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増子瑞穂さんの「キャスター・マッシー通信」連載 - 132(03/12/2014)

「はやぶさ2、ようやく宇宙へ!」


●初代はやぶさ実物大模型(今秋、宇宙博にて)
 どこかにはやぶさ2の実物大模型ないかな。

 12月3日午後1時22分4秒、はやぶさ2がH2Aロケットに乗って、鹿児島県種子島宇宙センターから打ち上げられました。
天候不良で打ち上げが2度延期されて、ようやく。素晴らしい打ち上げでした。胸が熱くなりました。
H2Aロケットの両サイドについていたブースターの切り離しも、雲の切れ間から生中継で見ることができました。
そして同日午後3時10分頃、はやぶさ2はH2Aロケットから切り離され、太陽の周りを回る軌道に入りました。これによって打ち上げ成功です。
はやぶさ2のミッションは、小惑星1999JU3のカケラを取って、地球に戻ってくることです。

現在確認されている小惑星は、41万個ほど。その多くは火星と木星の間にありますが、地球と火星の間にも1万個ほど小惑星があるそうです。
ちなみに惑星の並び順は水星、金星、地球、火星、木星、土星、天王星、海王星。冥王星は2006年に惑星からはずされましたね。
地球に近い小惑星のひとつが、初代はやぶさが到着したイトカワ、そしてはやぶさ2が目指している1999JU3です。
小惑星1999JU3、正式な名前はまだついていません。イトカワも、もともとは1998SF36という名前でした。
どんな名前がつけられるのかも楽しみです。

小惑星探査機初代はやぶさは2003年5月、鹿児島県内之浦宇宙センターからミューファイブロケットに乗せられ、打ち上げられました。
正確には、このとき探査機はまだ、はやぶさという名前ではありませんでした。ミューゼスシーという仮の名前。
打ち上げ後、それまで折り畳んでいたソーラーパネルを開き、太陽からのエネルギーをもらって自分の力で飛べるようになって、
はやぶさという名前が与えられました。空から舞い降りて、獲物を一瞬でかっさらう鳥、はやぶさが由来です。
名前の通り、探査機はやぶさのミッションは小惑星イトカワのカケラを一瞬で取り、地球に持ち帰ることです。

ソーラーパネルを開いたはやぶさは地球を追いかけながら太陽の周りを回る軌道を飛びつづけました。
打ち上げから1年後、はやぶさは地球スイングバイという方法を使って、イトカワに向かうコースに入りました。
地球スイングバイとは地球の重力と、太陽の周りを回る公転速度を利用して、探査機のスピードと向かう方向を変える技術です。
つまり、地球の重力という見えないヒモではやぶさを引っぱり回して、パッと行きたい方向にはやぶさを放り投げる、という感じでしょうか。
1年間地球を追いかけながら太陽の周りを回る軌道を飛んでいたはやぶさは、こうしてイトカワを追いかける軌道にお引っ越ししました。
なかなか荒っぽいお引っ越しです。

打ち上げから1年4ヶ月後、はやぶさはイトカワまで1000キロメートルのところに来ました。
小惑星イトカワはラッコのようなくびれのある形で知られていますが、これははやぶさが近づいてようやくわかったことです。
それまで大型電波望遠鏡での観測では、イトカワはジャガイモのようなでこぼこがある横長の形、としかわかっていませんでした。
近くまで行かないと小惑星の正確な形すらわからないんですね。
イトカワまで20キロメートル、はやぶさはイトカワと同じ速さで飛べるようになりました。
つまり、イトカワから見ると止まっているように見える状態です。
小惑星と探査機が同じ速さで並んで飛ぶことをランデブーというそうです。なんだかラブラブです。

ここからはイトカワへの着陸練習。ターゲットマーカーという玉をイトカワに落として、それを目印に着陸練習をします。
イトカワの重力は地球の10万分の1。イトカワに何か物を落としても、跳ね返って宇宙の彼方へ飛んでいってしまいます。
それを解決したヒントはお手玉。ターゲットマーカーの中はプラスチックのビーズが入っていて跳ね返る力を吸収します。
重力の小さいイトカワに落としても跳ね返らず、お手玉のようにボスッと地面にとどまる仕組み。素晴らしい。
しかし、ここで残念なことが。3回目の着陸練習のとき、はやぶさからミネルバという小型ロボットを切り離し、イトカワに着陸させる予定でした。
ミネルバはイトカワの表面をピョンピョン飛び回りながら、3D写真を撮影したり温度を計ったりする、手のひらくらいの大きさの小型ロボットです。
しかし、イトカワに着陸することなく、そのまま宇宙へ。
ミネルバははやぶさのソーラーパネル部分を撮影していました。この画像は地球に送られました。
ミネルバはプレゼントを残して、今も宇宙のどこかを旅しています。

打ち上げから1年半後。はやぶさ、いよいよ着陸本番。
サンプラーホーンという長さ1メートルの筒状の装置を伸ばして着陸します。
着陸とはいえ、イトカワの表面に到達して1秒後には離陸しなければなりません。
イトカワの表面温度が100度もあるからです。たった1秒の間に、イトカワのカケラを採取しなければならないのです。
方法は、サンプラーホーンから弾丸をイトカワに発射、その衝撃で舞い上がったカケラをハヤブサ内部のカプセルに収めるというもの。
しかし、弾丸は発射されず、はやぶさはバランスを崩し、イトカワに2回バウンド。
地球から緊急離陸の指令が伝わるまではやぶさはイトカワに30分も不時着していたようです。
数日後、2回目のトライ。今度はうまく着陸して1秒後に離陸。
しかし、今回も弾丸は発射されずイトカワのカケラが採取されているかどうか、わかりませんでした。
さらにエンジントラブルが起き、はやぶさは広い宇宙で迷子に。46日間にわたって、日本との通信が途絶えました。
地球に戻れる時期も2007年から2010年へ、3年も伸びてしまいました。

トラブルに見舞われながら、2010年6月、打ち上げから7年後。はやぶさは地球に帰ってきました。
でも、戻ってきたのはイトカワのカケラを入れるカプセルだけです。
大気圏突入に耐えられるカプセルだけを切り離し、はやぶさは大気圏で流れ星のように燃え尽きました。
オーストラリアのウーメラ砂漠に着地したはやぶさのカプセル。その後の調査で、イトカワの微粒子が入っていたことがわかりました。

この初代はやぶさの技術を生かし、はやぶさ2は改良されています。
はやぶさ2も、地球スイングバイを行うなど、はやぶさとの共通点がありますがいくつか違いもあります。
まず、目指す小惑星のタイプが違います。
イトカワは岩石でできていますが、1999JU3には生命の源、有機物や水が岩石に含まれていると考えられています。
この1999JU3のカケラを調査することによって、生命の源の謎が解き明かされるのではないかと期待されています。

また、サンプルの採取方法。はやぶさでは弾丸を落としてカケラを採取しようとしましたが、はやぶさ2は弾丸を落とすだけではありません。
小惑星の表面に銅製の弾丸を打ち込みます。小惑星を爆破するといってもいいでしょう。
放射線や太陽光で風化している表面を爆破し、直径数メートルの穴をあけます。
そして削った穴にサンプラーホーンを伸ばし、弾丸を落として小惑星の内部からカケラをとろうとしています。

そして、初代はやぶさではどこかへ行ってしまった小型ロボット、ミネルバ。
今回は複数搭載されています。今度こそ小惑星に舞い降りて、表面の調査をしてくれることでしょう。

さらに、美大卒(いちおう)には気になるところですが、アート作品も一緒に打ち上げられました。
アート作品を宇宙に浮かべ、地球と宇宙の繋がりを感じようという試み。
素敵ではありますが、初代はやぶさの様々なトラブルを思い出すと、そんな余裕あるのだろうかと心配になってしまいます。

はやぶさ2が1999JU3に到着するのは4年後の2018年。
地球に帰ってくるのは東京オリンピックも終わった6年後の2020年冬の予定です。
今回は迷子にならず、予定通りに帰ってきますように。
そして、イトカワのときよりもっと多く、もっと大きな1999JU3のカケラを集めてきますように。
はやぶさ2、いってらっしゃい!

2014年12月3日 はやぶさ2打ち上げの日に
増子瑞穂
https://twitter.com/massykachan

参考文献
○「はやぶさ」がとどけたタイムカプセル
山下美樹・文 的川泰宣・監修
○おかえりなさいはやぶさ
吉川真・監修
○小惑星探査機「はやぶさ」大図鑑
川口淳一郎・監修
○ラクラクわかるはやぶさのしくみ
京極一樹・著

○ニコニコ日本科学未来館チャンネル
はやぶさ2、宇宙へ!
http://live.nicovideo.jp/watch/lv201510271