樹
この言葉が、私は好きだ
樹
この文字を眺めていると
地の底から沸き起こってきた
生命の原基が
脈々とした成長の法則に従い
天空をめざして伸びていき
たくましく壮重な巨幹のいただきに
むらむらと樹冠を放射してみせる
大地の混沌から脱皮し
自然律の秩序を構図した
壮大な緑の形象が浮かびあがる
その重ねられた年輪には
夏と冬との積層のうちに
森の樹々たちの
森の鳥や虫たちの
森をめぐる人間たちの
生きてきた時間が
ひとつひとつ刻み込まれている
樹は
風のなかに孤立した自然物ではなく
人間の足あととの営みが
太陽の光と大気とともに
吸収され同化され
大地の上の造形と化した
永い永い地球の歴史の
記念碑なのである
樹木科学と樹木美学との
国境のうえにたって
私は樹木を仰ぎみる
樹
この言葉のある限り
樹について私は語り続けたい
(樹/足立輝一著 講談社現代新書より)
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ナチュラリスト足田輝一の著書、「樹」の冒頭の一文である。
その一節、一節に私は心惹かれていた。
人は樹に触れ、眺めることで癒されている・・・。
とくに、我が国の四季折々の変化には感動させられるものだ。
この風土が日本人の伝統的な情緒、繊細な美意識を育くんだともいわれる・・・。
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ところで、緑という言葉は人の生きる健康な生活基盤をイメージするもの、環境問題の切実な要求となっているものでもある。
その緑とは当然、森の緑。樹々の、木の葉や草花の緑でもある。
夏にはほぼ近似の色調を見せている一群の樹々も、秋にはそれぞれ樹種の個性を見せて、一変させてしまう。
こんもりとして見えた森、緑の塊に黄色から、赤色、褐色とをちりばめて徐々に季節の色彩風景を描き出してみせる・・・。
空を覆って舞う蝶?一瞬、驚いてハンドルを取られそうになった。
目を凝らすと、上空高く枝葉を広げた樹々の梢から突風に吹き上げられた褐色の木の葉だった。
川越街道から所沢キャンパスへと向かうインターチエンジを運転中のことだ!
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葉を散らした冬にはそれらの樹形を構成する繊細な小枝を見ることが出来る。
樹がそれぞれ特有の形を持っているのは、樹種によって形態形成の法則を持っているからだといわれている。
また、「人が樹という存在に美的な感覚を覚えるのは樹の姿の法則性にある。
それは生命現象の特色でもあり混沌という未分化の存在でありながら、その生成の過程においては、自然の規律に従い、秩序ある発生と成長を示すところに美が顕現するからだ」と足立輝一は記述している。
しかし、それでも、それらの全てが2つと無い独自の樹形を持っているように見える。
近似的であり、秩序あるものとされてもそれらの 個々のすべてが独自の形と彩を持っていることに、私は心惹かれてもいる。
自然の、それは人工的に生産されたものとは対極のものであり、その複雑で多様な存在故に心癒されてもいるのだ!
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そして春、生命の季節!樹々は新緑に彩られることになる・・・。
(11・30/2005 記)
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追伸
樹々の彩り、四季の変化に心惹かれる・・・。
黄色、紅色、褐色に彩られた風景を描くことに、私は躊躇していた・・・。
余りにも鮮やかな色、光に透かしてみた、その透明な彩りをキャンバスに表現することは出来ないと思ったからだ・・・。
今年、敢えてその紅葉の風景を挑戦してみた、・・・。