専門家からすれば、あまりにも常識なことで、「ありえない!」と云われていたことを覆してしまったのだから・・・世紀の大発見だった!
そのニュースは世界に発信され驚愕させたものだ。先にノーベル賞を受賞した山中伸弥教授に次ぐものであり我が国の再生医療を誇らしく思ったものだ。
それは、分野は違ってもデザインアプローチでの「常識を突き抜けた発想を!」と、考えるクリエーターに勇気をあたえる事例となるはずのもの、そう考えてもいた。
ところで、問題となるのは「常識」が何であるかも分からず、一寸思い付いただけのことで「出来る!」と思い込んでしまうことだ。
十分な経験的思考の過程をふむこともないままに、常識を突き抜ける発想など出来ないということだ。

今回、一連のマスメデアなどから読みとれる小保方晴子さんのクリエーター資質や発想力には、その意味でも興味があった。
私がイメージするデザイナー像の条件を備えていたからだ――明確な目的意識、行動力や実行力、想像力、コミュニケーション力、強い思い、あきらめない心、美意識、情熱、リーダーシップ、チームワーク、人間的魅力、協調性、強運・・・・など。
多分、日本を代表する理化学研究所においてもそこを見込んで若手研究者、リーダーとして次世代の可能性を見ていたに違いない。
研究経験の不足を補うためにはベテラン研究者が若い女性研究チームをサポートしていた。「時代の持つ特殊性だ・・・・チーム内に厳しさがなかった」と、野依理事長。若い研究者の能力を引き出すことに寛大であること、自由闊達な研究環境を大事に育てたいという思いが裏目に出てしまったということか・・・。「科学者としての『ありかた』、正しく育てる『厳しさ』が必要だったのだ」とも・・・。特に科学論文は発表まで内容を外部に明かさないのが原則だから、論文の根幹にかかわる画像で流用を見過ごしたこと、全体を確認することが出来ず取り返しのつかない大失態につながったのだ。STAP論文の内容はこれまでの常識を覆すものだけに査読は難しく、画像転用の可能性なども見抜くことは難しいのだとも。

しかし、ネイチャー誌に論文が発表されると、不自然な画像やデータについて世界の研究者から指摘が相次ぎ、「STAP細胞が本当に出来たのかすら確信のないものに。重要な証拠の一つである特定の遺伝子の変化についても、研究チーム内では、「変化がある」から、「変化はなかった」と変わっていたともいう。さらに「研究チーム内の会議に提出された過去のSTAP細胞関連の実験データを検証したところ、論文と同様に不自然な画像が見つかるなど、重大な問題が複数見つかったのだという。3年前の早稲田大学の博士論文でも、小保方さんは大量のコピペが疑われ、研究リーダーとして、研究者として未熟だったことも指摘されることになった。
まだ、事実のすべてが明らかにされてはいないが、今回のような意図的で特殊な事例も、まま有ることらしいのだが・・・。
(2014/3・30記)

メモ: ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・STAP細胞だとされた映像の前で、にこやかにプレゼンテイションがなされ、あわただしく発表されたネイチヤー誌の論文には様々な問題点が指摘されている。一転、小保方さんには夢でも見ているような経験したこともない事の重大性を今更のように実感しているのだろう。

今回の一連の騒動について識者のコメントが先日の新聞に掲載されていた。異分野ゆえに不可解に思っていたことも少なからず理解する事が出来た。先端的研究領域の置かれた厳しい状況なども・・・。デザインの研究者という立場もあり示唆されることも多いのではないだろうか。ご一読を進めたい。

◇科学の世界はデータの捏造や改ざんなどの不正が起こりやすい。仮説を立てて実験に取り組む。「こうなるはずだ」という思いが強すぎるとデータをねつ造しかねない。顕微鏡で観察、撮影した写真が成果になる。だがそれをどう見るか〇か1では判定できない。仮説に近い写真を使いたくなる。(北沢宏一 東京都市大学長 科学技術振興機構理事長)

◇生きた細胞を増やすという研究の特性。実験者も気づかない条件で細胞が変化したり、ごくまれに細胞が勝手に性質を変えたりして幹細胞のようなものが偶然出来ることがある。だから細胞が「完全になかった」と証明することは難しい。
(京都大学 再生医科学研究所教授)

◇もしかしたら、小保方晴子さんという存在は、この分野が抱える様々な問題を明るみにだすための必然だったのかもしれない、とも思う。
科学の世界は分業化が進み、異分野の科学者がネットワークを作って研究する。全体をきっちりと把握して判断できる人がいないとみんながバラバラになる。先人の何を受け継ぎどう発展させていくのか。先人の研究に敬意を表し、自分の研究はその蓄積の上に成り立っていることを理解することはすごく大事だ。十分な睡眠時間も取らず頑張っている研究者は多い。STAP細胞のアイデアは優れたものだったかもしれない。しかし、その思考のプロセスを支えるデータを示せないのだから、論文は撤回し、ゼロからやり直すべきだ。(最相葉月ノンフイクションライター 生命科学分野に詳しい)
(読売新聞3月26日朝刊 解説「STAP細胞問題」)

・失敗は、さらなる成功への過程であると考えるべきこと・・・。
成果を得るためのデザインプロセスは問題の壁を乗り越える1つひとつの試行錯誤のプロセスである。その経験が成長の糧ともなるもので、MITでいう「クリエーティブな自信」は、実は自ら積み上げ繰り返された失敗の経験から得られたものでもある、と考えるべきなのだろう。

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