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清水教授のデザインコラム/連載 -152(03/01/2016)

2020年へ、感動を繋ぎ得るのかデザイン力・・・・

アルゼンチンの首都ブエノスアイレス・・・。
人々が一瞬静まり固唾を飲む・・・。「2020年のオリンピックは・・・TOKYO !」。会場がどよめき、参加日本人の全てが弾かれるように立ちあがると、誰彼なく抱きあい歓声を上げて喜んでいた。「2020年 オリンピック・パラリンピック」の東京開催が2013年のIOC総会の選挙で決まった瞬間だった。その喜びは同時に、遠く離れた日本のそこここで歓声をあげ狂喜乱舞する姿があった。これ以上のドラマは無いのかも知れない、とすら思ったものだ。(コラム‐128 2013/10「2020年の夢を実現するスピードシェープ?」)
あの時の感動!そして喜びも、いまは・・・。「拙速」と言うよりも、「短絡」に過ぎた結果だったのだろう。昨年は、そのための五輪のシンボルともなる、「オリンピックスタジアム」や「エンブレム」のいずれの最優秀作品も白紙撤回となってしまった・・・。 村社会の馴れあい? 特定の専門家に一任してしまった結果は、デザインのみならず様々な問題にまで派生し炎上してしまった。その反省を込めた再出発、再審査だった・・・。
夢かすむ「オリンピックスタジアム」、そして「エンブレム」・・・。 それにしても、これほどに我が国が「デザイン」について、その「オリジナリティ」について、多くの人々によって語られ、考えさせられたことはなかったろう、と思う。
我が国へ向けた、世界の厳しい目も意識される。オリンピックが夢膨らむものになるのだろうか・・・? (コラム‐149 2015/9「デザインのオリジナル」をつくる・・・)
昨年末に新スタジアムは応募2点の中から工期やコストの優位性をポイントに、一足早く結果を出している。前回は46点を集めた応募が、今回は2点だったとは・・・。それにしても国際コンペとして問われるはずのデザイン条件は、それほどの争点にもならないポイントの差で決着してしまったことだ。そのことについての国内外の評価も分かれる・・・。とにかく、予算内で着工せねばならないというタイトな条件が目の前を覆うことになってしまったからだ。

一方で、新年に継続されることになったエンブレムは、昨年の締め切りまでに、総数1万4599件の作品を集めていた。経験やデザイン関連の受賞歴も問われないことで、18歳未満を含むグループ応募は627件、代表者としての最高齢は107歳、日本在住の外国籍の人の応募も274件あったのだと。日本の老若男女と言えるほどにすべての人々を網羅した多様なグループの参加も。どこの市だった?市民の応募を取りまとめて参加したのだというものまで・・・。それらの形式要件とデザインの確認、その後の審査によって100〜200作品に絞り込まれ、年明け早々には全エンブレム委員会による投票と議論をそれぞれ2回行い、9日午後にも最終候補3〜4点を決定。さらに、商標調査と出願、国民参画による意見募集を経て、新エンブレムを発表するのだと言う。
とにかく、独創やアイデアと言うものは簡単に思いつくと言うものではない。エンブレム自体のアイデアはともかく、応用・展開としての可能性―印刷物、構築物、交通機関の壁面や公共空間・・・。あるいは、グッズなども・・・。いわゆる知識や経験を拠り所にする発想は極めて難しいもの・・・。応募を躊躇させた大きな壁だったろうと想像されるのだが、この問題意識の高まりの中で我が国のデザインの可能性を拓く幼児や小・中学生などの参加も代えがたい、貴重な体験の記憶ともなっておおきい。もちろん、戦力としても、とらわれることのない「素」のアイデアであり、大人とは異なる「何か」を潜ませており、それらの発想にひらめきを得て、ひろい上げるリーダの感性と眼力しだいということにもなる。
応募間口の広がり、審査委員もまた、多分野から選ばれた人材が並んでいる。
しかし、応募作品に対する条件・内容については知識と経験の差があり、視点や感性の差、「共感性」「シンボル性」「オリジナリティ」「デザイン性」「展開性」「再現性」など審査・評価の差(敢て、そういう人を選んだということも)があるだろう。
選考の透明性をもちながらも、なによりエンブレムの新奇性を読み取ることに留意して欲しい。1点に絞り込むプロセスの難しさ――審査を繰り返すが、さすがに「この中から、最終的にたった一つを選考するのは至難の業?皆さんに納得いただけるプロセスと結果を得るのは・・・」と宮田委員長がコメント。ここでもポイントによるということなのだが・・・。
とはいえ、多くの人々の参加があり多様な応募作品の中から2020年へ、あの感動を繋ぐオリンピックが夢膨らむようなエンブレムの1点であって欲しいと願っている。
                          (2016/1・2 記)
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メモ:
2020年の東京オリンピック メインスタジアムは当初、応募46作品の中から建築家ザハ・ハディド氏の作品が選ばれていた。「キールアーチ」と呼ばれる2本の巨大なアーチをもったスピードシェープと見える構造が特徴的だった。建設費が数倍にまで膨らみ、世論の反発を招いて7月には白紙撤回された。
再度の公募はJSC(日本スポーッ振興センター)の意図を汲んだA、Bの2案の応募のみに。A案は建築家 隈健吾・大成建設・梓設計グループ。B案は建築家 伊藤豊雄・竹中工務店・清水建設・大林組・日本設計グループの2点。どちらも、ザハ・ハディド氏のデザインとは対照的で、日本らしさを、寺社など日本の伝統的な木造建築をイメージさせ周辺の環境との調和を重視し木材を多用したデザインだった。
JSCの審査委員会は二つの業者チームを別々に呼び提案内容を詳しく聞き取った後、7人の審査委員が「ユニバーサルデザイン計画」「日本らしさへ」「工費」「維持管理費」などの評価9項目で1人140点、計980点で採点。結果、A案は610点、B案は602点。A案は特に工期短縮の項目で177点(B案は150点)と高い評価を得た。その結果や競技団体、アスリートの意見を参考に大東和美JSC理事長がA案に決定したという経緯だった。