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清水教授のデザインコラム/連載 - 147(02/06/2015)

自ら身体を実感する日々・・・・

「朝起きると(といっても九時過ぎだが)、身体はまだばらばらのような気がする。脚は脚、腰は腰、肩は肩、腕は腕、とそれぞれが勝手に散らばっている感じなのである。
ベッドに横向きに座って床に足をおろそうとする頃になってようやく少しずつあちこちが目覚めてくる。立ち上がると、まず腰が痛い。膝が痛い。肩のあたりにこわばりがあり、首が滑らかに動かない。腕は自由に上がらない。――つまり、体全体が抵抗と痛みに包まれている。いつの頃から、体全体が軋みを上げるようになり、あちこちに痛みが巣くうようになったのか。考えてみてもはっきりしないが、七十代の終わりころから八十代にかかってからのように思われる。しかし、痛みや身の硬さはそのまま1日中続くわけではない。【中略】
前にはなんでもなく出来たことが難しくなっている。それにきずかぬのが恐ろしい。だから、身体のあちこちが痛んだりするのも、そのような危険が潜んでいることを前もって警告してくれているのかもしれない、といまは殊勝に考えることにしている。」(黒井千次「身体の痛み 危険の警告」時のかくれん坊 読売新聞5月18日月夕刊)
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著名な作家のコラムが目にとまった。まるで私自身のことかと思えるような内容だった。私も高齢者のなかま入りしてからもうかなりの年月になる。特に、この数か月は足腰がこれまでになく痛み、歩行すら思うにまかせない。ベッドに入ると右肩を下にした姿勢をとる。比較的痛みをわすれさせる姿勢だったからだが、それでも痛みでよく眠れないという日々が続いている。
デザインのアプローチにとって何よりも重要なことは、人の各部位の寸法であり、動作や動作域など・・・。一体どれほどに考え触れてきたことか・・・。そしていま、それらの数値や動作の一つ一つがこれほど痛切なまでに意識させられるものになろうとは。
特に若い頃にはまったくといっていいほどに意識しなかったこと、激しい運動するでもない日常生活、人生という未知の長い時間をたどり辿って高齢者に分類されることになった我が身体。しかし、最近は、「高齢者なんだ!」という自覚、ようやく身体と、頭で納得し始めてもいた。
70年余も使い続けた身体、これまでは一度もオーバーホールをしていないのだから、まあまあ良い部品に恵まれてもいたのではとも・・・。
人生の先輩のコラムにあるように、「身体が軋みはじめたころ」という年代に当たるのだろう。加齢にともなう心構えと突然意識することになる身体の軋み・・・。人体の精巧で不思議なメカニズムを、日々自ら実感することにしよう。
(2015/5・31記)
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メモ:
・デザインにとって「人間の寸法や特性」は、モノづくりの「発想法」と同様に関心のあるものだった。より科学的であろうとする思いは人間の特性を研究する物理的な、生理的、医学的な数値や在り方を理解する必要があったからだ。しかし、初めのころは、モノづくりに必要な数値がなかなか無い場合が多く、自ら観察し、計測する機器を作成することも。それもモノのデザインとしていみあるものだった。
ヒトの「特性」を理解するという考え方が人間工学のキーワードだ。
そんな学会をという機運が熟し、1963年の設立準備会が。私も、知久篤(産工試、後に本学研究所教授)、内村喜之(産工試、後に近畿大学教授)にお誘いいただいて参加。翌年日本人間工学会が正式に発足した。1964年当時は、東海道新幹線が営業運転を開始し、東京オリンピックが開会するなど飛躍的な経済成長期のニーズだった。創刊された学会誌「人間工学」には、「東海道新幹線における人間工学」が特集された。
ただ、あくまでもデザインは「モノづくり」が目的であり、人間の特性を求めることではない。時間を掛け、研究に没頭することは出来なかったが・・・。
・ヒトをかたちづくるものは凡そ200個の骨・・・。それらの一つひとつを繋ぎ合わせ、人体の自在な動きを可能にする。その仕組みを受け持つのは400個の筋肉・・・。幾つかが協力して1つの骨を動かすが、その構造体に支えられて様々な器官があり、個体維持のシステムが機能している・・・。日頃、人は表面の美醜にのみ心奪われるだけ、殆んど意識することはない。もっとも、ときには体調不良!と言うシグナルで病院のお世話になることに・・・。現代医学は頭部の輪切りを、或いは管を通した食道や胃をその内側から見せてくれる。現実には見ることが出来ないブラックボックス、人体と言う小宇宙だ!(『人体の不思議・・・』デザインコラム-32 2005/1・31)