落防止に役立ちます。