新興国メーカーによるキヤッチアップが続き、「日本を超えた」とも、「技術的優位性はなくなった」ともいう強気なコメントを聞くことが多くなった。
確かに、そこに目指す製品があれば、あらゆる力をそこに集中し、製品を分析・分解し、再構築することは比較的簡単だろう。
製品で理解できないところは、必要とする人材を十分な報酬を与えて採用する・・・。
要素技術の独創性を重視しない多くの製品企画では基本的な機能や特徴を「足し算」と「引き算」によって商品化すればよいのだ。
液晶テレビなどは映像や音響の基本機能に絞りこんだ低価格化をもって、ユーザーを満足させる。
まだまだ、その思想は先進の製品を強く意識したものに過ぎないもの・・・。
それらのメーカーにとっては、開発し、あるいは、専業メーカーが開発した高性能の生産マシーンやシステムを導入する、後はマシーンやソフト次第、
熟練の技は無くとも、同等ともいえる高品質なモノづくりは出来てしまうことになる。
日本の産業界にとっては膨大な研究投資と相俟って、高い人件費、円高などもあって市場における競争力を失うという厳しい現実なのだ。
日本の強みは、国の内外を問わず切磋琢磨してきた個々の企業の飽くなき努力に加え,その職人的技術の集積によって成り立ってもいた。
最終製品メーカー,それを支える部品メーカー、金型や試作加工、素材など、実にさまざまな業態が系列化し企業を支え、日本の技術力を高い位置にまで引き上げていたものだ。
しかし、急激な合理化への移行は、これまで保ってきた組織力、系列化のバランスを破壊し、機密保持を難しいものにしてしまった。
既にそうした変化によって我が国が保持していた高品位製品のノウハウは急速にに拡散しているのも事実だ。なによりも、それらに関わる優秀な人材の引き抜きには、なす術を失っている有様で、アジアの新興国企業との間に差別化が困難になるという非常に大きな課題にも直面、低価格化商品に市場を失っている。
せめても国内に於ける本社機能としては、海外の生産拠点を誘導し高い質を維持していなければならないが、整理・縮小を進めるあまり国際的な発想力の低下をまねき国内拠点としての実力を維持し難いものにしている。
製造拠点の放棄、整理、縮小による空洞化は負のスパイラルに陥ってしまうことを覚悟せねばならないことだ。
一度失ったものは元に戻すのは難しく、我が国の退潮を加速させることになるのだ。
日本でなければ造れないものづくり、日本の魅力をもって世界に貢献できる余地はまだまだ大きいはずだ。
その余地に日本の「モノづくり」の活路がある。
時代は確実に変化し、時に激変する。多くの企業が参戦し競い合う中で戦う姿勢こそがいま重用なのだと思う。
「日本経済の息ずまりを打破し、競争力を強化するために経済産業省が産業政策の見直しを打ちだした。経済再生の『産業構造ビジョン』のことだ。すでに欧米や韓国などの競争も激しい。出遅れを挽回するために資金提供からアフターサービスまで、首相や閣僚を先頭に、オールジャパンで市場を勝ち取らねばなるまい」読売新聞5・27・社説。
企業の危機感を反映し「いまは、国同士の戦いだ。個別の産業、企業ではどうにもならない部分がある」(読売5.19)と。
遅まきながら業態再編の国家的な戦略を考えるべきときだろう。
デザインは自在に! 奔放に! 大胆に発想する・・・・
21世紀の世界は市場構造が激変し、技術の革新力やデザイン力が企業存続の生命線になる。
勿論、製品はビジュアル・アイデンティティやブランド戦略の中核をなすもの、その存在を確かなものとする強みを捉え、個性として具現化することがデザインには要求される。デザイナーには一層の独創性、常識を突き抜ける自在で奔放なアイデアを期待したいものだ。
3D対応テレビやEV車、情報端末・・・。時流に載る商品の発想と開発力・・・。
「いま、企業の商品戦略は、いかに機能に絞り込み、価格を下げるかの『引き算』に関心が移りつつあるように見える。
国際展開には不可欠の工夫ではあるが、国内に限れば少し寂しい気もする。
6月にかけて多くの商品は、最新の夏モデルが投入される。『次に大波に乗れる商品はどれか』。独自技術で高機能を加えた『足し算型』製品や技術の行方を思い、物色できる初夏の家電売り場には、どこかわくわく感がある。(読売新聞5・23「経済百景」/足し算が放つわくわく感)
しかし、単なる「足し算」や「引き算」のデザインでは駄目だろう。生活の、市場のニーズを超えて発想される「ものずくり」が必要なのだ。
その成果が問われることになるのだ。
まだまだ、我が国の「技術的優位性はある」。品質・技術力、デザイン力などを競うことによってMade in Japanとしての評価を確かなものとしたいものだ。
しかし、「わくわく感」を捉えるデザイナーの鋭い感性が形骸化、発想やデザインの根幹に欠落しているのではないかと懸念している・・・。
(2010/5・30 記)
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メモ:
・エンジンからモーターへ、車のあらゆる部分に電子化がはかられており、50~100台のコンピュターが組み込まれているのだとか。
快適な走行を考えた電子制御化が一層加速し、その売りにもなっているのだとか。
しかし、設計時における各部門との連携の密度が不足し、ソフトとハードの感性、運転の体験のない設計者のギヤップも有るのではないか。
・上海万博が幕を開けた。
万国博覧会という何よりも世界に向けて、自国の力をアッピールしたいと言う意気込みを見せる。一極指導体制にある中国にとっては、指導部の「指導」の正当性を殊更に自国民に誇示すると言う目的のためにも、形振り構わぬ意識が表面化したものにみえる。