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清水教授のデザインコラム/連載 -162(04/11/2016)

受賞のテーマ――研究のプロセス・・・・

   今年度のノーベル賞(2016年)生理学・医学賞も大隅良典栄誉教授(東工大)が受賞された。2014年は物理学賞を日本人の3人が、2015年は生理学・医学賞と物理学賞に2人の受賞だった。3年連続の受賞という快挙!日本人としては、本当に嬉しく誇らしいことだ!これで日本のノーベル賞受賞者は25人、まだまだ多くの優れた研究者がノミネートされてもいるのだとか。しかし、これらの研究成果(発明・発見)を得たのは数十年も前、ノミネートされてから受賞決定となるまではさらに数十年が・・・?
毎年のことながら・・・世界の研究者、数人が選ばれ各部門の世界最高の栄誉だともいえるノーベル賞にということになるのだから、当のご本人が平常心を持って臨んでも、なにより驚き、喜ぶと言うことになるのだろう。
それほどに「人類にとって必要で価値あるテーマだ」と、言う確信は、ある程度学べば予想は出来る。しかし、同時に・・・その研究の成果を得るということが、どれほど難しいか!と言うことも・・・。何しろそんなテーマには世界が注目し、数千人、数万人の研究者が、昼夜を分かたず取り組んでいる。
今日も、そして、明日も、明後日も――。日々の可能性を信じて、ただひたすら求め続ける研究に没頭する――。結果は、忍耐と運次第ということにも。
その過程の成果は論文にして学会への発表。その繰り返しの中で確信が持てれば、次はNatue、Science誌などへの掲載に挑戦するのだと。掲載されれば、世界で認められることにもなる。「死ぬほど大変だったが・・・」と、ある研究者。「気が付けば10年、20年が過ぎてしまっていた・・・」とも。

今年度の大隅教授はこの28年間、一貫して細胞のオートファジーという現象の研究に取り組んできたのだとか・・・。体内を新鮮で健康な状態に保つために、細胞の中に球形の膜が現れて、不要なものや、古くなったものなどを包み込んで分解していく・・・たんぱく質のリサイクルだとも。細菌や植物、昆虫、魚類、そして、私たち人間など、ほとんど全ての生物に共通する生命現象。オートファジーが働かなくなると生物は死んでしまうことに・・・。
ところで、このテーマ、大隅教授が1988年に研究を始めた頃は、注目されず、まして、研究している人なども殆どいなかったし、関係する論文も年に数本だった。
「『人がやらないことをやってみよう』という心が働いたのだ」と。ニュヨーク郊外のロックフエラー大のエーデルマン教授(?72年ノーベル生理・医学賞)の研究室にいた時だ、「『酵母』のある現象を見て、一体何が起こっているのだろう?」、「それを知りたい・・・」と、研究を始めた。「動物の細胞ではなく、たまたま、『酵母』に出合ったことが成果につながる幸運だった」と。その後、大隅教授が酵母のオートファジーに関係する遺伝子18個を突き止め、細胞内で浄化作用が始まる流れを次々に明らかにしたことで大きな変化が起きた。世界中から参入者が相次ぎ、2015年には論文数が5,000本を超えて研究が競われるようにもなったのだ。
「発見」でなければ受賞はない、といわれるノーベル生理学・医学賞。日本人受賞者がipsの山中伸弥 京都大教授まで25年間なかったのは、「改良」が得意で生理学・医学賞のいう「発見」という条件は難しいから・・・とか。それでも、2015年に大村智 北里大栄誉教授が、今年は大隅教授に。求められる「高い独創性」を持った日本人研究者が増え、「独創性の時代が始まった」のではと科学技術の動向を長年にわたり取材されている読売新聞調査研究本部の芝田裕一主任研究員。
最近、オートファジーが癌、パーキンソン病、老化現象などにも関わって人間の健康や病気を左右する「根源的なプロセス」として認識されつつあるのだ。「あくまでも基礎研究で決して応用を考えたものではなかった」と。しかし、一連の発見は「オートファジー」に関わる人類の知識を飛躍的に拡大し、生物学の一大研究分野に成長させたのだ。
終戦、我が国がすべてを失ってリセットした年に生まれた大隅教授は、「人のやらないことをやるのが、私の推進力だった」と、「ちょうどいい時代に生まれました。分子生物学という分野が立ち上がって、わくわくしながら未知の世界に1人挑み続けた」のだとも語っている。
                        (2016/1・2記)
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メモ:
・「人がやらないことをやってみよう」と言う心がとても大事だ」と。母校の講演会で後輩の高校生へおくる大隅先生の4つのメッセージは、日常的に心がけて欲しいと言う大切なこと・・・。
  ・自分の目で確かめよう
  ・はやりを追うのは止めよう
  ・小さな発見を大切にしよう
  ・様々な面からじっくり考えよう
「人類の根幹にかかわる問題」に取り組み、最も重要な発見を得た究極とも言える研究の方法に習うことは意味あることだろう。ただ、言えることは特別ではないと言うことだろう。人間としての「興味」、「好奇心」に突き動かされ、考え信じる自らの方法を持って忍耐強く取り組む。ノーベル賞学者に限らず多くの研究者に共通するもので、テーマ・研究に関わる「究極の方法」は、1つではないと考えるべきだろう!
勿論、デザイン分野においても極めて重要!常に、心掛けねばならないことも多い!
コラム:137「デザイン力をつくる!気になるキーワード」など、目を留め考えてみて欲しいことだ!
デザインが人類の「根幹にかわる」と言うものではないかもしれないが、人間の生き方に関わる重要な問題であり、しかし、そのアプローチは基礎研究とは対極ともみえる一定のスピードを要し、結果を求められる分野ではある。勿論、目指すところはイノベーシヨンデザイン0→1というものだろうが、いつもその状態を求め得るというものではない。しかし、1→2,2→5のリデザインであっても高い発想力を持って価値あるデザインを生み出さねばならない。高いレベルの質的機能をみせる魅力的な造形が強く望まれてもいる。マンネリ化? デザイン細胞のオートフアジーが機能していないのかも・・・。
・ノーベル賞は、ダイナマイトの発明などで巨万の富を築いたアルフレッド・ノーベル(1833〜96)の遺言によって1901年に創設。物理学、化学、生理学・医学、文学、平和、経済学の6部門、100年余の歴史。「賞」は「人類の根幹にかかわる問題」に取り組み、「最も重要な発見をした人」に与えられる尊敬と権威ある賞になった。2000年代にノーベル生理学・医学賞の選考委員長カロリンスカ研究所のアーバン・ウンゲルシュテット教授は、「生理学・医学賞、『発見』の定義は、それによって新しい知識が急速に増大することだ」と。
・「オートフアジー(自食作用)」について中学生に尋ねると、必ず何人かが手を挙げる。「週刊少年ジャンプ」に連載されたことがある漫画、「トリコ」を通じた知識で、文章も正確で一流の科学誌に載るよりもインパクトがある理解だったのだとか。