■増子瑞穂さんの「キャスター・マッシー通信」連載 - 114(01/06/2013)
「女性手帳、配布、やめるってよ」
5月上旬、「生命と女性の手帳」(仮称)、通称「女性手帳」なるものの配布が検討されていると報道された。森雅子少子化担当相議長による有識者会議「少子化危機突破タスクフォース」が提案したものという。
10代のうちから、女性の身体のメカニズムや将来設計について啓発するためで、医学的に30代前半までの妊娠・出産が望ましいことなどを周知し、「晩婚・晩産」に歯止めをかけるのが狙いだったという。
つまり、子どもを産むのは若いうちの方がいいよ、ということを、10代のうちに「手帳」のカタチで教えてくれるという。
「女性手帳」なんだか気持ち悪い、が第一印象。「女性」と名前がつくことも、「手帳」で管理されることも、違和感。当然ながら、ネットを中心に批判が続出した。Twitterでも「#女性手帳」「#女性手帳にno」で検索すると様々な意見が。
「こんなことをするより、産婦人科を増やし、待機児童問題を解消し、出産子育てを選んだ場合の問題をなくすことが優先」「妊娠、出産に何十万もかかることがまず問題」「少子化は知識が足りないから起きているわけではなく、むしろ育児にどれだけコストがかかるのか知識があるからこそ産みたい人も産めない。手帳作る金があったら育児支援にまわせ」「はなから出産することを、国のため、少子化のため、と決められているのが腹立たしい」ごもっとも。
少子化危機突破タスクフォースはその後、「妊娠や出産という女性の人生の選択を国が押しつけることはない」「男性にも配布予定」「希望者だけに配布する」「報道されている内容には誤報が多い」と、ひとつひとつ批判の火を消すように、女性手帳は全体像を変えていった。そして、5月下旬、配布は見送られることになった。つまり、やっぱりやめます、と。ひと月の間に、提案され、批判され、検討され、見送られる結果に。展開が早い。ネット時代ならでは。
批判の声にもあるように、子どもを産むんだったら早い方がいいってみんな知ってる。(漠然とかもしれないけど)何歳になっても子どもが産めると思ってるから、晩婚、晩産になっているわけではない。安心して子どもが産める環境ではないんだもの!みんなそれを知ってるんだもの!
私が最初の子どもを産んだのは33歳。結婚後も、昼も夜も関係なくずっと仕事をしてきた。仕事が好きだったから。フリーランスのアナウンサーという立場もあって、子どもを産んでからも仕事を続けられるという補償もなかった。子どもを作ることになかなか踏み切れない。それでも子どもはいつか欲しい。妊娠して、出産した。(今考えるとそれはものすごく恵まれたことなんだけど)出産1ヶ月前まで働いていた場所には戻れなかった。でも仕方ないと思った。保育園に申し込んだが、入れなかった。3年待機児童を経験しながらも、仕事への復帰、2人目を作るかどうするか、色々悩んだ。仕事に本格的に復帰したら、2人目は難しいかもしれない。2人目を作ったら、仕事への本格的な復帰はますます 難しい。それでも、産める期間にはリミットがある。そう思って37歳のときに2人目を妊娠、出産した。(これもとても恵まれていること)
子どもを2人産むのに立ちはだかったのは、知識のなさ、ではない。仕事復帰の難しさ、保育園の空きのなさ、夫は仕事が忙しい、頼れる親もいない中での子育て。(孤育て)。むしろ、知識があって色々な状況がよめるからこそ、なかなか出産に踏み切れなかったのだ。「あぁ、もっと若い時に女性手帳をもらっていたらもっと早く子どもを作ったのに」とは絶対に思わなかっただろう。報道から見えてきたような、女性手帳が教えてくれたであろう知識など、あってもなくても同じだ。
この女性手帳。母子手帳の良さを参考にして提案されたともある。でも、母子手帳とはそもそも目的が違う。母子手帳は妊娠してから手にするもの。つまり、「これから子どもを産む」という共通した状況で手にする。
産婦人科医が妊娠の経過を診るものであり、女性本人がお腹の中の子どもの成長を知るものでもあり、無事に子どもが産まれたら子どもの成長記録になる。余談だが、災害時、母子手帳は子どものリュックに入れて、子ども達自身に持たせようと思っている。その子の記録だから。もし私に何かあったとしても、母子手帳と子どもがセットなら、その子がどんな予防接種を受けて、どんな病歴があるかわかるから。そのためのものなのだ。
でも女性手帳は。結婚したい人もいれば、結婚したくない人もいる。子どもを産みたい人もいれば、産みたくない人もいる。産みたくても産めない人もいる。心と体の性が一致しない人もいる。そんな人をひとくくりにして配布するのは、ちょっと乱暴なハナシではないか。街中で、キャバクラのティッシュをもらうような違和感。私がもらっても…。(まぁ、いただいておきますが)。女性手帳、無理矢理配られて傷つく人もいるだろう。
ただし女性が、排卵周期など自分の体のことを知るのはとても大切。子どもを産む、産まないに関わらず。カラダとは一生付き合っていくのだから。更年期だって待っているのだから。若い女性で、まつげのエクステやネイルサロンには行くのに、自分のカラダのケアのために産婦人科に足を運ぶという人は少ない。まつげや爪先だけではなく、カラダの中にも目を向けてほしい。排卵に対する知識が男女ともに低いのも事実。
子どもの頃、「女の子はお腹冷やしちゃいけないよ」と教えられて育ったけど、なぜなのかはわからなかった。ただ、漠然とそういうものなんだど思ってた。「お腹の中には赤ちゃんを産むための卵がいっぱい詰まっていて、それは大きくなるにつれてちょっとずつ少なくなっていくから、大切にしなくちゃいけないんだよ。だから冷やさないようにあたためておいてあげようね。」と娘にはちゃんと伝えようと思う。息子にも。それでも子どもを産むか産まないか、決めるのは子ども自身。自分で判断ができるようになるまで、親としてできることをしたいと思う。女性手帳が教えてくれなくても、大人から子どもへ伝えていけばいいことだと思う。
それでも女性手帳、どんなものになるのか、ちょっと興味はあった。表紙のイラストは誰が書くんだろう、とか。西原理恵子だったら面白いな、とか。あ、でももう私には配ってくれなかったか。現実になっていたとしても、ほんの数年で廃止されそう。女性手帳、あぁ、あったねぇ、そんな時代。みたいな。白紙になったのか、誤報だったのかよくわからない幕引きですが、女性手帳を作るお金と労力があったのだとしたら、安心して子どもを産める環境作りにまわしてください。お願いしますよ、もう。
2013年5月31日
増子瑞穂
https://twitter.com/massykachan