■増子瑞穂さんの「キャスター・マッシー通信」連載 - 100(4/1/2012)
「子どもの命を守ること」
マッシー通信が連載100回目を迎えました。年月にすると8年5ヶ月。これまでに連載は2回、お休みしました。1回目は息子が産まれたとき。2回目は娘が産まれたとき。100回の間に、子どもが2人産まれました。100回の間に、大きな災害がありました。新潟県中越地震、紀伊半島の台風、東日本大震災。先日、東日本大震災から1年が経過しました。震災から1年と、連載100回。いろんなことを書いてきましたが、一番大切なこと。それは、「子どもの命を守ること」大きな災害からも、日常生活のほんのささいな出来事からも。
「誤飲」
0歳児で多いのが、誤飲による事故です。目安ですが直径39ミリ以下のものは誤飲の危険性があります。500円硬貨、ペットボトルのキャップ、意外に大きいものが赤ちゃんの口にすっぽり入ってしまいます。気道を塞いでしまい、窒息のおそれがあるのです。小さな子どものそばにはこれらのものを置かない。とはいえ、上の子がいると様々なおもちゃが入り乱れ、なかなか難しいのが現状です。もし飲み込んでしまったときのために、おもちゃは空気穴の開いているものを選ぶなどの工夫が必要です。子供用トローチの穴も、万が一飲み込んでしまったときのために開いています。笛のように音を出すためではないのです。そっと、愛情で、子どもの命を守るために開いています。
もちろん、親のタバコを飲み込んでしまうなんてもってのほか。それはまぎれもなく親の責任です。ライターを含め、タバコは子どもの手の届かないところへ追いやりましょう。
連載43「チャイルドマウス」http://www.nudn.net/maccy/43.html
連載71「3歳の節目から」http://www.nudn.net/maccy/71.html
「自転車用ヘルメット」
自転車は原則車道を走る、子どもを2人乗せるときは安全性に配慮された3人乗り専用の自転車を選ぶ、など。自転車をとりまく環境はここ数年で少しずつ変化しています。しかし、どれも定着するにはまだまだ。あいかわらず、人と車と自転車はごちゃごちゃ行き交っているし、3人乗り自転車の、まぁお高いこと。全くもって現実的ではありません。それでも最低限、子どもの命を守るのが自転車用ヘルメットだと思うのです。子どもにヘルメットをかぶらせないで自転車に乗せているのをよく目にします。幼稚園のかわいらしい園帽にいたっては、自転車通園時のヘルメット着用の妨げにすらなっていると思います。ほんの数千円で安全性が飛躍的に高まる。災害時にも役立つ。コストパフォーマンスの面 からも、日常時と災害時の併用性という面からも、子どもの命を守る非常に優れたモノだと改めて感じます。
震災以来、株式会社イエローの「タタメット」もメディアに数多く取り上げられていました。収納性と携帯性にすぐれた逸品です。http://www.tatamet.com/ いまだに、小学校、幼稚園、保育園は防災ずきんを用意しているところが数多くありますが、都市災害は上からガラスが降ってくるという特徴があります。そろそろ防災ずきんという発想はやめて、ヘルメットに変えていただきたいものです。ヘルメットのほうがガラスに強く、周囲の音が聞き取りやすいというメリットもあります。
連載53「3人乗り」http://www.nudn.net/maccy/53.html
連載55「きずあと」http://www.nudn.net/maccy/55.html
連載95「ピストってなあに」http://www.nudn.net/maccy/95.html
「オムツとトイレ」
子育てといえば、オムツ。毎日毎日、オムツ替えです。オムツが必要なくなったら子育ては次のステップに進んだといってもいいでしょう。
外出先で、オムツ交換台と洗面台が離れていることによって、子どもの命が脅かされていることについても触れました。オムツを替えたあと、オムツ交換台から、遠く離れた洗面台で手を洗っている間に子どもが落下してしまう事故に繋がっているのではないかと。オムツ交換台と洗面台は隣り合わせに設置してほしいものです。
そして、親も安心できるトイレの環境作りが、子どもの命を守ることにも繋がります。親がトイレに行きたいと思っても、安心して子どもを待機させておける場所がないのです。いわば放置状態。ベビーカーごと入れるトイレがなかったり、個室に赤ちゃんを寝かせておけるスペースがなかったり。ヒヤヒヤしながら、用を足している親がたくさんいます。親がヒヤヒヤしているということは、子どもの命が危険にさらされているということです。
連載41「ちょっと…」http://www.nudn.net/maccy/41.html
連載63「すぐそばに」http://www.nudn.net/maccy/63.html
連載83「やっぱり、トイレ」http://www.nudn.net/maccy/83.html
連載84「イクメンもトイレ」http://www.nudn.net/maccy/84.html
「震災」
これほどまでに、子どもの命を守ることを考えさせられたことはなかったでしょう。たくさんの子ども達が亡くなってしまいました。何年、何十年経とうと、この悲しみは消えないと思います。
震災直後のマッシー通信では小さな子どもと出かけるときの、普段からの持ち歩き品を紹介しました。
『母子手帳、水(※粉ミルクにも使えるもの)※粉ミルク、※プラスチック哺乳瓶、非常食、保険証・通帳等のコピー・家族との取り決めメモ、携帯ラジオ、呼び笛、ライト、携帯トイレ、ウェットティッシュ、そして、抱っこひも。(※は乳児対応)』
『保険証・通帳等のコピー・家族との取り決めメモ、ラジオ、呼び笛、ライト』は、携帯やスマートフォンの写真機能やアプリで済んでしまうかもしれません。しかし災害時、バッテリーは貴重です。無駄に充電を消費してしまわないよう、適宜使い分けすることも必要です。
抱っこひもは、歩くのがおぼつかない子どもがいるのならば、外出時の必需品です。震災の日、ベビーカーは子どもにとっても周りの人にとっても大変危険な存在になりました。ベビーカーは、エレベーターやエスカレーターが止まってしまった都心ではむしろ邪魔です。もし道路が寸断されたら。不便を通り越して、使用は不可能です。
母子手帳も大切なのですが、普段からの持ち歩き品にするには、現状の母子手帳は厚すぎます。緊急時に必要ない情報もたくさん盛り込まれています。発育や予防接種の記録など必要最低限の情報にとどめて、付加情報は別冊にするなどの工夫をしていただきたいものです。
母子手帳が必要な理由。それは、親に何かあったときのためです。親は、子どもに何かあったときのことばかりを考える生き物ですが、自分に何かあったときのことも考えなければなりません。もし、私に何かあっても、子どもと母子手帳がセットになっていたら、どんな子どもなのか他人にもわかります。予防接種情報、アレルギー情報、病歴などが書かれた母子手帳。これを見れば、自分がいなくなっても子どもがより安全に生きていけるのです。ですから、母子手帳は親の非常袋ではなく、子どもが持つ非常袋に入れるのが正解だと思います。
あと、携帯トイレ。持ち歩くのは面倒くさいですよね。でも、生理現象をフォローしておくのは精神面でも重要です。止まってしまった電車やエレベーターで、トイレに行きたくなってしまったら。恐ろしいですね。特に子どもは、喉の乾きも我慢できなければ、トイレも我慢できません。
また家の中でも、地震から子どもを守る有効な方法があります。家を免震や耐震構造にするなどの大掛かりなものではありません。家の中で倒れやすいものの代表「本棚」「タンス」「食器棚」の置き場所を考えることです。食器棚を、子ども達が食事するところへ倒れかねない配置にしている家庭は意外に多いもの。激しい揺れの中、とっさに身動きはとれません。ましてや子どもを抱きかかえようとするなど無理です。食器棚は収納されている食器の重さだけでも100キロ前後、これが倒れることに加え、中の食器が飛び出し、さらに食器棚の扉のガラスが割れる。食器棚には2重3重のリスクがあります。いっそのこと食器棚を置かないという選択も有効です。流しの下の収納にでも入れればいい。子育 てにそれほど多くの食器は必要ないのですから。食器棚の怖さというのを切々と説いて、家から食器棚を撤去した友人もいました。当然のことながら、寝ているところに本棚やタンスを置かない。言うまでもありません。ライフラインが機能しなくなる災害時、ほんの小さな怪我が命取りになりかねません。
家で2人の子どもといるとき。緊急地震速報が鳴ると、まず、もうすぐ2歳になる娘を抱っこします。その間に、気づけば5歳の息子は自分で自転車用ヘルメットをかぶっています。自分で自分を守るすべを少しずつ身につけているのですね。それでもまだまだ、大人、そして環境のサポートが必要です。
連載88「あの日から3.11東日本大震災」http://www.nudn.net/maccy/88.html
連載91「そのお皿、本当に必要ですか」http://www.nudn.net/maccy/91.html
連載93「夏の珍事」http://www.nudn.net/maccy/93.html
他にも。妊娠、授乳中はお酒を飲まない。子どもの近くでタバコを吸わない。成長に合わせたベビーゲートを使う。子どものための安全な製品を選ぶ。子どもといるときはゆとりを持って行動する。(毎年、電車とベビーカーの接触事故は後を絶ちません。)そして、心肺蘇生法やAEDの使い方を覚えておく。様々なことが子どもの命を守ることに繋がるのです。
連載100回を迎えるにあたって。これまでのマッシー通信を、ざっと読み返しました。特に、初めて妊娠を経験した連載31回目あたりからはじっくりと。日芸IDの先輩、後輩、同級生、ママ友に協力してもらったコラムもたくさんあります。改めて感謝の気持ちです。(特に先輩のパラダイス山元さんと、同級生の山本賢司くんにはよく登場していただきました。)
あの時あんなこと思っていたんだ。あんな風に感じていたんだ。大変そうだなぁ。と、なんだか泣けてきました。(自分が書いたものなのに)一生懸命、子育てしてきた姿が見えました。でも、みんなそうなんだと思います。毎日を、色んなことと向き合いながら、頑張って生きている。子どもの命を守りながら。子どもがいるからこそ、色々なことに気づかされる。
書く。それは、自分のためでもあるんだけど、いつか大きくなった息子と娘、そのまた子どもたちに、この経験を次の世代に繋げていってほしいという思いもあります。そして、日常を「ことば」にするものとして、少しでも多くの人に、何か伝えられたら。そう感じながら、マッシー通信、次回は100、たす、1回目です。これからも積み重ねます。どうぞよろしくお願いします。
2012年3月30日
増子瑞穂
http://members3.jcom.home.ne.jp/massyweb/index2.htm
追記:
毎回毎回、締め切りギリギリ、時には締め切りを越えて、筆の遅いマッシー通信につき合ってくださり、NUDNにアップしてくださる肥田先生。ありったけの感謝の気持ちを込めて。(また締め切りギリギリでも許してくださるかしら?)