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清水教授のデザインコラム/連載 -163(02/01/2017)

「デザイン思考」というワードの再考・・・・

  数年前からだろうか、よく眼にし耳にするようになった「デザイン思考」というワード・・・。
しかし、デザイナーの為の新たな理論ではない。
いまは閉塞状態にある我が国の多くの企業、しかも、海外の企業に対抗し得るような強力なものもないのだと・・・。このような時代に既存の市場の拡大や既存の商品の改良などという、いままでにやってきたようなことを繰り返しているだけでは企業の発展はないのだとも言う。そこで「まったく新しい事業」、「今までになかった商品、技術やサービスなど」のイノベーシヨンを求めるために、「デザイン思考」を導入するのだという。
「デザイン思考」によってビジネスを捉えなおし新たな飛躍の手掛かりを得ようというものだろう。「デザイン思考はライフスキルである」といい、「もっと大事なものはマインド」なのだとも。Biotope社長兼チーフイノベーシヨンプロデユサー佐宗邦威氏はその著書、『創造的問題解決』に「21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由」とし、自ら学び体験した米国のIIT―イリノイ工科大学デザイン学科でのノウハウを「デザイン思考」のエッセンスとして紹介している。授業の多数のフレームワーク、IDEOなどの事例がビジネスに極めて有効なのだというのだ。
ところで時代の変化は、サイエンス指向であった理工学系にも、「『デザイン』はテクノロジーの観点からとらえると、デザインこそが工学的営みの本質であり原点でもある」と。また、個別の人工物にとどまらず、それらを最適に組み合わせたシステム。これまで分野別にまとまりなく多様な開発がされていたものを、広く捉える中で改めてその脈絡の在り方を考えるべきだろうという。
デザインが意匠、図案、ポスター、洋服?・・・などと解釈された時代から、モノ――車や家電、精密機器などという大量生産品のデザインとして理解されてくる過程の渦中にいた私自身にも、大変感慨深いことではある。
いま、「デザイン思考」は「ビジネス思考」になり、「ビジネス思考」は、また「デザイン思考」にもなるということ。世界のMBA(経営学修士)トップスクールには、「デザイン思考」を教育として取り込む潮流にあるのだとも言うのだ。
アイデァを考える楽しさや夢中になって取り組む嬉しさ――アイデァを考へ、何かプロトタイプを作成している時のワクワク感、新たなモノの発想には夢中になる感覚がデザイナーにはあるものだ。
デザインは、様々な可能性を探究するが、科学性を求める数字やロジックに頼りすぎないこと、構え過ぎないことが大切だろう。「取り敢えずやってみる!」というアプローチから多くのユニークなアイデアや可能性を列挙し、より良いアイデァを求めると言うのがデザインプロセスだろうとも思う。徐々に見え始める解決のカタチ、そのイメージに集中力が高まるときの「ヒラメキ」がアイデアを一段と飛躍させるものだ!

デザイン理論には、数十、数百はあるだろうという発想法、その幾つかでも自らが選び体験することで十分に体得せねば、発想の飛躍があるわけではない。勿論、個人としての知力と常日頃の心構えが大切であり問題意識をもって自ら切り開くことが必要だろうことは言うまでもないことだ。
素朴であっても、取り敢えずは「自らの眼や手を使い、なにかをつくる」。その繰り返しワクワクするような体験の積み重ねが大切なんだと、改めて考えさせられてもいる。 私たちの住む世界は様々で複雑な問題がある。問題があれば答えとなるものは必ずあるもの・・・。
     ( 2017/1・2 記 )
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メモ:
・IDEO(シリコンバレー)---「デザイン思考」で注目されるようになったのは15年ほど前、5日間で、全く新しいショッピングカートを造り上げた時だという。TVで放映された後、番組を見た企業のエグゼクティブ 数十名から電話の問い合わせが。カートの話ではなく、それを生み出したイノベーシヨンのプロセス、関心はその一点だった。「人の行動を観察、ニーズを探る」「問題を発見しブレン ストーミングでアイデアを大量に」「これと決めたアイデアのプロトタイプを作る」、ショッピングカートの開発プロセスは、IDEOのデザイナーが毎日繰り返していること。2000年以降にハードからソフトデザインへとその領域を広げる。経営領域にも浸透し、多くの世界企業の商品開発や業務改善、企業戦略といった課題にも取り組んでいる。
・IDEO東京支社(青山)は、2011年に事業をスタート。医療、自動車、化粧品、教育、家電、食品、行政、IT、ベンチャーなど様々な領域、規模の組織とコラボレーション。市場は成熟期を過ぎ、組織も個人も「答えのない課題」に向き合い、誰も見たことのないものを創ることを求められる場面が急増している。
―自動車保険の体験を1からリデザインしたい(保険会社)
―未来の航空機内体験を考えたい(航空会社)
―研究開発部門の先行開発テーマを決めたい(化粧品メーカー・家電メーカー)
―日本人のチョコレート文化を変えたい(菓子メーカー)
―日本の組織でイノベーティブな人材を育成したい(政府関係)
―社内でイノベーションを生む思考を浸透させたい(家電メーカー)
―シニアと若い世代のコミュニケーションの新たな形をデザインしたい(通信会社)
―インフラビジネスの新規事業をデザインしたい(家電メーカー)
―銀行体験の未来をデザインしたい(銀行)
―新たな遺伝子検査サービスのコンセプト―ユーザー体験までをデザインしてほしい(IT企業)
―老人ホームの体験をデザインしてほしい(保険会社)
―イノベーションを主眼とした教育プログラムをデザインしたい(教育機関)
―日本のベンチャービジネスを海外進出させたい(現在各種ケーススタディ作成中)
・デザイン−それは工学の本質
「デザイン」とは、人間の創造力、構想力、実行力をもって、生活、産業、環境に働きかけ、それらの改善を図る営みを指します。すなわち、人間のクオリティ・オブ・ライフの向上という目的のもとに、創造力と構想力を駆使して、私たちの周囲に働きかけ、諸要素を意図的に調整・適合する行為を総称して「デザイン」と呼ぶことができます。これまでのサイエンス指向の理工学ではデザインをえてして軽視する傾向がありましたが、テクノロジーの観点から見れば、まさにこのデザインこそが工学的営みの本質であり、原点であると言えます。新組織ではこうした認識に基づいて、具体的な「ものつくり」に取り組む姿勢を重視し、創造性が要求され、構成要素を統合してより優れたデザインのartifact(人工物)を開発する科学技術の諸分野を、1つの専攻領域として総合しています。
(慶応・大学院理工学研究科)
・望ましい議論も180度違う。(それぞれにメリットがある―組み合わせてみることも)
―「抽象的なものから具体的なものへ」――「物事を本質や根源から考えようとする」―ツリー状に情報を分解していく方法―欧米など
―「具体的なことから抽象的なことへ」――現場の実情をしっかりと把握し細部から積み上げて全体を!」―カードに情報を書きグルーピングしていく方法(日本など)
・「人間が主体的に学んでいけるのはセオリーからではなく、自らの手でどんどんモノを作っていくことからだ。ラボでは何かを作ってこそという“モノ作り”の精神が根づいているといえる」と。「解決のアイデアを大量に出す」――ブレインストーミング、現場を熟知し、考え続けることで、予期せぬヒラメキをえる。失敗を恐れず「アウトプット」を生み出す――試行錯誤の繰り返しと「プロトタイプの制作で検討」、一気にゴールを目指さない、強みを伸ばす、楽観的に粘り強く。(MITラボ)