■増子瑞穂さんの「キャスター・マッシー通信」連載 - 111(03/01/2013)
「保育園、足りないんだってば」
●3年分の「保育園入れませんでした通知」捨てずにいるとは私も執念深い。
2月、東京都杉並区。保育園の選考にもれた母親達が、区役所の前で抗議デモを行い、その後、区に対して訴えを起こしました。保育園に入れる、定員1035人に対して、2968人が応募。3分の2にあたるおよそ1800人が保育園に入れませんでした。保育園事情を知らない方は、倍率の高さに驚かれるでしょう。
私もかつて3年にわたり、子どもが保育園に入れない「待機児童」を経験。毎年この時期には、杉並区の多くの母親のように「保育園入れませんでした通知」を受け取り、途方に暮れていた一人です。このニュースを知ったとき、訴えを起こした母親達の勇気に驚きました。途方に暮れてる場合じゃない!と立ち上がったのですね。
少子化。ここ何年もニュースで耳にする言葉です。平成23年度の合計特殊出生率は1.39。子どもの数は105万人あまりでした。ベビーブーム、昭和48年の209万人に比べると、子どもの数はおよそ半分になっています。子どもが、少ない。なのに、保育園が足りない。なぜでしょう。不思議なハナシですね。
2月中旬、私が司会を担当したニコニコ生放送の番組「ニコニコ×朝日新聞 どうする?少子化・結婚の壁」でも、保育園問題についても、議論されました。
かつて、自営業者が多かった時代。保育園に預けなくても、家族や地域で子どもの面倒を見ながら仕事をしていた世帯が4割くらいいたそうです。国や自治体がこのことを前提に保育園の数を決めてしまい、今に至っているので、現状にマッチしていないとか。今は、外で働く母親、働かざるを得ない母親が増えたし、自営業でも子どもの面倒を見ながら仕事をするのは難しい。子どもの数は減っても、保育園を必要としている子どもの数は増えているのです。
これまで、「待機児童が存在する」ことへの問題意識が薄かった。行政サービスとして、保育園を増やし、保育園を無料化し、さらに保育園で働くという雇用も生む。また、保育園に入れる基準のあいまい さ、おかしさを、分かりやすくすることも必要だと、番組で議論が交わされました。
また、ベビーブーム直後の昭和50年に出生率が2.5を切りましたが、これは人口減少のサインなのだそう。37年も前に、人口が減っていく、少子化になることがわかっていたのに、国は何も手を打って来なかったという事実を番組内で知り、愕然としました。詳しくはぜひ、番組をご覧くださいませ。
3年にわたる私の待機児童問題が解消された理由は、2人目を生んだからです。自治体によって違いがありますが、保育園に入れるかどうかはポイント制で決まります。週に何日何時間働いているのか、子どもの数は何人か、病気を抱えているのか、親の介護をしているのか、一人親なのかなど、項目ごとに点数が加算されていきます。どれだけ保育園を必要としているのかという「忙しい親選手権」をくぐり抜けて、保育園に入ることができるのです。このようなポイント制なので、離婚して一人親の立場になってポイントを稼ぐ、というケースもでてくるほど。(一人親のポイントは格別高いのです)で、保育園に入れたあかつきに復縁、など。うーん。
私の場合は出産して子どもが増えたため、子ども1人分のポイントが加算され、保育園に入れたようです。でも、2人生んだからといって、必ずしも保育園に入れるわけではありません。子どもが2人になって、より働くのが難しくなって、保育園にも入れなくて、仕事を辞めてしまう、あきらめてしまう、ということもあり得るのです。(もちろん、1人目を保育園に入れるために、2人目を産んだわけではありませんけどね)。
保育園問題もそうですが、女性の雇用形態にも問題があると思います。子どもを生んで、産休、育休期間を終えるまでに復帰できなければ、仕事を失ってしまうのです。今回の杉並区のケースでも、保育園に入れなかったことによって、職場に戻れず、失業してしまう人が多くいます。
それも、おかしなハナシ。3、4年子育てしてからでも、再雇用してくれればいいのに。子育てしながら、仕事も緩やかに再開できる。最初は週に1日、が3日になり、ある程度子どもの手が離れたらフルタイムで働く。そんな社会だったら、小さいうちから、必死になって保育園に入れなくてもいい人も多いのでは?(もちろん、最初は収入が途絶えてしまう、という問題はありますが)。
または、これだけ待機児童問題が叫ばれているのだから、育休が1年、なんて現実的ではありません。それに正社員よりも、非正規で働いている人が増えているわけなので、そもそも育休なんてありませんしね。子どもを生んでも、仕事を続けたいならば、いつでも復帰できる。そんな世の中にならないと日本経済も安定しないのではないでしょうか。
また、子育てをしている期間が「ブランク」と、とらえられがちなのもどうかと。だって子育ては、アタマをフル回転させる仕事。食事の世話して、下の世話をして、家事をして、遊びの相手をしつつ、地域とのつながりも持ちつつ、なにより「24時間子どもの命を守る」という大きな柱が中心にある。もう子どもが寝たあとの疲労感といったら…。
そんなクリエイティブな肉体労働をしているのに、子育て期間を「ブランク」と片付けて、再就職のハードルにしてしまう社会もどうかと思います。人としては成長しているのに。
子育てしていると、辛抱強くなるし。24時間、言葉も通じない、コミュニケーションがとれない人間を相手にしているので、それに比べたら、多少イヤなヤツでも気にならなくなります。だって、言葉通じるし。(気持ちは通じないかもしれないけれど)。子どもを育てると、もれなく忍耐力や包容力がついてきます。これって、仕事にも必要なことでしょう。
保育園も増やすし、もし保育園に入れないなら保育園に入れるまで待つよ、子どもが小学生になってからでもいいし、いつでも戻っておいでよ、という社会になってほしい。このままでは、子どもの数は増えないですよね。今の若い人、こんなニュースばっかりでは、子どもを作る気にならないでしょう。
杉並区の母親達の姿は、社会に対して、かなりのアピールになったのでは。みんな小さい子どもを抱えて、日々世話をするだけでも大変だろうに。素晴らしい勇気と行動力です。まさに、今の日本に必要な労働力だと思いませんか。
2013年2月28日
増子瑞穂
twitter.com/massykachan
「ニコニコ×朝日新聞 どうする?少子化・結婚の壁」
http://live.nicovideo.jp/watch/lv124793351