■清水教授のデザインコラム/連載 - 85(06/30/2009)
「34回目の軽井沢セミナー・・・・145枚のアイデア・スケッチ・・・・」
軽井沢研修所に滞在しデザインアプローチが行える時間は64時間・・・。
食事をとらず、寝る時間もとらない、その1時間に2・3枚?
発想し、そのアイデア・スケッチを描き続けると言う計算だ・・・。
これまでの記録は138枚、'80(54年)頃だったろうか?当時はB3版のPMパッドだった。
最近はひと回り大きいA2版サイズ、新たに記録を考えるべきだろうとも考えていたが、その必要はなかったということになる。
145枚を記録した二階堂翔太君、僅かに及ばなかったが141枚をものにした井上駿希君もスケッチ賞を授与されることになった。
何れも2年生であったと言うこともあって期待するものは大きい。
このことはややもすれば競争心、負けん気、やる気を持たず、ただ、おとなしい草食系などと評されている彼ら世代を再認識させるものとしても意味のあること、考させるものでもあったと思っている。
34年目になるセミナーは若者世代の大きな変化に、やや難しいものになったのでは?と考えていた。
そんな中での今回の快挙だった。
数十年振りに総枚数の更新があり145,141枚をものにした受講生がいた!
忍耐と自覚、自己への唯ひたすらに挑戦する姿勢にこそセミナーの目指す目標はあった。
最近の若者像を語る中で、草食系といわれる彼らは・・・・
豊かさの中で、従順な生き方を覚え人と競争することをキライ、何かと問題ありとされるゆとり教育時代の世代でもある。
バブルが弾け右肩下がりの元気の無い大人を見て育った世代・・・。
『失われた10年』を10代で経験し、右肩上がりの時代を知らず、物心ついたときから景気はずっと右肩下がり。その世の中を生き抜くためには、自分が人より抜きん出て勝ち組になるより、助け合える仲間とはぐれないことのほうが大事だと、彼らは本能で感じたのではともいわれている・・・。
「いい学校に入ったからっていい会社に入れるわけじゃない」、「いい会社に入ったからって一生安泰ってわけでもない」という考が定着した1990年代後半・・・。
1999年頃には「癒し」という言葉が流行し、社会の機運も「優しさ」へと変化していたのだ・・・。
デザインコラム/連載8(04/12/2003)「夢」に挑戦するのが豊かな人生・・・・
「10代のアンケート」から・・・は、'03年2月22日付の読売新聞紙面には中学生以上の未成年者、五千人(有効回収数2,942人回収率59%)に実施したもの。その、「全国青少年アンケート調査」についての掲載記事について、当時考えさせられたものだった。
「社会観」や「人生観」、そして、「日常生活」について聞いたものだ。
「日本の将来について」4人に3人が「暗い」と思い、75%が努力をしても誰でもが成功出来る社会ではない、と見ていた。
また、「どんな人生を送りたいか?」と言う質問には
「好きな仕事につく」69%
「幸せな家庭を築く」62%
「趣味などを楽しむ」54%
「金持ちになる」32%
「人のためになることをする」30・4%
「有名になる」15・2%
「出世する」13・5%など・・・。
明日の見えない時代、社会の現実に否定的、悲観的な回答が目立つ一方、個人や家庭を大事にすることが伺えるものだった。
紙面には「悲観の10代」の大見出しが・・・。
夢より現実、日本国民としての誇りは「ない」と33%が答えていた。
「内向き世代」大きな夢や希望は抱かない「血の気の薄い」若者達の姿が調査からは浮かび上がっていたのだ。
そのアンケートから6年を経た同じ世代・・・・
その20代男性のうちの6〜7割を占めているという「草食系男子」。新しい幸福のカタチは「飲まない」「買わない」「セックスしない」・・・。
増殖する超新人類は一見すると、自分勝手でマイペース、おっとりとして穏やかだが、余り協調性はないのだともいわれている。
職場で「コイツ、ヤル気あるの?」と見られることも。
20代前半の43パーセントが非正規雇用・・・。
上昇志向を失い、職場に不満を持つ者が過半数、2年目で3割が離職をする・・・。
一般にはスリムで少食、ファッションやコスメなど見た目への関心が、かなり高い。
消費にもしっかりメリハリをつける。
親や家族と仲がよく、女友達にも紳士的であり‘人を傷つけたくない’‘みんな仲良くしようね’女の子に対してガツガツし、隙あらばHしようと考えていたバブル世代(肉食系男子)のころとは違うのだとも・・・。
今は、女の子も男性と対等な立場で嫌なことはハッキリNOって言い、男がそれを跳ね除けて相手を傷つけるような真似は出来ない。
そんな周りの空気に敏感、未来の日本が求めていることをすでに察知し、その方向に向けて突き進んでいるのだとも言われている。
彼らは競争のなかで誰かを蹴落として、何かをゲットしようというよりは、周りと仲良くゆるくつながって行動し、みんなで仲良くやりたい、どちらかというと穏やかでおっとりしたタイプの人が多いのだとか・・・。
学芸会で主役を一人にするのをやめようとか、そういうことを言われ始めた時代。だから競争主義ではなく、周りと仲良くやりたいという意識が強いのだともいう。
ただ、いい学校や会社に入ることを考え、常に競争社会の中で生きてきた32〜38歳くらいの団塊ジュニア世代や、その上のアラフォー世代から見ると、彼らはまさにKY(空気が読めない)な人種で、扱いが難しいと思っている人も少なくないのだとか・・・。
どこか放っておけないひ弱さ、女性の母性本能をくすぐるのだとか。
車には興味がないけど、エコなブランドの自転車には興味があるとか、高級ブランドには興味がないけど、カジュアルブランドの1枚2万円のTシャツは買うとか、上の世代と価値観が違うだけ。
カッコイイ男はいい車に乗ってるとか、稼いでる男はいい女と結婚できて、いい家に住めて、いい車に乗ってるからモテる時代でもない、逆にローンを組んで身の丈に合わない車に乗る男は、自己管理が出来ずカッコ悪いとも考えている。
時代の移り変わりとともに、女性の考え方が変わった・・・・
最近の若い女の子は、仕事はそこそこ、子供も産みたいし、そのためにはある程度の段階で結婚もしたいって思ってる。そのなかで、自分の化粧品を買ったりエステに行くぐらいのお金は確保したいから、外に働きに行かせてくれないとイヤで、子育ても手伝ってくれる男じゃないとイヤとなると、何事にもハングリーで「オレについてこい!」って言うタイプの肉食系男子より、すごく稼ぐわけではないけれど、一緒に堅実にやりくりしてくれる草食系のほうが一緒にいて安心っていう結論になりますよね。男の子は、女の子のそういうニーズに合わせて2005年くらいから変わった。
もの分かりのいい子がモテるという時代にシフト・・・・
稼ぎがたいしたことなくても、ある程度パッと見がよくてもの分りがよければ、ちょっと年上くらいの女性にモテるだろうなんていうのを彼らは分かってる。
職場では、争いごとが嫌いなので、上司にたてつくような行動は起こしません。ただ、根回しや談合、会社の経費で客先とつるむといった不正には厳しいので、そういうことが発覚すると、反旗を翻す可能性が高い。
また、「とりあえずビールで乾杯」などといった昭和流の同調性も嫌う傾向、彼らはお酒の場で一杯目からウーロン茶だ。
協調性はあるが、上司や先輩に対して気を遣うとか、みんなで盛り上がるというのは好きじゃない。
自分の仲間以外のつながりはどうでもいい、会社が自分に何かをしてくれると言う期待もしてない。
20代の子の親はおもに「シラケ世代」と呼ばれ、いわゆる星一徹のような父親をカッコイイとする団塊世代の考え方が崩壊した時代なのだとも・・・。
しかし、デザインの動機は生活の中から創りだされるもの・・・・
デザインが考えるべきことがある。常に変化し続ける人の生き方はまた、新たな変化を必要とするものであるからだ。
デザインはその「変化」を求める人々の兆候をとらえ、欲求を読み解きながら未来を描き具現化することでもある。
様々な価値観を持つた世代、そんな多世代の「何か」を感じ、考えることだ!
なんの不満もない生き方の中で、しかし、漫然とモノに触れているというだけでは、デザインとして求められる答えを見出すことは出来ない。
145枚に象徴される発想力とその意欲は草食系と言われる彼ら若者像の理解を超えるものであり迂闊にも私の中でも考えられなかったことだ。
軽井沢セミナーについてはこれまでも繰り返し取り上げているがスタート以来訓練の目標は一貫している。「デザインスキル」の獲得、「デザイン力」体得のハードな訓練なのだ。
「失敗」「失望」「挫折」「辛い」「苦しい」「悲しい」・・・こと。
「夢」の実現にはそれらの前提が常にあることを学ぶことが必要だろう。その次にはじめて喜びがあることも・・・・。
それが人生であり生き甲斐となるものである。
(2009/6・29 記)
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メモ:参考資料
・週刊・東洋経済'09/1・10 東洋経済新報社
・超新人類・草食(装飾)系男子「お嬢マンが日本を変える」
牛窪 恵 講談社
・おしゃれ消費ターゲット 川島蓉子/小原直花 幻冬舎
・その他