社会を変えるデザインの力
アメリカのプロダクトデザイナーのイーブ・ビーハーさん(40)は、貧困問題にも取りくむ社会派デザイナー。有名デザイン誌の表紙を飾るなど、いま、もっとも話題のデザイナーなのだ。トルコ人の父と東ドイツ出身の母、スイスで育った彼は、シリコンバレーでパソコンなどのデザインに関わった後、独立した。彼の生み出すデザインは、パソコンや電気スタンド、洋服や靴などと幅ひろい才能をみせる。洗練されたもの、見た目がかっこいいというだけではない。
社会派としての作品には、緑と白を貴重にした「100ドルパソコン」のデザインがある。途上国に向けた低価格製品で洗練されたデザインに加え、途上国の子供たちに送る費用を米国内での価格に上乗せし、「一つ買って、一つあげよう」というキヤンペーンの実施もあって、6週間で25万台が売れた。
つまり、これまで「パソコンに触ったこともない途上国の子供たちに25万台のパソコンが提供されたと言うわけですよ!」と、得意げに話してくれたのだとか・・・。
彼がデザインしたコンドームもまた、好評だったという。
ニューヨークでエイズ予防のために無料配布されたが、昨年は1000万個と言う市当局の当初予定を大幅に上回る3600万個も配られた。
「彼を含めた多くのデザイナーとの議論を経て再認識したのは、デザインは社会を変えられる力を持っている、ということだ。
こうした力を背景に、デザインの役割は急速に変わりつつあると感じた」という井上滋樹 MIT・マサチューセッツ工科大学客員研究員(博報堂より出向中)のレポートが読売新聞夕刊(’08/2・21)「世界のUD:46 社会を変える デザインの力」に掲載されていたもの。
プロジェクトのシンボル・100ドルパソコン
この、緑と白を基調にした「100ドルパソコン」はMIT教授のニコラス・ネグロポンテを中心としたOLPC(One Laptop Per Child)によるNPO活動の一つ・・・。
途上国の子供たちに新らしい教育理論にもとずいた学習の手段を提供することを目的とし、そのツール、ラップトップパソコンを100ドルで生産・支給したいというもの・・。
電気もない、故障しても簡単に修理も出来ないだろう環境を考えると、かなり厳しい条件でもある。
a最小限の製造コスト(目標は100万台の製造時に100ドル)
b最小限の電力消費(全消費量2~3Wが最終目標。自家発電装置付き)
cクールなデザイン(一見して革新性を理解させるもの)
d頑丈で、故障しない(使用に耐える構造体)
e電子書籍の機能(低消費電力で)
fソフト(オープンソースとフリーソフトを使う)
gその他ボランティアによるソフトウエアーの開発など・・・
と併せて、その具現化のイメージや条件の第二世代機、緑と白のPCが生み出された。
2007年11月には数週間の限定で「Give One Get One」のプログラムを開始。
アメリカやカナダの一般ユーザーに2台400ドルでOLPCのホームページから販売され、1台は途上国に寄付され、1台が購入者の手元に届けられた。
「100ドルパソコン!」とはいえないが徐々にその価格は切り下げられているのだとか・・・。
また、パソコンは各国政府などにも売られ、「One Laptop Per Child 」の理念のもと子供たちに配布されている。
ブラジルやタイ、エジプト、アメリカ、カンボジア、リビア・・・など、多くの国々が協賛し、マサチューセッツ州は全児童に100ドルPCを配布する法案を議会に、ナイジエリアは100万台の注文を決めた最初の国・・・。
刻一刻と増えつづける人口は、66億6000万人
少子化に悩む我が国とは異なり、この地球人口は増え続けている。
1分で140人、1日に20万人、1年では8000万人が、その増加のスピードは加速もしている。その大部分は途上国の人々・・・。貧困、紛争やテロ、エイズ、医療、食糧難や飢餓など・・・。この惨状も日本人には遠い存在として無関心、日常からは忘れさられたものとなっている。余りにも恵まれ、豊かさ故に生まれた悩み?に日々目を奪われて、国際社会の1員としての自覚すら失せているのだ。
デザインもまた日々豊かさの中で、「きらびやかさ」と「癒し」をのみ追い求めるもののように・・・。
Give One Get One
途上国の未来を担う子供たちへの教育、100ドルパソコンのプロジェクトは、一つの示唆を与えてくれるものだろう。
日本人の意識にほんの少し、「豊かさ」のおすそわけをする心を持ちたいもの・・・。
あり余るものの中でも必要な鉛筆やノート、100円が200円ショップになってもと、考える。
子供に与えた鉛筆1本、ノート1冊・・・。
さらにその+1本 +1冊が誰か、どこかの友達と共有しているのだと言う共感!
1つを2つに・・・。他人と分かち合う心があって、生きる豊かさが見えてくるものだろう。ハガキやメールの交換も、出来たらいいね! まだ見ぬ人々、国々に思いをはせながら・・・。
そのことは多分、意味を見失いつつある我が国のデザインの、その<起点>を思い起こさせてくれるものになるのだろう・・・。
(2・28/’08 記)
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追記:
・途上国のデザイン、日大では・・・。
平成12年と平成14年の軽井沢セミナーではそんな途上国をテーマにした。
「途上国の青少年のための情報・娯楽機器(ソーラーバッテリーラジオ)、また「途上国青少年のための学習机のデザイン・・・」。
そのためのグループによる調査は何よりも対極とも見えるもの、想像を絶する途上国の人々、生活や環境を理解することでもあった。
さらに、数人でも関心を持ってくれたら・・・。
彼らのライフワークの理解、脳裏に描き浮かび上がらせるイメージ・・・。
途上国にとって「学童教育」は、国の将来をたくす極めて重要なこと。学童に夢を与える、そんなデザインであって欲しい!
・全国の卒業制作から選ばれる『ラッキーストライクデザインジュニア賞』、
平成12年の橋本君が佳作賞。平成13年は遠藤暢子君、柳川穣君の2名が審査委員特別賞を得ていた。柳川穣君は障害者ダイビングをサポートするウエットスーツのデザイン。
遠藤君は「途上国の人々のための履物のデザイン」著名な照明デザイナーである『石井賞』。「定番となっている卒業制作のテーマだけではなく、アフリカの子供へ目を向けたそのテーマに・・・」との石井さんのコメント。「日本の若者も、もっと世界に目を向けて欲しい・・・」とも思いを述べられていた。
その思いは私も同じだった。