■増子瑞穂さんの「キャスター・マッシー通信」連載 - 143(02/11/2015)
「2015ノーベル物理学賞」
●日本科学未来館にあるスーパーカミオカンデの展示。梶田さんご本人監修とのこと。
2015年のノーベル物理学賞に、東京大学宇宙線研究所所長の梶田隆章(かじたたかあき)さんが選ばれました。日本人でノーベル賞を受賞したのはアメリカ国籍を取得した人を含めると24人目、物理学賞では11人目です。去年、青色LEDで日本人が物理学賞を受賞したことが、まだ記憶に新しいです。
今年のノーベル物理学賞の受賞テーマは「ニュートリノが質量を持つことを示すニュートリノ振動の発見」です。
小学三年生の息子にもわかるように、このニュートリノとニュートリノ振動について。(がんばります)
まず、大前提として。私たちはみんな粒でできています。人間も猫も、宇宙のあらゆるものが小さな小さなつぶつぶの集まりです。
ニュートリノとは物質のもとになる基本的な粒子、素粒子のひとつ。とってもとっても小さくあらゆるものをすり抜けてしまいます。私たちの体にも1秒間に100兆個のニュートリノが通過しています。今、この瞬間も。どこにでもあるけれど、わからないことが多いナゾの物質です。
このニュートリノの発見に成功したのは小柴昌俊さん。2002年にノーベル物理学賞を受賞しました。今年ノーベル賞を受賞した梶田さんは小柴さんの教えを受けた一人、いわばお弟子さんです。
ニュートリノの性質を詳しく調べるため使った装置がスーパーカミオカンデ。岐阜県飛騨市神岡町の地下1000メートルに作られた観測施設です。ニュースでもよく耳にしましたが、地下1000メートルってすごいですよね。といっても平地ではなく池ノ山という山の山頂から1000メートル下に作られているので、「地下深く」よりも「山のお腹の中」と表現したほうが子どもはわかりやすいかもしれません。地下というとどうしても普段自分が生活しているところより深いところを想像してしまいます。
施設は直径39メートル高さ41メートルの円筒形。壁一面におよそ1万1300個の高感度のセンサー、光電子増倍管(こうでんしぞうばいかん)がとりつけられ、装置は5万トンのきれいな水で満たされています。
飛んできたニュートリノが水と反応したときにわずかな光が出ます。それをとらえることでニュートリノが飛んできた方向や時刻を正確に把握することができます。このわずかな光はチェレンコフ光(ちぇれんこふこう)と呼ばれていて、青白い光なのだそう。スーパーカミオカンデの10分の1の模型と光電子増倍管の実物大が、お台場にある日本科学未来館に展示されています。
ニュートリノはずっと重さがないと考えられていました。梶田さんは、飛んできたニュートリノの様子を詳しく観測していました。観測を続けているうちに、上空から飛んでくるニュートリノよりも、地球の裏側から地球を通過してやってくるニュートリノの数の方が少ないことがわかりました。なんでこんなことが起きるのか。地球の直径分長く飛んでいる間に別の種類のニュートリノに変化するからでは、だから観測できないのではないか、と考えました。
ニュートリノには3つの種類があります。ニュートリノが別の種類のニュートリノに変わることをニュートリノ振動といって、ニュートリノに重さがある証拠になるのだそう。(あぁ、このへんからかなり難しく…)
その後、ミューニュートリノという種類のニュートリノが別の種類に姿を変えている様子の観測に成功し、ニュートリノ振動が本当に起きていることを世界で初めてつきとめました。つまりニュートリノには重さがあることが証明されたのです。1998年のことです。ニュートリノには重さがないと考えられてきたのに、重さがあるということに世界中の研究者がびっくりしました。
この研究成果から、2015年ノーベル物理学賞を受賞しました。研究の発表からノーベル賞の受賞まで20年近く、ずいぶん経っています。
「ニュートリノに重さがあることがわかったら何の役に立つの?」それは宇宙誕生の秘密がわかるかもしれない。
「じゃあ、宇宙の誕生のことがわかったら何の役に立つの?」難しい…。わからない…。
でも宇宙の誕生をはじめ、わからないことはいっぱいあって、そのうちのひとつがわかるようになった。それを続けることでこの地球も宇宙もいろいろな不思議がわかってく。わからないことを知るのは楽しいし、わからなかったことを発見をするのはこれからのあなた達なんだよ、と小三息子に伝えておきました。青白い光を放つスーパーカミオカンデの模型のそばで。
2015年10月31日
増子瑞穂
https://twitter.com/massykachan
関連コラム、2014年のノーベル物理学賞について
http://www.nudn.net/maccy/131.html
スーパーカミオカンデ公式サイト
http://www-sk.icrr.u-tokyo.ac.jp/sk/index.html
参考文献
日本科学未来館コンセプトブック(平成14年発行)
文芸春秋2013年9月号
「カミオカンデ反対を押し切った大改造」小柴昌俊
「宇宙はいかに始まったか」梶田隆章
●スーパーカミオカンデ10分の1の模型に入る。青白い光。
●光一個分の本当の大きさ、本物はこれが1万1300個も!