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清水教授のデザインコラム/連載 - 128(02/10/2013)

2020年の夢を実現するスピードシェープ?

 9月7日、アルゼンチンの首都ブエノスアイレス・・・。
人々が一瞬静まり固唾を飲む・・・。「2020年のオリンピックは・・・TOKYO !」。会場がどよめき、参加日本人が弾かれるように立ちあがると、誰彼なく抱きあい歓声を上げて喜んでいた。「2020年 オリンピック・パラリンピック」の東京開催がIOC総会の選挙で決まった瞬間だった。その喜びは同時に、遠く離れた日本のそこここで歓声をあげ狂喜乱舞する姿があった。これ以上のドラマは無いのかも知れない、とすら思ったものだ。
2度目の挑戦?この招致活動は数年前から始まっていた。
その大会のビジョンや競技会場など詳細な開催計画が記載されたファイルは予め、IOCに提出されているのだという。なかでも、大きなインパクトを与えるのはメインスタジアムとして予定されている新国立競技場だろう。現在の国立競技場を解体し、そこに新たなスタジアムが建設されるというものだ。
2018年を完成目標としたその、新スタジアムは、昨年7月20日に国際コンペとして公募され、9月25日に応募作品が締め切られていた。
このスケジュール。考えると、さまざまな設計条件―スポーツ競技はもとより、文化的な各種イベントなども可能にしなければならない多目的性が求められる。また、運用、維持・管理するための最新の科学技術をも十分に咀嚼しなければならないだろう。
僅かに、2ヶ月余という期間は余りにも短いのでは・・・。となれば、予め応募者はそれに類するものの知識、日頃からの研究の蓄積がなければ構想のカタチすら発想出来ないのでは、とすら考えるのだが・・・。
その意味では、公募ながら応募資格に厳しい条件が付けられている。
11月の最終審査。最優秀の実施案として選ばれたのは女性建築家ザハ・ハディド氏(イラク人・在イギリス)のザハ・ハディド アーキテクトの作品だった。

はじめてテレビのニュースで見た新競技場のパースはメタリックな映り込みが印象的で、車のアイデアスケッチやコンセプトカー、スポーツカーのイメージレンダであり、シードミードの未来都市のイラストレイションを見ているような感覚だった。実は、その作家の名を知ったのもその時が初めて、その後も、折に触れ眼にするということはあっても他の応募作品よりもインパクトのある造形であり、パースのプレゼンテイションも他を圧倒しているように見えた。この作家、この形のルーツ、この形にたどり着いた発想のプロセスにも興味が・・・。
カタチに類するイメージはあらゆるところにあるのだろうが私には、現代医学に大きな影響を与えたのだといわれているレオナルド・ダ・ビンチの人体解剖のスケッチ、大東京の大動脈であり、また靜脈とも繋がる心臓部とも考えられてイメージは重なっているのだ。あるいは、デザイナーが魚類や鳥類、爬虫類、昆虫等などの形にも習うように、そのルーツがあるのかも知れないと想像するのも楽しい!
ネットで検索してみた。「かつては建てた建築よりも、実現しなかったプロジェクトの方が多い建築家として有名だった」のだとか、「幾何学的な曲線と直線、鋭角が織りなす流動的でダイナミックな外観が特徴でもある」と紹介されていた。
確かに未来を感じ、次代を拓く作家・作品のコンセプトやそのイメージするものは、経験としての施工法や技術の全てを前提とするわけではないし費用や施工法までを考慮することも少ないものだ。その意味では、そのまま実現するのは難しいものが多いのも事実だろう。即実現!と云うものではないが、その提示を受けた現場は、はじめて、その具現化の可能性に取り組むことになるわけだ。
その挑戦があって、最新の構造設計や素材、施工・技術などの向上につながることになる。
ただ、現状の技術レベルも知らずやみくもに描いたイメージスケッチをもって、「つくりたい!」という話ではない。
特にID分野での現実はコスト問題が高い壁であり、かなり絞り込まれてそのイメージを修正せざるを得ないという経験も多くなるものだ。プロトタイプレベルで80〜90パセント。生産レベルでは60〜70パセントレベルだったら「御の字だ」と、自らを納得させたことも多い。
ところで、その最優秀賞についての審査評は、「Zaha Hadid Architectsの提案は、スポーツの躍動感を思わせるような、流線型の斬新なデザインである。背後には構造と内部の空間表現の見事な一致があり、都市空間とのつながりにおいても、シンプルで力強いアイデアが示されている可動屋根も実現可能なアイデアで、文化利用時には祝祭性に富んだ空間演出が可能だ。とりわけ大胆な建築構造がそのまま表れたダイナミックなアリーナ空間の高揚感、臨場感、一体感は際立ったものがあった。この強靭な論理に裏付けられた圧倒的な造形性が最大のアピールポイントだった。また、橋梁と云うべき象徴的なアーチ状主架橋の実現は現代日本の建築技術の粋を尽くすべき挑戦となるものである。  
自然彩光、自然換気・太陽光発電・地中熱利用・中水利用・雨水利用クーリングシステムなどの提案においても日本の優れた環境技術が十分に生かされることだろう。
アプローチを含めた周辺環境との関係については現況に即した形での修正が今後必要であるが強いインパクトをもって世界に日本の先進性を発信し、優れた建築・環境技術をアピールできるデザインであることを高く評価し、最優秀案とした」と。「新国立競技場基本構想国際デザイン競技審査委員会・新国立競技場国際デザインコンクール」のサイトに掲載されていたものだ。過不足のない高い評価であり、「なるほど!」と共感することが多いものだった。
「日本につくるのになぜ、日本人の設計ではないんだ!」と、いう意見も多いようだ。
私自身もそう思っていた時期があった。海外の各地で著名な建築を見ると、公募された作品であり、自国民に無かった問題を提起する外国人の建築であることが多い。
考えるまでもないことだが門戸を開き、世界のユニークな作家の作品や知力を、建物を日本に建てることは、オリンピックの招致と同様に意味深いものだろう。国際都市として世界の知力を東京に、日本に集めるという効果も大きい。
誰もが居ながらにしてユニークな作品に接することが出来ると云う刺激的な効果だ!
その意味では、世界に向けて発信する日本の、「いま」という時代の評価もあるといえるのだろう。
                             (2013・10・1 記)
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メモ:
なぜか連想するのは、「エイリアン」などにも登場する異様な形態だ! 発想は視聴者を驚かせる意図が大きいグロテスクなものだろうが・・・。これもまた、昆虫や深海魚などのグロテスクなものから得た発想だろうが興味深いことだ。
スピードシエープなどの流動体、ダイナミックなフォルムは次代的なインパクトは強い。私も、時に鉛筆をもって描きなぐることがある。しかし、徐々に意識は宇宙船になり、未知のものの形、イメージを膨らませる! また、院生の息抜きのために鉛筆をもって柔軟で自在な線をひかせる・・・。脳細胞を、感性を覚醒させる刺激! 自在な発想のイメージによって宇宙船を描いてみることを薦めたりもしている。
その為もあるのだろう、私にはそれが、8万人余の人々を乗せた巨大な宇宙船?ともみえる。都市に繋がるオーガニックなスピードシエィプは、どこかSFの世界を思わせるものでもあり、人々の期待と夢を膨らませてもくれるものだ!
確かなことだろう、東京にその宇宙船が出現するという2018年!
私には極めて微妙なことだが・・・。その時にはぜひ「眼」で捉え、「手」で触れて実感したいものだ!と考えている。 健康に気を付けながら待つことにしたい!