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清水教授のデザインコラム/連載 -161(03/10/2016)

「金メダルを!」アスリートの「思い」に応えるか、デザイン、テクノロジー・・・

   パラリンピックのシンボルマークは、人間の大切な3つの要素「スピリット」、「ボディ」、「マインド」を赤、青、緑の三色で表したもの。そして、「限界のない心」がリオパラリンピックのコンセプトだった。「大きな挑戦を意味します。新しい世界、もっとバリアフリーな世界に・・・。より公平で障壁のない世界を創る。難しい挑戦ですが、それが我々を成長させます。見た目は違っても、同じ心を持った人、すべての人に心があるのです」と、大会組織委のカルロス・ヌズマン会長。

オープニングセレモニーでは、両足競技用義足の女性ダンサーがアームロボット(ドイツ製)を相手に踊る姿が、ことさらに魅惑的で強く私の心に残っている。
アスリートの多様さ――視覚障害、知的障害、肢体障害など、肢体障害も脳性麻痺か、手足の切断であるかなどに区分される。さらに、種目によっても異なるが同一レベルの選手が競い合えるように種類、部位、程度などのクラス分け、22競技は528種目にも細分化されている。160ヶ国、4350人(日本は17種目、132人)が参加していた。
パラリンピックのアスリートは身体の欠損部位を補完する義手・義足、そして、車椅子などが競技に必要不可欠なものだろう。「投射神経」は装具による身体の拡大を把握し、新素材や技術的な革新がスピードやジャンプに有利に働き、装具・器機が人の能力を超えることになり、その「在り方」が問われると言うことにもなろう。「走る」、「跳ぶ」など、前回のロンドンオリンピックでは両足義足のランナーが参加し互角に戦い、また、これまでの競技でも片足義足のアスリートが走り幅跳びで、健常者を超える記録をのこしてもいる。驚かされたのは、両膝から下が成長しない病気で10歳までは車椅子生活。その後「友達と一緒に走りたい!」との夢を叶へ、ボランテアから義足を贈られると5日間で歩き、2週間の訓練で走り始めたのだと言う。この、リオパラリンピックでは、陸上男子200mのスタートラインに立った。両手をつき、両足を伸ばした状態でのスタート、やや出遅れたが義足を左右に振り回すように走る!ゴール前2〜30mでの追い上げが凄い、自身のアフリカ記録を更新する23秒77で「銀メダル」を獲得してしまった。「もっともっと速く走れる!障害を持つ人を勇気づける。この経験は東京でも生きる!」と、目を輝かせる14才だ!
また、競技用車椅子はマラソン、テニス、ラグビー、バスケットなど、それぞれの競技特性を考慮した繊細で素早い操作性に応える構造で軽量であることが必須だろう。引く、ねじる、押す、衝撃などに耐え得る材料、構造、接合強度に技術力が求められる。アスリートは、その車椅子と一体となって戦うのだから、まさに、操作の自在性が勝敗を左右することにもなる。
最先端のスポーツ医学や人間工学、機械工学、材料工学などを駆使し、カーボン、アルミ、FRP、ウレタン、ゲル、シリコーンゴムなどを適材適所に使い、選手各人の体格に合わせ、競技の動きに合わせた動作にフィットするように造られる。
これらは3〜40万円にもなる高額なもの。このような器具を買うための経済的な負担も大きいのだとか。とは言え、結果的にいえば途上国よりも先進国の選手が、あるいは有利なのかも・・・。競技を観察し、全ての過程を分解・分析し最も効率的で効果的な可能性と、さらに、競うための基本的な姿勢が研究される。数ミリ、0.01秒を意識した動作行動の繰り返を体験出来るからだ。
ただ、陸上に対して競泳の試合は、義手や義足などの一切を認めず素の身体、それぞれの欠損部位をもった泳法で競うのだ。平泳ぎの場合、両足麻痺者と両足切断者が競うと両足切断者は両足が無い分だけ水の抵抗が軽減され、体重が軽くなって有利になるのではといい、両肩、両腕欠損、両腕から先が切断、片腕・・・。両腕欠損の選手は、推力を得るのは両足のキックだけ・・・最下位だった。が、戦い終えたった彼らの姿はすがすがしいものに見えた。障害の程度、欠損による運動機能の差をグルーピングしても、必ずしも、「競う」と言う意味においては平等とはいかないだろうが・・・。
東京オリンピック、パラリンピックでは、「金メダルを!」と言うアスリートたち・・・。その「思い」に応える開発競争に新たなアイデアやテクノロジー・デザインが求められている。目指し競う世界の目標レベルはさらに高くなっているだろうからだ。
障害者も健常者に負けないという強い意識、身体の欠損部の機能を補完する装具との一体となって対戦しているアスリートの姿、思い返してもそれらの感動は蘇ってくる。   デザインやテクノロジーが、その「思い」に応えねばならないだろう。
                        (2016/10・2記)
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メモ:
■そんな障害者に関わる研究は人間工学や、ユニバーサルデザイン研究と併せたデザイン系の教育・デザイン演習などにも反映されたテーマとして取り上げられて久しい・・・。
人が立つ―歩く―座る―寝る・・・。高齢者・障害者、病人・妊婦などの「マイノリテイ」、「バリアフリー」が問題だった。移動――生活用車椅子や杖、松葉杖、義足などをテーマとする福祉問題でもある。
・アメリカなどの軍人が、若くして障害者になった彼らの生活を、未来への夢を抱かせ、社会復帰させねばならないという福祉的な側面も。そのための『人間工学』であり、『ユニバーサルデザイン』が提唱されたということだ。ただ、近年は競い高めあうスポーツが生きる目標としても大きいように見える。
  日本では、障害者スポーツは社会参加やリハビリ・・・。パラリンピックとして、大きく流れを変えたのは1998年の長野パラリンピックの開催からだといわれている。陸上競技や車いすテニス等でプロ選手が活躍し、「障害者アスリート」といい、スポーツとしてクローズアップされてもいる。
■デザイン、テクノロジーがオリンピック・パラリンピックを変える!
・米山製作所=ヨネックス(ラケット)――下駄の加工、漁網の木浮き―→漁網や浮がナイロン製になり3度の倒産危機を乗り越え、浮きづくりの技術を生かすラケットに着眼!新素材(木→スチール→アルミ→カーボン)、重量(130g→70g)に軽量化し、高品質の製品を生むことに。ラケットの世界企業に!
・OX(車椅子、競技用車椅子)――経営者自らが事故で障害者に。車椅子に対する不満、問題意識が強くあり、アスリートと一体となるデザイン、究極的な溶接技術で世界最強の車椅子を目指すのだと言う。
・松下電器=パナソニック(放送用映像機器開発、その技術など)メーン会場のマラカナン競技場に110台の最新のパナソニックプロジェクターを設置。リオデジャネイロ五輪・パラリンピックの開会式、閉会式の祭典に艶やかな彩りを添えた。大型音響システムやLEDの大型映像表示装置、競技審判の判定時のビデオも。性能面で明るさと画質を一層高め小型軽量化。高画質スローモーション映像など、オリンピック映像の貴重な場面を生み出している。
・鬼塚=アシックス(スパイク)――1964年東京オリンピックでは「魔法のシューズ!」1人の技術者と選手が二人三脚で挑んだ、「マメが出来ないシューズ」の開発の試行錯誤にはじまる。靴の問題の前に足についての研究が必要だと気づかされる。マメが出来るのは火傷、選手がはしる40キロ余の距離、4万回も地面を踏みしめることによる、衝撃による熱が発生、火傷が、防衛本能が直そうとリンパ液が足マメなのだと気付く。靴に通気口を作り冷やす・・・。最新のスパイクシューズ内側にミシンの縫い目がなく「足を1枚の布で包み込むような」感触。東レが開発した自動車の特殊部品用素材、軽くて強い陸上用のスパイクを生み出した。
・ミカサ(バレーボール)江戸時代から受け継ぐ広島のボールメーカー“針の技術”が世界のボールを変え、東洋の魔女とまで言わしめた日本女子バレーチームの金メダルに貢献した。国際バレーボール協会から「ラリーが続いて観客が熱狂するようなボールを!」という依頼が・・・。ゴムの袋を膨らませ、その表面の強度と丸さを出すためにナイロン糸、ほぼ3000mを均一になるように巻いていく。その後8枚のシートを張り付ける作業、職人の熟練の技だ!ボールの飛び方に注目!試作品は600個余にも。そしてゴルフボールにヒントを得てバレー用のボールも完成した。選手たちはそのボールの特性、あらゆる飛び方を極めてオリンピックに臨んだのだと言う。(「モノづくり日本の奇跡 日の丸テクノロジーがオリンピックを変えた」 TBS TV 9月3日)
■BMWデザインワークス(独)がデザインを手がけた競技用車椅子。このプロジェクトは、BMWグループと米国オリンピック委員会がパートナーシップを結び、カーボンファイバー製の車体にエアロダイナミクスを考慮したデザイン。米国パラリンピック陸上チームのメンバーは、リオパラリンピック競技を前に、車いすの性能を改善、更に向上させるために協力している。
・走り幅跳びの記録に挑戦するドイツ人アスリートは自ら工房に勤務し、自らの義足も造るのだという。
自分自身の義足を造るのだから、これほど理想的なことはないのだが・・・。ただ、オリンピックに対してのパラリンピック、その記録を生み出すための義手・義足など、機能拡大の可能性が問題にもなるはずだ。
・総合福祉医療メーカーオットーボック(ドイツ)は、選手村に修理サービスセンターを置く。1万5000個のパーツや18トンもの機器類を備え、凡そ100人もの技術者がアスリートの義足や車椅子などの相談、修理依頼に応じているのだとか。(読売新聞16/10・1)