■清水教授のデザインコラム/連載 - 122(02/03/2013)
スケッチは、あらかじめ紙面の広がりを捉えたなかに自らのイメージしたカタチをおき、辺りをつけたところから一気に線を描き入れる・・・!
線は手の動きに一定のスピードを加えることが必要で、到達点を通過する勢いで引くことだ。
頭でイメージする形に線を引くわけだが、うまく重なる線が引ければそれは常日頃からの練習のたまもの。その繰り返しが大切なのだ。
自らイメージするモノが自在に表現できるとしたら・・・。
1枚の紙が自在な形をした宇宙船が飛び交う壮大な宇宙空間にも・・・。これは私が描く想像の未来世界!
・・・・・
ところで、「デザイン画にも、野球や剣道のように‘素振り’があるらしい。工業製品デザイナー山中俊治さんの著書に教わった♦仕事にかかる前、山中さんは1枚の紙を<○>で埋め尽くす。まずはペン先を空中でぐるぐる回し、軌道が安定したところでふわりと着地させる(『デザインの骨格』日経BP社)。これを繰り返すのが、すぐれたスケッチを描くためのウオーミングアップという♦機能を併せ持つ美しい車の流線形や,未来的なロボットの造形を生みだす手前には、無数の円という基本練習の反復があったのだろう♦プロ野球のキャンプが始まり・・・後略」(読売新聞「編集手帳」2013/2.3)
プロ野球のキャンプの始まりに、多くのルーキーにもプロの世界の厳しい<○>を授けられたのだろうと・・・。そんな記事だった。
野球に限らず、まもなく多くのルーキーデザイナーがそれぞれの新らたなステージに立つことになる。そんな季節、デジタル時代の彼らにも<○>をウオーミングアップすることはあるのだろうか、と改めて考えさせられている。
山中氏は「デザイナーとして日産自動車に採用され、新人教育の合宿で美大出身の同期生が見事に楕円を描いているのを見て目を見張ったのだ」と、その著書に述べている。工学部出身の氏が「初めて覚えたデザイナーの『技』で、工業製品をちゃんと描くためには円および楕円は基本です」と。今も初心に返り「スケッチを描く前には1枚の紙を楕円で埋めつくすところからはじめる」のだとも・・・。
円や楕円もあるが氏の強みは、学生時代に興味を持ち描いていたという「運動する人間」のスケッチ・・・。それは画家や彫刻家が追い求める「人体のモチーフ」にも通ずるもの。やわらかく自在な表情を見せるスケッチ力に少なからず驚かされてもいた。
・・・・・
まさにいまはネットの時代であり、だいぶ事情も変わってしまったということだろうか。コンピューターを駆使し、マニュアル化した方法論でアプローチすればよいと考える人が多くなったように思う。美大・デザイナー志望者にも、スケッチを苦手にしている者が多くなっている。あきらかに、PCに依存する心が強く働いているものだろう。自ら「何か」を考える意識や意欲をすら失なっている。
課された「問題」にも、取り掛かりが遅い。これまでの成長過程での体験、問題を類推する知識がなく対処する方法を知らないということだ。
それでも、スケッチ力は美大系デザイナーの資質として大きく意味あるものと考えるべきだろう。勿論、ただ、描くこと描けることが目的ではないし、「造り」、「伝える」ための技法とのみ考えるものではない。
・・・・・
アイデアを考える手段としてパソコンを駆使することで効果がある場合もある。
しかし、考えるまでもないが、コンピューターが主体的に「何か」を考え、「発想」するということはない。あくまでも、考える主体としての私が、まずは、コンピューターを使う自らの発想とイメージを持たなければならないと言うことだ。偶然に結果が得られたとしても、受け入れる自らの感性がなければ、ただ見過ごすだけで、果実が得られることはないだろう。
自らの自覚、そして「考える力」を確りと身に付けておくことが大切なのだ!次々に生みだされる「イメージ」や「アイデア」を直ちにスケッチ化する力。つまり、眼でとらえ手の動きに変えるという、この一連の行為の繰り返しは「技」を体得するためのもの・・・。スポーツにも似ているが、何よりもその「デザイン力」を研ぎ澄ます効果は大きく、成長期の「心」を触発し、感性を紡ぎ育てることにもつながるものだ。
(2013/2・1 記)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
メモ:
・スケッチはまずは、紙と鉛筆さえあれば簡単に出来ること。気負わず、自分が興味あるものやアイデアなどを描けばよいのだ。まずは手慣らしに楽しくて嬉しくて、ワクワクするような線を引いてみる。
魅力的なやわらかい線やゆるやかに流れるような線もある。未来感を表現するにはどんな線だろうか?スピード感のある線?太く逞しい線?細く鋭い線?重い、軽い、力強い、明瞭な、そして美しい線は・・・。弱弱しく頼りない線もある。1本の線にも様々な表情や性格があり、表現する楽しさがある。
・グルーッ、グルーッ、グルーッ・・・。紙面に辺りをつけたところに芯を当て、グルーッと一気に楕円を描く・・・。
はじめは、線が重ならないで、十数ミリも離れていることも・・・。
その線の末端が、はじめの線に見事に重なる様に。
練習することだ!グルーッと素早く楕円が引けるように・・・。
さらに、グルーグルーグルーッ、グルグルグルグルーーッと楕円の軌道を一定のスピードで線を引く・・・。
楕円の軌道が多少のふくらみはあっても、1本の線としてみえるようになれば素晴らしい!
・スケッチ上で正円を描くということは少なく、車の車輪やハンドルなどを描いても、それが正円であることはほとんどなく、一定の空間の中、あるいは車体との関係や前後車輪の角度を考えた楕円を描くことになる。その正確な表現には透視図法などの原理を知り、練習すれば難しいことではない。ぜひともものにしたいものだ。この円、楕円は様々なかたちの表現に必要で、直線に大小の円弧をつないだ線の組み合わせによって、想像し得る無限の形を描きだすことが出来る。
また、楕円形を重ねつなぐことでジャバラやラセン状の造形が脳裏にもみえてくる。
・コンピューターで創った形の評価が出来ないのは、日常的に形を読み取る意識が失われていることによるものだろう。デザインを志すものにとって「形」を読みとることは極めて重要、日常的に絶えずあらゆる「モノ」に興味を持ち、クリエターとしての感性を磨くことだ。
・モノを見たとぅり、見えたとぅりに描き写すこと。しかし、うまく描けない、見た通りに描けないとき、その理由を考えてみることが重要だ。自分が描いたモノと対象物を並べ比べて、微妙な差異を見つけられるかも訓練の一つ。そんな訓練が、形のプロとしての厳しい「眼」を育てる。先端科学が取り組むロボットも動物や昆虫、魚類、甲殻類の形、構造、仕組みに習う。透明で軽やかなシャボン玉、こんもりと茂る樹冠、流れる雲、モクモクと広がる入道雲、ぶくぶくひがたのアワ、河原の石ころ、こぼれた水たまり・・・。どんな線で「カタチ」を描き表すことが出来る? 描いてみよう!