■清水教授のデザインコラム/連載 - 141(02/12/2014)
クリエーターなどの創造する人材、成果給で・・・・
もう「労働時間」は「賃金」ではない・・・?
「創造する人材成果給で」・・・。そんな見出しが目にとまった。(読売新聞「論点」10月28日)
一律に労働時間を規制する現在の労働基準法は、工場で働くなど時間に比例して成果があげられる社員が念頭にあった。しかし革新的技術、新たなビジネスモデルの創出などのイノベーション競争には独創性や企画力などが問われ、時間をかけた分だけ成果が上がるという訳ではない。付加価値が高い商品やサービスを創造する人材が、能力や意欲を発揮できる環境を整えることが世界規模の競争に勝ち抜くことである。
「研究職や技術職など、日米欧をまたぐ研究開発などは時差の関係もあって深夜の電話会議も多い。休日返上で取り組む活動なども競争力を担う貴重な財産でも・・・。
時間の規制を除外し、成果で賃金が決まる仕組みを考えるべきだろうとの議論が厚労省でされているのだ、とか。単に時間を掛けるだけではなくメリハリのある活動を認めるべきだ」というと言うものだ。
我が国の60年代――50年代の高度成長への助走が軌道に乗り、ただひたすら働くサラリーマンは、「働き蜂」や「モーレツ社員」などとも言われていた。勿論、その中ではデザイナーが時間を忘れて生き生きと働いていたのだ。白黒テレビ、洗濯機、冷蔵庫(50年代の3種の神器)は、3Cの時代(カー、カラーTV、クーラー)へ移り、新幹線が開通し、東京オリンピックが開催され、人々の憧れであった自動車が大衆化し始めた時代でもあった。
やがて・・・働き過ぎ、働かせすぎる結果として「過労死」が社会的な問題として浮上することになって、現在の「労働基準法」が制定された。
法律によって働く時間が規制されたのだから、それまでのデザインアプローチの質が変わるのではと当時、違和感をもって受け止めていた。
デザインに要した時間を基準においても、必ずしも質の良し悪しが比例すると言うものではないが、望む成果をあげるための時間が厳しくなるのでは・・・と。
デザインは経験や能力、発想力の差、ウン次第という結果も多く、なによりも、エンドユーザーの評価次第でもある。
また、クリエーターの「気質」とも言えるものだろうデザイナーも目標以上の成果を追い求める時間は理解され難いものだが、ただ、デザインが「出来た!」と言うだけでは決して満足はしないし納得出来ないものだ。そんな、グローバルな競争に負けないためのアイデアや意識的な行動は、多くの時間を要するものなのだ。
この国では、なにごとも時間を超えて「創意工夫」し、「より良いモノ」を極めたいとする「心」が醸成され連綿と継承されてもいる。
成果にたいする評価の数値化は様々に試みられてはいる・・・が、難しい問題でもある。
(2014/11.30 記)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
メモ:技術革新・・・
・ノーベル賞受賞者中村氏が日亜化学を退社し、更に続けようとした研究内容を日亜化学は提訴した。中村氏もまた01年、青色LED発明の対価を日亜化学に求める訴訟を起こした。04年1月、東京地裁は日亜化学に200億円を支払うようにと命令、産業界に衝撃を与えるものに。しかし、05年には東京高裁で両社の和解が成立し8億円で妥協している。その後、日立、味の素、東芝などの研究者がそれぞれに発明の対価を求める契機となっている。また、社会的に知財に対しての関心が高まり、社内評価の規定が整備される契機にもなっている。
・世界の革新企業100社、日本は39社でトップに・・・
特許データをもとに知的財産・特許動向を把握し、その観点から世界で最も革新的な企業・機関100社を選ぶ「Top 100グローバル・イノベーター2014」を発表した。国別では、日本が昨年の28社(米国に次いで2位)から39社となり、米国を抜いてトップに躍り出たことになる。
知的財産を適切に保護し、グローバルなビジネス展開で効果的に活用していることが要因になっているという。2位は米国の35社で、日米で全体の74%を占め、以下、フランス7社、スイス5社、ドイツと韓国が4社。
日本企業で選ばれた39社には、日立、東芝、三菱電機、キヤノン、パナソニックなどの電機関連企業のほか、トヨタ、日産、ホンダ、旭硝子など代表的な製造業が並ぶ。この100社は、独創的な発明のアイデアを知的財産権によって保護し、事業化を成功させることでビジネスをリードしたことを基準に選ばれている。アワードの発表は今年で4回目。米国は半導体分野が12社、一方欧州は科学研究が4社で、日本はコンピューターのハードが9社という状況である。(トムソン・ロイター、他 2014年 11月 6日)
日本企業はこのところ特許戦略を積極的に展開しているということになるのだろうが、企業の業績は一部を除いてあまりいい状況とはいえないのだという。特許の取得が必ずしも企業全体の業績向上には寄与していないのは、中村氏が言うように、もう少し戦略的な特許と経営化のための行動、実行力が必要なのでは、と。
・トヨタ自動車は12月15日に燃料電池車FCVを世界で初めて市販すると発表した。燃料電池車の一般向け販売は世界の自動車メーカーでは初めて。車名はMIRAIミライ4人乗りセダン。価格は723万6千円に。(経済産業省は1台に202万円の補助金を出すので、実質的には520万円程度になる)また、ホンダも、試作車―ホンダFCVコンセプトを公開し、2015年度に発売すると発表した。
FCVは燃料の水素と空気中の酸素を反応させて発電し、走行中には水しか出さないために究極のエコカーと呼ばれているものだ。燃料電池車は低価格化や小型化が課題でもあったが、20年余の研究を経て世界に先駆けて我が国のメーカーが普及へ動き出したということになる。
・日立製作所は14日、電気自動車(EV)の走行可能距離を従来の2倍にするリチウムイオン電池の要素技術――電池の電極の厚さを従来の2倍にし、充放電できるリチウムイオン量を増加させ、高密度化を実現し、電極内の物質分布の最適化で高出力化につなげた。また負極材に電極に密着しやすいシリコン系材料を新たに採用し電池を長寿命化させ、電気を蓄積するリチウムイオン電池のエネルギーの高密度化に成功したと発表、2020年ころの実用化を目指す。10年に発売された日産のEV車「リーフ」は、1回の充電で228キロ走行する。これは東京−浜松間の距離に少し足りないが、1回の充電で東京−大阪間を走破できればEV車の普及も早まるはずだ。