■清水教授のデザインコラム/連載 - 132(02/02/2014)
世の中に次々と革新をもたらし、イノベーシヨンの発信源として世界が注目するマサチューウセッツ工科大学(MIT)。そのメディアラボ・・・。
一体どのような発想法、方法論によってアプローチをしているのだろうか?
そのことに興味があった。伊藤穣一所長が記者の質問―「どのように未来を予測し、研究テーマを決めているのか?」に答えていた。
「僕らはそれぞれが情熱を持っている分野でやりたいことをやりたいだけ研究・開発をする。僕は議論というものが、過大に評価されていると感じているので、新たなものを想像している段階ではあまり好みません。話し合いをすればセオリーは生まれるけど、それは事実ではない。人間が主体的に学んでいけるのはセオリーからではなく、自らの手でどんどんモノを作っていくことからだと信じているからです。ラボでは何かを作ってこそという“モノ作り”の精神が根づいているといえるでしょう。」と。
「いま、取り組んでいるのは、生活における様々な障害を取り除いていくこと、脳の研究からロボットの研究、合成生物学、デザインの再考まで、多用な分野を持ち寄り、そこから実際にモノをつくることで、イノベーションが生まれています。
だから誰も未来を予測してやろうなんて思っている人は1人もいませんよ!
世の中は予測可能ではないし、「ひらめき」や「運」、また、「タイミング」によってどんどん事象は変わっていきます。経済学者は予測をするのが得意だけど、大体間違っていますよね?(笑)。未来を予測出来ると考えた時点で、それはとても危険なことだと思うんです。
未来が予測可能なものなのだという前提で動いているわけですから。
予測するのではなく『よりよい未来を自分たちの手でつくることができる・・・』
そういうクリエーティブな自信をもってラボに入ってきている。その自信こそがイノベーシヨンの鍵。「クリエーティブコンフィデンス=創造的な自信」という考え。
経営学の巨人、P・F・ドラッカーが言う未来を知る方法の1つ、「未来を自分が作ることだ」という言葉の実践であるというものでもあるのだろう。
また、興味深いことは伊藤氏自身がデザイン事務所IDEOのデビット・ケリーやトムケリーとの交流の中で影響されたのだと。「誰もが生まれた時には創造的でイノベティーブ、学校や会社などの組織で教育されることによって、そのクリエーティブな自信を失なっているのだ」と言うことも。
実はその言葉、私自身も強く記憶していることだが、「ブレーンストーミング」の提唱者でもあり、「独創力を伸ばせ」の著者であるA・F・オズボーンによる、その著書の冒頭の記述だ。60年代当時の教育、デザインの創造性についても考えさせられたものだった。振り返れば、気になるテーマがあれば、手当たり次第と言えるだろうほどにアプローチしていたし、「なにかを作っていた」のだとも言える。まだまだ、助走を始めた我が国、経済発展の軌道に添ったデザインの役割を手探りしていた。
しかし、いまも最先端は「自ら切り開くものであり、そのこと以上にはない」のだともいえることだろう。
デザインは素朴であっても、取り敢えずは「自らの手を使い、何かを作る」ことから始まったようにも思う。そんな経験が大切なんだとも。
いま、最先端といわれるMITメディアラボも同じアプローチ!ただ、個人としてのモチベーシヨンが高いか、低いかという差はあるのだろうが・・・。
ところで、資質に恵まれていないのだからと自覚する者には、何かセオリーを学べば、発想出来るようになるのではと思いがちだが、まずは興味ある“モノ”を作ってみることだ。そこから独創力は生まれてくる。 (2014/2・1記)
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メモ:
・「週刊ダイヤモンド2013-2014」「産業・企業」―「未来とは自ら作るもの、日本の創造性を取り戻せ」MITメディアラボ所長 伊藤穣一
・「『ひらめき』を生む技術」伊藤穣一 角川EPUB選書
・伊藤譲一 日本人として初めてMITメディアラボの所長に。ニューヨーク・タイムズ、ソニー取締役 2008年「ビジネスウイーク誌」「ウエブ業界で最も影響力のある25人」、2011年「フオーリンポリシー誌」「世界の思想家100人」、2011,2012年日経ビジネス誌「次代をつくる100人」に選ばれる。1966年 京都生まれ
・「なぜ、頭で考えるより紙に書き出す方がいいのか?」
「毎日、紙に書き出して振り返ることも原理は同じです。自分の頭の中だけで行動を振り返って問題点を探ろうとしても、なかなか答えにはたどり着けません。問題点の発見も、暗算より筆算。紙に書くからこそ、答えに近づきやすくなります。」
中司祉岐(なかつかよしき)(株式会社日報ステーション代表取締役)・プレジデントオンライン<online@president.co.jp>
・次代を創るデザイン力!
デザインのつぎなる次元だ! デザインは常に時代の要求にしなやかに応えてきた存在ではある。が、さらに柔軟な発想力によって世界に貢献するのだという意識も大切なことなのだろう。
勿論、誰もがそこを目指すのだが、ただ、学べば出来ると云うものではない。 個々人の資質や脳力・・・なによりも意欲、やる気だろう!人一倍の努力を重ねて数十、数百のアイデアを考え、スケッチ化する。世界の人々に繋がる独創性のヒラメキは、そんななかで得ることが出来るもの。
もちろん、「資質も脳力もない!」と謙虚な気持ちで学び、頑張る姿勢こそが最も大切だ!ともいえる。「なにか方法論を習いたいのだ・・・」と期待するだけでなく、まずは、自らの脳力=思考活動の素材としての情報を頭に詰め込むことだ!(コラム:126「デザイン力―観察力による情報と記憶のためのツールとしてのスケッチ力」)
・デザインの資質って、なに?(コラム:101「自分が自分らしく生きたい・・・」)
・その他のコラムも・・・。
・リケジョ30歳、割烹(かっぽう)着(ぎ)の小保方(おぼかた)晴子さん。先にノーベル賞を得た山中伸弥教授のiPSを超えるのだとも。しかし、「あなたは過去何百年にもわたる細胞生物学の歴史を愚弄している」と。「権威ある学者に言われても、今日1日は頑張ろう、明日1日は頑張るのだ!」と・・・。忍耐力、常識に囚われない発想力で世紀の大発見だ!