■清水教授のデザインコラム/連載 -164(03/02/2017)
「デザイン思考」というワードの再考・・・(2)
デザイン思考:Design Thinking」というワード・・・。しかし、プロダクトやグラフィックフデザインのための新たらしいデザイン理論ではないようだ。敢えて言えば、デザイナーのためのデザイン思考をビジネスに持ち込み、これまでには無かった新しい課題にも対応しうる斬新な発想法を得ようというものだ。
その「デザイン思考」――優れて発想力の高いデザイナーや集団の発想法や思考法にならい真似るのだという。ただそれで、デザインを専門としていた訳でもない人々が求めて結果を得られるものだろうかと思うのだが・・・。何しろ多くのデザイナーですら、その高い発想性を求めて日々に模索、苦闘していることでもあるからだ。
勿論、個人としての興味や資質、感性、知力、問題意識などの差があるわけで結果の質も異なるものになるということだろうが・・・。
確かにいま、人々は、それぞれの「より良いという生き方」の中にあったが、その矛盾を感じ、不満を募らせてもいる。そこにある問題を探ることであり、解決のカタチを求めようと言うことでもある。これまでの手法によるだけでは解決しなかったことも異なるバックグラウンドを持った人々が「デザイン思考」をキーワードとしてアプローチする、つまり、従来の専門性を越えた領域横断型のチームでイノベーシヨンをもとめようということだ。より良いアイデアを求める発想は、その繰り返しを体験することによるものだろう。
「問題があり、問題として取り上げられれば、答えも必ずある!」という経験的な確信を生みだすことにもなる。いま、「デザイン」というワードに対する狭義の解釈は広義にとって代わられ、キーワードとしての「デザイン」に分野を超えたイノベーションが期待されてもいるということなのだ。
「究極には、プロダクトを生み出したステーブジョブスのように、人々の意見や常識に囚われないと言う革新的な発想と新しいニーズ、既存の枠組みを超越していく先見性をもつことを理想とし、また、問題解決のプロセスをデザインした、「ビジネスモデル」をつくることでもあるのだとも。そこで重要視されるのが「デザイン思考」の「人間中心デザイン」なのだとも。
勿論、特に言うまでもないことだがプロダクトデザインは「ヒト」を中心においた発想ではある。
有能なデザイナーであっても、最先端となる発想は、自らの身体を通して発するものであり、眼と手を使い、アタマで生み出すもの、そのこと以上にはないようにも思う。
勿論、当然ながら、デザインを学ぶことは、自身の確かな感性と脳力を磨き上げることにあることは間違いないと思う。自らが主体的に考え、手を使い、身体を使って何かをつくりあげることの実感!アイデァを考える楽しさ、夢中になる身体の感覚がデザインに要求される感性をはぐくむもの。モノを見る眼、見ること、観察することへの若い身体への反応は新鮮なアイデアの素であり、情報源ともなるものだからだ。見ることから描き止めるスケッチ行為はそのカタチに対する確かな記憶となるものだろう。美意識をもって構想する力、デザイン力を養うのは方法論からのみではなく、自らの身体すべてを駆使しての学びでもある。
創造することの取り組み、その繰り返しの中で徐々に見えはじめるイメージを実感できる身体感覚がプロダクト系の発想の特性でもあるのだろうと思う。
そんな経験の積み重ねが直感力をつくり、ユニークなアイデアをも生み出すことに意味があるのだろう、と改めて考えさせられてもいる。
いまは、地球規模の活動領域を考えない訳にはいかないだろう。様々な分野の現場で問題を捉え、解決する直観的な脳力、発想・イノベーションが強く求められてもいるのだ。「デザイン思考」をキーワードに、既存のワク組みを捉えなおしたデザイン、斬新な発想を得ようとする試みにも参画する意欲を持たねばならないだろう時代なのだ。時代を映す、それらのテーマの内容は実に雑多で要求水準も高い。ヒト中心のプロダクトデザイン本家の強みを持って、様々なテーマにもチヤレンジしたいものだ。
(2017/2・1記)
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メモ:
・プロダクト デザインの基本的なプロセス――デザインは、人―モノ―環境の中にある問題を見出し、解決の可能性を追求する。数字やロジックに頼りすぎず、構え過ぎず「取り敢えずやってみる!」という気楽さでテーマに取り組み始めて、理想的な解決にアプローチしていくのだ。その繰り返しで「デザイン力」としての直観力、発想力を体得し新たなアイデアでありイノベーションを生み出すのだ。デザイナーは、ほぼ毎日のように繰り返していること。こうした課題を打開するのは「常識にとらわれないこと」だ。
・IDEO(シリコンバレー)---「Design Thinking−デザイン思考」が注目されるようになったのは15年ほど前、5日間で、全く新しいショッピングカートを造り上げた時だという。放映された後、番組を見た企業のエグゼクィブ 数十名から電話の問い合わせが。カートの話ではなく、それを生み出したイノベーシヨンのプロセス、関心はその一点だった。いまは、医療、自動車、化粧品、教育、家電、食品、行政、IT、ベンチャー、或は一国の教育や文化的な問題の依頼など、様々な領域、規模の組織とのコラボレーションなど。「答えのない課題」に向き合い、誰も見たことのないものを創ることを求められる場面が急増。いまは、デザイン業務がハードからソフトへとシフトしているのだとか。
・デザイン思考のプロセス
1−「人の行動を深く観察し、ニーズを探る」
2−「問題を発見したらブレーンストーミングによってアイデアを大量に出す」
3−「これと決めたアイデアのプロトタイプを素早く作る」
4−「評価検討」のプロセス
・「Design Thinking」の発信源の一つと言われるスタンフォード大学の「d.school」の「Design Thinking」には、経営、法科、地球科学、工学、人文理学、医学、教育など文系理系を問わず多様なバックグラウンドの学生が参加し学んでいるが、彼らの学んだものとは真逆の思考プロセスなのだと。
人間を中心において課題の本質を見出すことで、この目的は「モノ」をつくることではないのだとも・・・。問題解決のプロセスを「デザイン」に学び、人間らしい生活を構想した発想、それを実現するためにデザインを学ぶのだという。課題は現場に足を運びフィールドワークやインタビュー、観察などをとうして課題の本質を見出し、多様なバックグラウンドをもつ学生たちの知識や思考を集めてアイデアを探るのだ。それがプロダクトになることもあれば、形のないものになることもあるのだと。そこには、プロダクトを特化してデザインする人もいないし、グラフィックデザイナーもいないのだと言う。
ここでいう「デザイン」はモノだけじゃなくビジネスモデルや問題解決に応用できるデザインも含むんです。「人に合わせたデザイン」である理由は、「Design Thinking」の基本はインスピレーション、観察、インタビューであり固定観念や伝統的な思考プロセスではなく、むしろ反対に既存の考えに捉われずに考えること。また、ブレインストーミングの範囲を広げ、ありえないような要素をくっつけて考えること。バラバラのキーワードをつなぐことで、若者の価値観を違う切り口から理解し普通の思考プロセスでは結びつかない要素も集めて、それらを結びつけることで「課題」の新しいアプローチの方法をさぐるのだとも・・・。
・最近は様々な分野で、「デザイン」という言葉が・・・。かつては、「デザイン」と言えば、「Industrial Design」を指した。しかし、最近は「Co-design」が注目されている。
多様な人々による「共創」という新たな学び。
昨年1つの実験をした。研究者やエンジニア、デザイナーからなるチーム「Innovators Guild」を組織し、「Co-design」によるイノベーションを通して様々な問題を解決しようと。現場は自動車産業の街・いまは荒廃した街・デトロイト。その調査では街灯が少なく、危険で夜間の外出もままならないのだと地元参加者の声・・・。現状を様々に検討した結果、ソーラーや新しい街灯は盗まれたり、壊されたり・・・。
そこで、アイデアとして安価な懐中電灯ではと提案された。さらに、それらの技術的な仕組みを教え、子供など各個人が手づくりした懐中電灯を手にすることに・・・。そんな交流があって街も徐々に活性化しつつあるのだとか。(マサセッチュウ工科大学―・MITメディアラボ 伊藤穰一氏)
・私が直接間接に参画した産官学プロジェクト課題co-designか?――問題は我が国の近代化の過程で生じる様々な課題でもある。その課題のベストアンサーではないが、その時にはベストと言えるものだろう。
?‘90臭い、汚い、危険と言われ、公園の木陰や街の隅に置かれて防犯上の問題でもあったもの。その公共のトイレ問題は、イメージを一新、各都市の、地域の、建築などのイメージアップを図るテーマとして提起し成果を上げた。
?‘93高齢・障害者用公衆便所――回転ドアの採用で車椅子利用時、防犯上の効果を考え不使用時は全開放にした状態でありクルマ椅子の出入りが容易。
?‘78年頃ものとして不要となったゴミ・空き、缶ビニ−ル,古紙回方法、収処理問題
?‘77頃「ゴミ」ではなく「資源」収集車に変えることで資源化意識への変換。生ごみの肥料やプラスチックなどの再資源化プロジェクト。
?‘76年頃 駅・路面へのたばこの吸い殻投棄問題。
?‘91〜92「道に駅が必要なのでは」と駐車場+トイレ+地域(市町村)の情報基地とした提案は現在の「道の駅」として全国的に・・・。村起しに一役買ったものに・・・。
?‘75空き缶、空き瓶回収資源化の問題など。