■清水教授のデザインコラム/連載 – 70(03/30/2008)
「文字が大きくなる・・・・」
文字を読むひと、読まないひとが二極化するなかで、社会のマスメデイアとしての責任をもつ新聞、その文字が大きくなる。
一回り大きくし、これまで以上にゆったりとした読みやすい紙面をつくる。
老眼、近眼、遠視、乱視など、見えにくいと言う人々への配慮である。
「目に優しく読み易い紙面をつくる」というキヤンペーン。
とうぜん、1ページに入る文字数は減る。
しかし、「簡潔で明瞭な文章を心がけ情報が減ることはない」のだと。
「身近なテーマを深く掘り下げたり、解説を充実させることで、世界と日本の『今』をスッキリと理解させるのだ」という。
紙面の一部にレイアウトされた新しい文字による記事・・・。
読みくらべてみた。
たしかに、私の裸眼でもはっきりと読み取れる。
メガネが無くとも、いらだつことはない。
大きい文字による紙面デザイン、読売の工夫は・・・。
これまでの「14段組」から「12段組」に変えて、1行当たりの字数を減らすか、段数を減らし1段当たりの上下の幅を拡大するか?
方法は2つ。
今回の大型化には現在の1行、12字を継続し段数を減らし12段にすことを採用した。
現在の文字に比べて横に約7%、縦に約16%それぞれ大きくなり、面積で約23%広くなる。縦をより拡大して正方形に近づけ、文字の線も太くすることで、これまで以上にクッキリした感じになる」(読売新聞)
新聞界では1行 11字、あるいは10字も珍しくはないが・・・。
その10字、11字よりも「12字の方が視線を横に動かす回数が少なく読みやすい」と。
さらに12段での偶数は、二つ折りの折れ目が1段の中にくることは無いのだともいう。
文字を大きくするなかで、読売が、朝日、毎日、産経などが、それぞれ独自の紙面を競うことに・・・。
大きな文字は目に優しい・・・・
それだけではない、体にも脳にもよいという。
慶応大学医学部眼科・坪田一男教授は「文字が大きくなるにつれて疲れ眼(眼精疲労)になり難くなる」と。
「文字を読んだり、パソコンに向かったりすることで疲れ眼の原因の74%は眼球の表面が乾燥するドライアイなのだと。
小さい文字の場合、目を見開いて判読しようとするため、まばたきの回数が減少する、そのために眼球表面が乾燥する」と言うものだ。
もともと日本人にメガネが多いように、漢字、ひらがな、カタカナ、ローマ字などと表記記号の複雑さもあるのだが・・・。
もともと加齢によってもドライアイにはなりやすい。
また、「大きく見やすい文字は肩こり、疲れ目などの「不定愁訴」のほか、イライラ感やストレスを減らす効果がある。と指摘するのは文字の大きさなどが心理的にどのような影響を及ぼすかを研究する産業技術総合研究所の佐川賢氏。
文字が大きくなると文字情報を正確に判断する割合は向上し、理解度や満足感も高まっていく」と考えられる。
大きな文字による刺激が脳を活性化するのだという報告もある。
脳科学を教育、発達などに生かす研究を進める日立製作所フエローの小泉英明氏。
「老人ホームの文字も読めないと思われていた認知症のお年寄りに、字を大きくしたり、老眼鏡の度の調整をしたりして文章を読ませる学習療法をしたりしたところ症状が著しく改善した。よく見えるということがいかに脳の活性化に重要であるのかが分かる」という報告なども・・・。
コミニケーシヨンデザイン・・・・
意志を伝えることを目的にしている文字、その造型的記号のたようさ・・・。
その意志を伝える文字の配列・・・。
その大きさは視・知覚の問題であり、デザインの問題でもある。
かってのデザイン学会では、その目的に応じた文字の読みやすさ、タイポグラフィなどの研究が主流だったように思う。
「文字の形・比例寸法」「図と地の判別しやすさ」、「明るさ・色彩との関係」、「紙面の文字や図をみる眼の動き」など・・・。
しかし、いまは余り見ることがなく、また教育の現場でもそれほど確り教えられているようにもみえない。
その所為? あまりにも読み手を考えていない印刷・出版物が多いようにもみえる。
デザインの功罪・・・・
ひとはその気にならねば見ないし見えない・・・
同様に読む気がなければ読まない!
まして見にくい文字は読まないし、読む意志を失わせる・・・。
デジタル情報が氾濫する時代にはますますその傾向を強いものにしている。
読ませるための、読んで貰うためのメデイアデザインはそのための努力を要することになる。必要情報を伝える文字や図、写真などは、その素材、デザイン力の能力が問われる。
一般紙以上に、その効果を求められるのは店頭に積み上げられたスポーツ紙だろう。
どこよりも早く、そして目立つことが条件だ。
ライバル他紙を圧倒すること・・・。
忙しく通り過ぎる人々の眼をとめ、興味をそそるキヤッチコピーや写真の加工など。
四つ折り理論? 奇策をろうしても目立たせることだ!
その結果は直ちに、売り上げに繋がる・・・。
過剰とも見える紙面デザイン、その露出競争!
まゆつばもののニュース?
一般紙とは明らかに異なる目的、内容。スポーツニュース、好奇心、楽しさ・・・。
コマーシャルデザインの1面、なりふり構わず競うデザインの典型だろう。
ただ、デザインを語る条件としての「品格」「良識」「美しさ」「調和」などという形容詞は見当たらない・・・。
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情報を伝える意志、読ませ見せる工夫・・・。
出版物の目的・内容、デザインの質は、まさに発信元のセンスでもある。
IDにとっての,自分の発想とアイデアを伝えるためのプレゼンテイション。
「見て頂く」、「読んで頂く」という工夫と努力・・・。
そのデザイン力、多様なスキルを確かなものとして学び、試みて欲しい・・・。
(30 Mar. 2008 記)
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<参考>
・ちなみに、人間の眼は直径24ミリ・・・。
瞳孔につながる水晶体の厚さは3・6ミリから4ミリ。
僅かに、0・4ミリの厚さを変える調節力によって無限遠から眼の前20センチまでの連続的なピント調節ができる仕組みであり、これは光の屈折と収束に関する光学的原理に厳密に支配されている。
この高精度の器官は、ときに微妙なずれを起こす、眼の屈折異常で、近視、遠視、乱視、老眼など・・・。
・高齢社会は進み、65歳以上の高齢者人口は昨年9月現在、推計2744万人で、総人口の21・5%。人口割合ともに過去最高を記録した。老眼鏡の使用割合は66~75歳で68・7%76歳以上が68・4%だった。
また、文部科学省によると子供たちの視力も低下傾向にある。
同省の2007年度の調査では、裸眼視力が1・0未満の割合は小学生で28・07%で、20年前に比べ8・53ポイントも増えた。
中学生では、12・75ポイント増の51・17%だった。
・日本の文字、その造型的記号の多様さと複雑さ・・・。
テレビや携帯、ゲーム器などを使う機会が多い現在、若年層にも、「大きな文字が受け入れられている」と出版社。
「大きい文字」を売りにした出版物もふえ始めている。
・新聞の文字大型化の歴史、戦後、読売新聞は1行15字で15段組の体裁に併せた小さな文字を長い間使っていたのだと言う。それが「1倍」と呼ばれる文字、面積はメガ文字の半分にもならないと言う。
83年、従来よりも面積を一気に26・5%拡大した文字(N字)を採用。同時に1行15字を13字に転換した。89年には18・5%大きな文字(P字)に変え、1行12字のスタイルとした。更に高齢化を見越し、2000年12月には、P字よりも22・4%と大きくし現在の新聞紙面の主流(S字)に移行した。併せて、50年続いた15段組を14段組として見易さ、読みやすさを一層アップした。
・前回のコラムで取り上げた円高への移行・・・。
予想以上に早い動きは我が国らしく外部的な条件。
特にアメリカのサブプライム問題による・・・。
我が国の輸出依存大企業にとっては、当分は厳しい局面になるのだろう!