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清水教授のデザインコラム/連載 - 142(04/01/2015)

2014年12月のメモ―デザインコラム 

「世界の真ん中で輝く日本を!」と、安倍首相が標榜した選挙フレーズだ。師走の慌ただしいなかでの投票、結果は一方的なものになり、この後の数年を託したということにもなる。しかし、バブル後の20余年の無力感と鬱積した気分が一掃されたわけではないだろうし複雑な問題が山積してもいる。しかし、徐々にだが可能性は膨らんでいるようにみえる。いま、自らが考えること、なすべきことも多いのではないだろうか。

○ ところで、しばしば私も取り上げてきたことだったが・・・。
「せっかく技術力は世界最高水準なのに、なぜそれを生かしきれないのか。21世紀に入り、急速にニッポン企業のアイデア力が低下しているように見えるのは、経営者のせいか、日本人の限界なのか。誰がエンジニアの発想を殺したのか!」と。「iPhone、iPad、facebook、twitter、starbucks・・・。身の回りは外資系企業開発のモノやサービスばかり。ニッポン製も健闘はしているが、とりわけ21世紀に入ってから、新しいモノを生み出すパワーがダウンしたように感じられる。20世紀に日本人が発案・発明したモノを確認すると、そのことを痛切に思い知らされるのである」と。伊藤慎介氏(元経済産業省官僚 PRESIDENT 2014年12月9日)
「なぜ日本にはアップルのiPhoneやiPadのような画期的な商品が生み出せなかったのだろうか?」 多分、多くの関係者もうなずいているのでは・・・。伊藤氏、藤本隆宏東大教授は、「企業が利潤追求するのは当然ですが、現状は売り上げ・利益を確保する、シェア・株価を維持するなど“数字”ばかりに腐心し、またコンプライアンスや社内ルールで社員を縛り付けているようにも。さらに、職場になじめず退職・独立したユニークな発想をする技術者も多いが、大企業意識の強さゆえに協業する意識もない「ムラ社会」的な体質によって、より良い製品をつくりだせるはずのアイデアや技術を生かす事が出来ないのでは」と。さらに私は、研究・開発環境――アイデアの開発に集中する時間の制限やチーム編成員の質的な変化による形骸化したアプローチの問題も大きいのではと考えている。

○ ジョブズ氏との交流もあると言う、元ソニー社長出井伸之氏はあるTV番組で、「ソニーでもiPhoneをつくることは出来た。しかし・・・『決断』出来なかった!」と。くやしさを滲ませた表情で語られていたことが私には印象的だった。
多分、日本的な感性であり美意識でもあったのだろう。業界は細分化し、商品カテゴリーを棲み分ける配慮、複雑なしがらみが「決断」を躊躇させてしまったのだと。経営者には、少なくとも数十年、営々と積み上げてきた現状を維持したいという意識は強く働くものだろう。しかし、功を奏したモノづくりの手法と、前例に倣うことでリスクを回避したいとするだけでは変化の時代を生きるのは難しい。問題は前例のない尖ったモノ、新奇性を理解しようとせず決断を躊躇するだけでは、企業活動を消極的にもしかねないということだ。

○ 前回のコラムで、「世界の革新企業100社」がえらばれ、39社でトップの日本企業も特許戦略を積極的に展開してはいるが、必ずしも業績に寄与してはいないのだと。もう少し戦略的に特許と経営化のための行動力が必要なのでは、とノーベル物理学賞受賞者中村修二教授。日本にもジョブズのような人材の輩出を期待しているのだとも・・・。
そんな提言に反応した?「和製ジョブズ」10人選出」総務省は19日、「和製スティーブ・ジョブズ」を育てるため、奇抜なアイデアを持った10人を選んだと発表。(研究費 各300万円を支給)20〜40歳代で、大学や企業の研究者だけでなく、医師や会社員、学生、主婦、フリーターが含まれる。さらに失敗しても再挑戦を認める異例ずくめの対応となる。対象となる研究は、超音波を使って手で触れずに物を動かす装置や、伸び縮みして形を変える建築物など。10人は専門家から助言を受けながら、来年夏頃まで研究する。15〜73歳の617人、710件の応募から、同省と有識者らが選んだ。ジョブズ氏のような独創的なアイデアを持つ人材を育てるため、完成度が高いアイデアはあえて外したのだという。
≪総務省に選ばれたアイデアの概要≫
  ・大量の細胞の画像を分析して薬を選定
  ・超音波でモノを自在に動かす技術
  ・自動車とつながるアプリをつくれる製品
  ・診断や模擬手術などにつかえるCG
  ・伸び縮みして形を変える建築物
  ・耳の感覚を使った耳飾り方コンピューター
  ・人間のように視線を動かすロボットの目
  ・亡くなった人の遺伝子を植物の中に保存
  ・児童お絵かきプログラム
15〜73歳の617人、710件の応募、同省と有識者らが選んだのだと(読売新聞2014年12月20日)
兎角の非難もあるが、しかし新しいこと、前例のないことにはとかく拒否しがちな風潮も。しかし、我が国にもどうやら多様性を受け入れる土壌改革の芽は育ち始めた、と考えるべきだろう。

○ とにかく、ジョブズ氏は天才に有りがちな他人を見下す傲慢さ、意見にも従わない強情さが周辺の者を恐れさせ、嫌悪感すら持たれるほどの強烈な個性と妥協のない生き方があり、我が国ではとても考えられないことだろう。が、その事が独創性を生み、何よりも天才だったのだと思わされたことだ。創業者として生きることが出来る環境が与えられていたのだとも言える。「新奇」、「異端」のカタチは前例がないと言うもの。次世代と言えるデザインやアイデアは、組織リーダーの先見性の有無による。別視するだけではない土壌で育て上げることこそが重要なのだろう。

○ IDEOのイノベーションを起こす「デザイン・シンキング」とは?
<人間><ビジネス><テクノロジー>と言う3つの側面を重ね合わせたところに新しい0→1にする≪イノベーシヨン≫が起こるのだと。(日本的なデザイン活動は1→100にするデザインで、それとは異なる)
マッキントッシュの初代マウスのデザインなどを手掛けたデザイン力を活用し、「デザイン・シンキング」というアプローチでイノベーションを起こし続けて、さまざまな分野のコンサルティングを手がけている。(NEC WISDOM 編集部2014/?月5日)

○ 日本の20世紀は、終戦(1945年)の焦土から立ち上がり、今日、明日を「生きる」ためにモノを作らねばならない時代だった。
いま、ふり返えってみれば今日の豊かさを支える日本経済の助走期であり、最盛期のバブルとその崩壊を経験したことになる。波乱の20世紀だったと言えるだろう。
先進国に倣い、よりよいモノを作る努力「創意・工夫」、「改善」の意識がつくる現場の一人ひとりにも浸透していたように思う。時間を忘れても極めたいとする「心」が醸成されていたのはこの時代でもあるのだろう。
その頃、「売れる」モノづくりに必死だった企業も、いまは大企業、世界的な企業にも。日本経済を支えているのだと言う自負心も、慢心も生まれることもあるのだろう。自らが汗して発想・開発したモノづくりも忘れ去られていることだ。ただ、取り組む創業期の意識は多様であり、或は、基点から発想することを避けてソロバン片手の模倣体質の企業も運よく生き延びてはいたのだが・・・。

○ 自社にない優れたスキルを積極的に採用すること、例えば、アップルはiPhone製品に燕三条の技術を採用、商品の裏面にまでも光沢をもたせることで、その質感を高めた。また、独ゾーリンゲンは世界一と言うそのプライドを横においても日本の職人が打ち出した刃物を取り込み、その技術を学び取ろうともしている。いずれも品質を求める「こだわり」がユーザの信頼と満足を生み企業意識を高めることにもなっている。
それにしても数百年にわたり伝承されてきた技術、その職人の熟練の技は世界の人々を驚かせJapan Qualityに対する特別な信頼性にもつながっている。  
(2015/1・1 記 )
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