NUDNimageNUDNとはimageID/PD分野についてimageお問い合わせ

image
partitionホームpartition芸術学部情報partitionデザイン学科情報partition学生作品partition卒業生作品partitionリンク集partitionメールマガジンpartition
image

清水教授のデザインコラム/連載 - 136(02/06/2014)

「3Dプリンター」によるモノづくりの可能性・・・・

 空砲らしい拳銃を撃つ動画、YouTubeに投稿した男が銃刀法違反の疑いで逮捕された。自らが3Dプリンターを使って製造したものだと言う。
「銃規制を緩めて自衛用に所持できる社会に日本を変える」と言う主張に驚いたが、それより、3Dプリンターがこのような反社会的なことに使われたことに驚いている。外国製の組み立て式、ネットを通じて約6万円で購入し、設計図は米国のサイトからダウンロードしたというものだった。なにしろ従来は製品、部品1つを作るにも工作機械で削り、あるいは金型が必要で組み立てるプロセスを経てはじめて製品になるはずのもの・・・。
3Dプリンターを使つたら出来てしまった!そんな風にすら見える今回の事件だった。 ・・・・・・
3Dプリンターは、21世紀の最先端技術ともいわれている。実物をスキャンした3次元データを基に、ほぼ完成状態の製品として作り上げられるというもので、日本人による発明だった。発明者は名古屋市で弁理士をされているという小玉秀男氏、名古屋大学で地球物理学を専攻し大学院修士課程を経て、「実用的な工学の研究をしたい」と52年に名古屋市工業研究所に入所している。「印刷技術による半導体の製造、光を当てると固まる樹脂、CAD/CAMなどを目の当たりにして、光で硬化する樹脂のプリンターがヒラメイタのだ」という。
「昭和55年に特許を取り、国内の学会誌や米国の雑誌で論文を発表、製品化を試みたが叶わなかった」のだと。
その1年後、米国の研究者チャック・ハル氏も独自に論文を発表していることを知り、手紙を出したが「こちらも反響はない」との返信だった。
「ものづくり」の可能性をもった3Dプリンターも、当時、アメリカにおいてすらその価値を理解してもらうことは出来なかったようだ。しかし、自らが信念をもって行動し起業化、3Dプリンター装置などを製造する大メーカーに育て上げている。我が国と産業育成環境の違いをうかがい知ることができること。
彼我の差!このような事例は実に多い・・・。
小玉さんは「最初の論文に掲載した家の模型が丸太小屋のような出来ばえだったので精度の面で価値が理解してもらえなかったのでは」と。
それでも、「私の研究が空想でなく実際に役立つことがわかってうれしい。研究は取り組んだ100人のうち99人は失敗する。苦しい中でも1%の成功のために取り組むのが研究者です」と。最近の「拳銃事件」を見て、「しかし、個人にまで普及するとは思わなかった」とも感想を述べられている。
ちなみに、小玉氏は、平成7年に英国のランク賞財団から、光電子工学に貢献したとして表彰され、同時受賞者は米国のチャック・ハル氏だった。

3Dプリンターの研究開発と用途開発にも期待・・・・
製品開発をリードするのはアメリカ、多くの特許を持ち、政策による普及の後押しもあった。数歩遅れた日本も今回のアベノミクス・成長戦略で3Dプリンターなどの先端技術支援が盛り込まれており、産業技術総合研究所など産官学の連携、競合し次世代へ向けた研究開発に取り組んでいる。
3Dプリンターは、まだまだ研究開発途上にあるともいえるだろう。産業用から個人用に至るまでの市場ニーズがあり、機器の性能、精度、素材などの多様性が求められるからだ。

ところで先日のニュース―京都大学医学部の手術は、「夫の右の肺の一部を前後に回転させ、妻の左に。ドナーの肺の一部を左右逆にした生体肺移植の成功は世界で初めてのこと。この難しい手術を成功させたのは3Dプリンターによる肺の精密なモデルを使い手術のシミュレーションを重ねたことが大きい」のだとか。
人間の骨、臓器などは極めて小さく難度は極めて高い。患者個人のCTスキャンデータから3Dプリンターを用いて製作。素材は実物に近い超軟質の感触を持った樹脂で、内部の大動脈の太さ、内壁まで緻密に再現する事が出来るらしい。表面の血管部分は空洞でカテーテルが通る。実物感覚としてメスで切除することも、糸で縫合することも可能だというのだ。近い将来、超軟質の素材が開発されると生体の臓器すらも作成することになるのではないか、そう思わせる精度の進化だった。
そんな多くの事例を見るまでもなく、発想力があれば10個、20個、或は、100個200個という少量生産の「モノづくり」もあるのでは・・・。
                           (2014/5・31記)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
メモ:
3Dプリンターの進化は・・・
・高速で動くノズルから樹脂などを吹き出すことで、連続した造形、大量生産も短期間で可能であり、開発コストが大幅に削減されるのでは。
・中空形状・複雑な内部構造形をも1体形状として作ることが出来る。
・精細度が良いだけでなく超軟性の材料が使え、複数の異なる材料を混ぜながらの造形やカラー造形も。
・透明度の高い樹脂を使うと構造の仕組みや液体の流れを見る事が出来る。
・硬質樹脂や金属粉末などで機器の金属部品や医療用の人骨部位などの造形も可能になるのでは。
・・・・・・
・何時だったろうか?この機械―「光造形機」をはじめて見たのは・・・。多分、国際見本市の会場が晴海にあった時代だったのかもしれない。
デザイン実習のモデル製作が比較的簡単に出来るのではと真剣に導入を考えたこともあった。しかし、発明者が言われるように当時はまだまだ造形が粗雑だったこともある。が、教育上の「モデル製作は、その便利なモノ作りを学ぶことではなく、複雑な具現化のプロセスを学ばねばならないもの。加工性、材料、部品を組み合わせた造形の質、美意識などを考えるものである」と・・・。
その後、「3Dプリンター」と呼ばれるようになって、コラムのメモ欄?にも取り上げたこともあったが・・・。これほどの進化、用途の可能性を予測したものではなかったようにも思う。良識ある発想を!とも思う。