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清水教授のデザインコラム/連載 - 119(12/01/2012)

ジヤパンブランドの復活―外界に眼を向けて・・・・

 新世紀のエポックメーキングなデザインi-pad、そしてi-phone G4が相次いで発表され、ステーブ・ジョブスの強烈な個性とその信念が生みだしたものとして話題になっていた。その頃、日本製品の「ガラバゴス化」が指摘されていた。
その、「ガラバゴス化日本製品」がいままたテレビの特集番組(未来世紀ジパング12/11・27)として放映されていた。
外界を閉ざした「ガラバゴス諸島」には孤立した環境に順応し独自の進化をとげた生物が数多く生息している。一見グロテスクな彼らも、じつは外敵にはめっぽう弱く、絶滅が懸念されてもいるのだとか。技術やデザイン、サービスなど、自国の市場ニーズに応えて独自の進化をとげ世界の市場からは取り残されている日本の姿が重なるのだ、とか。
「日本の製品」、「日本という国」、「日本人」のガラパゴス化・・・。その製品の典型が「携帯」なのだと・・・。
日本の「携帯」は、機能もサービスも世界の最先端にあるが、「通話のみ」で十分という新興国市場の圧倒的なニーズには折り合わず、韓国や中国などの低価格攻勢に苦境に立たされている。
当時、世界シェアの断トツがノキア(フィンランド)、次がサムスン(韓国)、モトローラ(米国)、LG(韓国)であり、日本製品はソニーが5位、シャープ、パナソニック、富士通、日立、東芝、NEC、カシオ、京セラ8社を合計しても10%に過ぎなかった。
「ガラバゴス化」は「よりよい質」を求める日本人の「感性」であり、「こだわり」でもある。
さらに、市場のシェアをせめぎ合う他社を意識し、デジタル世代の若者や女性をターゲットユーザーとして捉え「楽しさ」や「面白さ」を商品コンセプトとしてデザイン発想のフレームとしていることにもよる。
「通話する」モノとしての基本的な性能ではなく、あくまでもゲームやカメラなどを組み合わせた複合機器であり、ユーザーの欲望を満足させた進化ということだ。
世界の携帯よりも性能は飛躍しており、比べてもレベルが高いのだという思い込みがあり、それ以下の性能商品が日本市場に投入されても上手くいくはずがないという考えが、それらの問題を生み出しているのだともいえる。

ガラバゴス化が云われる中で形骸化した方法論、見せかけのコンセプト、環境問題などの諸条件・・・など。余りにも多いしがらみは『わくわく感』を捉えるべき発想、デザイナーの感性をも萎えさせてしまうことになる。
常識としての方法論や方程式には常識を超える発想のひらめきは生まれない!
瞬時も止まることのない時代の情報をすべて数値化し反映しようとするとき、独自に評価し得る基点を持たねば意味をなさないことになる。

かって国際社会での日本の立場はいまや韓国や中国企業にとって代わられているようにみえる。
しかし、ガラバゴス化と言われようと、なによりも独創性を持って発想し熟考する多くの時間を持つべきなのだ・・・。自らの経験を経たデザイン力こそが大切にされなければいけない。
単なる『足し算』的発想ではなく、生活・使用者のニーズを超えて発想される日本人としての確かな感性と心を「デザイン」に活かすことだろう。
もちろん、わが国がもつ優位性、品質や技術力、デザイン力などを競う強い意志を持続させることこそが「Made in Japan」としての評価を確かなものにするはずだ。
デザイナーには一層の発想力、しがらみや常識を突き抜ける自在で奔放なアイデアを期待したい。『技術の革新力』、『デザイン力』こそが次代を創り、我が国存続の生命線にもなる!」(デザインコラム95『ガラバゴス化する製品? デザイン?』2010/7・31 記)

あの日からはもう2年余月が過ぎたが、「ガラバゴス化」というキーワードはいつも私の脳裏にあった。そのテレビの特集番組「未来世紀ジパング」の放映に、その後の過程をたしかめるために、かつて記載した「コラム95」を読み返してみた。
ただ、我が国にはこれまでにも一定の市場規模が単独でも成立していた。
さらに、高い質を要求するユーザーの心を捉えるためにせめぎ合う環境があり、競合する他社を意識しながらデジタル世代の女性や若者をターゲットユーザーとした斬新なアイデアがガラバゴス化していると見られたものだろう。
しかし、この市場で生き残るためのアイデアや戦略が独自の進化につながっていても、日本人の感性、行き届いた高水準のサービスは、先進諸国の市場ニーズにも十分応えるものにもなっているのだ。また、それは新興国市場のユーザーにとっては次世代製品となるもので、憧れともなるものなのだ。
ガラバゴス化の反省はいま再び、広い外界に眼を向け行動をおこしたことである。
それらのニュースは、ひたすらジャパン・ブランドの復活を信じる私にとっては嬉しく、誇らしいことだ!
更に言えば、我が国の周辺海域に埋蔵する資源の存在が明らかになったこと。その開発がもくろまれていることは未来の可能性の「明るさ」だろう。
                             (2012/11・30 記)
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メモ:
●その折の「コラム:95」のメモに記載したものだが・・・。
我が国のあらゆる製品。車や家電製品はもとより自転車、車いす、サングラス、捨てられた鉛筆やボールペンなど、そのガラバゴス?といわれる「もの」は、使用廃棄された後でもアジアやアフリカ諸国などに送られており、人々の感謝と子供たちに夢を与えてもいるのだとか・・・。
優れて高品質であることの証しであり、「日本製品」が世界で通用することを確信させるものだ。
●いま、世界の各地では日本のベンチャー・中小企業が独自技術による食品加工ロボットを開発して日本食ブームを巻き起こしているのだとか。

@ パリの教室風景を変えた日本製ペン「フリクションボール」 
日本の技術を生かし、フランスで広く受け入れられた水性ペンがある。
熱すると透明になるインクを使い、ペン後部のゴムでこすると摩擦熱で消えて書き直せる。一人の男の子が説明してくれた。「万年筆は1回しか消せないし、でも、フリクションなら何回でも消せる」。欧州ではフランスに限らず、力の強弱で文字の線を美しく書くことができる万年筆を使う。ボールペンは教室での使用が認められず(?65年に解禁)、鉛筆は主に絵を描くときに使うらしい。
万年筆で書き間違えると、インクの色を消す特殊なペンと、その上に書く専用ペンが必要に。この2種類のペンが両端についた一体型修正ペンは子どもたちの必携品。だが、一度書き直した後の再修正はきかない。
パイロット・フランスCEOのマルセル・ランジャール氏は、新型インクを使ったペンの開発を知り、「売れる!」と直観したのだとか。教室の学習風景を思い起こしたからだ。
「書く、消す、書き直すの三つが1本で済む。しかも何度でも・・・」。
直観は確信に・・・。日本に先駆けて?06年に売り出すと、?10年までに約4300万本が売れた。全世界では累計約3億本にのぼるのだとか。
フランスは、ボールペン市場で世界一のシェアを誇るビックの本拠地。教室での使用を働きかけた先達でもある。
インクはパイロットインキが30年をかけて開発した。開発者の千賀邦行氏は「フランスでこんなに求められるなんて想像もしなかった」と。また、ランジャール氏は「海外のニーズから離れて技術開発を進めてしまう『ガラパゴス症候群』に陥らずに済んだのは、国境をまたいだ連携のおかげ」と回想する。
A 広がる世界市場・日本の高機能品、どこまで通用
パイロットインキが、温度で色の変わるインクを発明したのは1975年のこと。だが長い間、その用途はビールの飲みごろが分かるグラスなど文具以外のニッチ商品に限られていた。
開発者の千賀邦行氏は、86年の入社以来、このインクの開発に関わり、「いつかこのインクでペンをという思い、しかし難題も多くなかなか実現しなかった」と。
例えば、温度を上げて色を変えても、温度が下がると簡単に元に戻ってしまう。ペンに適した成分を見つけるまでに合成した化学物質は約1000種類に。
その結果、65度で消えたインクがマイナス20度まで元に戻らないところまで改善し、2006年に発売。
フリクションだけではない。日本の筆記具メーカーは、その技術力を生かして高機能の新製品を出し続けている。しかし、ビックCEOのマリオ・ゲバラ氏は、「南米で革命があろうが、インフレがあろうが逃げなかった。何十年もかかって築き上げてきた成果だ」と話す。「途上国では今後、識字率も上がり、人々がより良い教育を受けるようになる。文具もより多く使うようになる」全世界でボールペンなど文具を1日に約2400万個売り、欧州だけでなく、アフリカ、南米などでシェア1位に。ビックの主力製品はいまも、クリスタルや、黄色い軸で日本でも有名な1961年発売の「オレンジ」。新製品開発には日本メーカーほど熱心ではない。しかし、そのシンプルで安価な製品を武器に、売上高の約3分の1を途上国でたたき出しているのだと。
日本メーカーも国内から海外市場へ。パイロットが6割強を欧米に、三菱鉛筆も4割強に達する。しかし、縮小する先進国市場から安い製品があふれているが、人口増の発展途上国市場へ。得意の高機能品をグローバル競争にどう生かすか・・・。        

(12/11・26『未来世紀ジパング』文房具)