NUDNimageNUDNとはimageID/PD分野についてimageお問い合わせ

image
partitionホームpartition芸術学部情報partitionデザイン学科情報partition学生作品partition卒業生作品partitionリンク集partitionメールマガジンpartition
image

増子瑞穂さんの「キャスター・マッシー通信」連載 - 97(12/31/2011)

「働くよろこび」

image

 ちょうど1年前のマッシー通信、冒頭を飾ったのは表参道のきらびやかなイルミネーションの写真です。今回のマッシー通信、写真は布でできた「クリスマスオーナメント」です。綿を入れたオーガニックコットンの周りを赤や緑の糸で縫ってあります。ちょっと不器用な感じの中にも温かみが伝わってくるオーナメントです。

2011年3月11日の東日本大震災。たくさんの命が失われました。そして、生き延びた人の日常生活も奪っていきました。仕事もその一つです。漁業をなりわいにしていた女性たちも、あの日まで何年も何十年も続けていた仕事を失いました。当たり前のように仕事をしていた毎日。朝起きて、慌ただしく支度をして、仕事場に向かって、働いて。あの日は金曜日でしたから、あと一日頑張れば週末ゆっくりできる、と思っていた人も多かったことでしょう。当たり前の日常を奪って行った地震と津波、そして原発事故。地震や津波からなんとか生き延びて、日々の暮らしが始まった頃。仕事を失ってしまったという現実を、まざまざと実感したときの不安な気持ちははかりしれないと思います。

このオーナメントは、そんな東北の女性たちが自らの手で作り出したモノです。「東北グランマのクリスマスオーナメント」という名前がついています。震災後、メディアにも何度か取り上げられたのでご存知の方もいらっしゃると思います。もとは漁師などをしていた女性たち。「ずっと男と同じに働いてきたんだよ。」「こんなゴツイ手で縫い物ができるかねえ。」と初めはとまどっていたといいます。チクチクチクチクひとはりひとはり、仲間と話しながら手を動かし、モノを作り出すことによって少しずつ気持ちも前向きになり、笑顔を取り戻していったそうです。その日一日、やることがある。働くことで生きる喜びを再び取り戻しました。しかし、本来の仕事に戻るには長い時間とたくさんの支援 が必要です。

今振り返ると、あの日までとても平和だったと思います。ちまたでは、「辛そうで辛くない〜ラー油」が流行し、店頭に並んでもあっという間に消えていました。震災後、気づけばブームは終わっていて、今は店頭にもたくさん並んでいます。消費者のニーズや意識が変わったのでしょう。「断捨離」という考え方に注目が集まり、不要なものを捨てる暮らし方がもてはやされました。震災後、店からあらゆるモノがなくなるという経験を多くの人がしました。備蓄の意識が高まり、それまでの「断捨離」という考え方は変わってきました。被災地では、これまで捨てられずにとっておいた毛布や衣類が役にたったという人も多かったといいます。私もあの日まで、オムツはなくなりそうになったら買い、トイレットペーパーなどは最後の1ロールになるまで買わなかったこともしばしばありました。買い置きなんてスペースの無駄だし、無くなったら買えばいいという考え方でした。今は、家族4人が3日間過ごすのに必要といわれる36リットルの水、食料、オムツ、非常時の持ち出し袋などを一カ所にまとめています。買い置きなんて邪魔だと思っていましたが、タタミ半畳分ほどのスペースにおさまりました。

東北の女性たちとは比べ物にならないとは思いますが、私も震災直後、仕事がぱったり途絶えました。震災により、番組やイベントなどがことごとく中止、あるいは延期になりました。フリーアナウンサーの辛いところです。夏が終わるころに、ようやく仕事も軌道に乗り始めました。あらためて仕事があることのありがたみを感じました。

仕事を失うというのは辛いことです。「東北グランマのクリスマスオーナメント」に象徴されるように、一人でも多くの方に、明日につながる生きがいを見つけてほしいです。朝、目が覚めたことをうれしく思える毎日が来ますようにと、心からそう思います。

今回も表参道はじめ、各地でイルミネーションが開催されました。これまでは輝き、きらめき、豊かさ、華やかさを象徴していたイルミネーションの光。震災後のイルミネーションに込められたのは、鎮魂、癒し、そして復興への願いでした。使われている電球は同じものなのかもしれません。ですが、光の表すものは全く違うものでした。今回のイルミネーション、たくさんの人の気持ちを慰めたことでしょう。

2011年。海外ではタイの洪水やニュージーランドの地震が発生。そして日本では東日本大震災、また紀伊半島の台風と、悲しみの多かった年でした。2011年から2012年へ。どうか喜びの多い年になりますように。

2011年12月31日
増子瑞穂
http://members3.jcom.home.ne.jp/massyweb/index2.htm

「東北グランマのクリスマスオーナメント」のサイト
http://grandmaproject.jp/

1年前のマッシー通信「サンタクロースが教えてくれたこと。」
http://www.nudn.net/maccy/85.html

あらためて、震災後のマッシー通信です。「あの日から。3.11東日本大震災」
http://www.nudn.net/maccy/88.html

ニコニコ生放送の仕事をしました。視聴環境にある方はぜひご覧ください。

「神の粒子」発見!?質量の源『ヒッグス粒子』の正体とは?
http://live.nicovideo.jp/gate/lv74325167

フリージャーナリストがみた震災復興の光と影
http://live.nicovideo.jp/gate/lv75328130









image
●雪だるま、くま。東北の女性たちが作り出したモノ。