西武鉄道は創立100周年を迎えたことを記念して、2018年度に新型の特急車両を導入することを発表。池袋、新宿から秩父、川越間の特急「ニューレッドアロー」以来、おおよそ25年ぶりの特急車両のデザインである」と。新型車両は、8両編成7本の合計56両を導入する予定なのだとか。
最近は鉄道各社が次々に新型の車両を発表し、なにかと話題になっていることもあり、西武鉄道としてもニュースとして話題を集めることも必須の条件だろう。
そのためのコンセプト――企業ポリシーやサービスなどの内容を鮮明にみせることだ。西武系の若手を集めたプロジェクトチームによって未来を予測し、ユーザー目線のイメージとしての「想い」は『いままでに見たことのない新しい特急車両を』というものだった。
その「想い」を見える「カタチ」として具現化する。そのために「期待し得るデザイナーとして世界的な建築家・妹島和世氏に依頼したものだ」と言う。
《デザインコンセプト》
1都市や自然の中で柔らかく風景に溶け込む特急 これまでの特急デザインのように、シャープさや格好良さより、優しさや柔らかさを表現します。特急だけが風景の中で目立つのではなく、風景とともにあるような特急を目指します。
2みんながくつろげるリビングのような特急 いろんな人が一緒にいながら思い思いに自由な時間を過ごせる空間を表現します。ゆったりくつろげるリビングのようでもあり、みんなが集まる公園のようでもある。それぞれが自分の時間をもてる新しいパブリックスペースの提供を目指します。
3新しい価値をただの移動手段ではなく、目的地となる特急
乗り物の姿・形をデザインするだけではなく、みんなが参加することによって作りだされるような特急の新しい価値を表現します。特急で過ごすことが目的となるような空間・雰囲気・たたずまいを目指します。(妹島和世+西武鉄道プロジェクトチーム)
鉄道各社の競合意識の中でも、より良い「差別化」と「サービス」をうりにした車両デザインの要件がコンセプト化されるのだが、そのデザイン条件をどれ程に具現化するのかは、なかなか難しいことでもある。
もちろん、高速の鉄道車両である。安全・安心を極めること、ユーザーの乗降、移動などに対してのきめ細やかな配慮であり、犯罪防止や落書き、破損、火災などの極めて現実的な問題などの対応もまた、何よりも忘れてはならないことだろう。
高い技術力、維持管理などの問題と一つになって条件を解決せねばならない。
公共交通機関としてのハ-ドなノウハウ、基本的な条件は製造を担当する日立製作所にもよるだろうが、快適性を考えた未来的で「カッコイイ!」と、人々に感動してもらえるコンセプトを「カタチ」にしなければならないと言う訳だ。
75分という所要時間、限られた移動空間での快適性であり、「今までに見たことのない車両」を、と言うその期待の内容に応えることだ。
「『いままでに見たことのない新しい特急車両を』ということでお話をいただきました。特急のデザインはもちろん初めてですが、建築と一番違うのはいろいろな場所を走ることが出来ることだと思います。秩父の山の中や都心の街の中と、いろいろな風景の中を走る特急が、やわらかくその風景と共にあるようになれたら良いなと思いました。また、たくさんの方々がみんな思い思いにくつろげるリビングルームのような、今日もまた乗りたいなあと思うような特急になればと思っています」と妹島氏はコメントされている。
デザインの究極?を求めて、まずはその可能性を列挙することが必要だろう。
あらゆる理想となる可能性、その中から具現化するためには、また、その理想をそぎ落としながら依頼者の期待と採算性に応えるかがデザインでもある。車両デザインの次世代へ向けた新たな可能性、私も期待しながら待ちたい。 (2016/4・1記)
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妹島 和世(せじま かずよ、1956年生れ)氏、建築家、慶応大学理工学部客員教授、日本女子大学客員教授、多摩美術大学客員教授。プリッカー賞、日本建築学会賞、吉岡賞など受賞。SANAAを西沢立衛氏と共同で運営する。代表作:金沢21世紀美術館やデイオール表参道、日立駅自由通路及び橋上駅舎など。
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メモ:
・かつての国鉄も民営化されると、経営の効率化とサービスを競いあうことになる。
特にJR九州はデザイナー水戸岡鋭治氏に車両デザインなどの全てを依頼、木やガラスなどをふんだんに使った内装など、利用者が喜ぶような漸新なアイデアに挑戦して話題をあつめている。「鉄道車両の常識では考えられないことだ!」と社内では不評なのだとか。「車両に木やガラスなどを使うなんて非常識!」という訳だ。
しかし、「ヒットさせるためには世界一のものを作らなきゃいけない。だから、予算など念頭におかない提案だ。たとえ予算をオーバーしても、多くの人々に感動を与えてヒットしたら成功なのだ」とも。「オーナーとの相互信頼であり、理解があってこそ提案を重ね、ユーザーの信頼も勝ち取ることが出来たのだ」と、水戸岡鋭治氏は語っている。
水戸岡氏にはJR九州の車両デザインに取り組みはじめた頃だったろうか、本学の特別講義をお願いしたことがあった。家具、建築、グラフィックデザイン、イラストなどと多才な能力を見せても頂き感動したことを思い出してもいる。
・首都圏の新宿、池袋――秩父、川越をつなぎ沿線各地域をふくめた活性化が期待されてもいる。ホームに滑り込んでくる特急車両、そのフルサイズの威容には強烈なインパクトがあり、旅をするものの感動でもある。そんな車両デザインの「今回のイメージされた車両はアルミ製で、丸みを帯びた斬新なデザインが特徴で、車両が風景に溶け込むことを目指したのだ」とか・・・。
私も、この60年来、沿線に住み朝に夕に風景の一部として通過する特急車両を見送っている。踏切の遮断機の前では足踏みをしながら、早く行ってくれと思っている沿線住民の一人だがワクワクするような「見たこともないもの」が通過するのだとしたら、驚き感動することだろう。瞬間でも楽しむことが出来るのでは、と期待もしている。
さらに言えば、車両デザインと併せて、地域の要ともいえる駅舎やホームのデザインも西武鉄道としての統一性、デザインポリシーに留意されることも大切だろうと思う。全体の統一された「カタチ」と「色彩」、「文字」なども、西武としてのイメージアップにもなりユーザーのみならず沿線住民の誇りにもなるだろう、と思うのだが・・・。