ジョブス、その影響力はいまも・・・・
輸出立国からの転換? 31年ぶりに貿易収支が赤字なのだという。
あいかわらずの閉塞感・・・などとも言うまい。我が国の未来を楽観的に展望できる話題もなく、あまりにも悲観論者が多くなっているからだ。
そしていま、スティーブ・ジョブスのようなリーダーが出て欲しいものだという期待がある。
慶応義塾大学特任教授 夏野剛氏は「製造業が衰退した米国において、アップルはパソコンやiPhone、iPadなどがヒットし世界の市場で快進撃を続けています。韓国や中国の企業に追い抜かれつつある日本企業だけが、ひとり負けする理由は経営者にあるのだ」という。「対抗していくうえでは日本にもアップルのような会社が生まれなければならない。そのために「哲学」をもち、「決断力」のあるリーダーがキーパーソンなのだ」と。
「そもそもスティーブ・ジョブスが考えていたこと、いまアップルが実現していることの原形は日本でも生まれていました。それなのに、そうした1つひとつの技術やサービスの将来性に気付き、リスクをとれるような経営者がいなかった。現状維持型ではない、ときにはハイリスク、ハイリターンを狙う、経営者が必要だったのです。そういうトップをすえれば、日本の企業は間違いなく大成功します・・・」と。
リーダーの決断と独断力・・・・
「大衆に従うのではなく、リードする感性・・・。ジョブスは、製品デザインに関しては、市場調査や消費者グループの意見に耳をかさず、業界の常識よりも自分を信じた。
iMacの開発も『デスプレイ一体型は消費者に受けない』という調査結果の報告にも動じることは無かったのだ」と言われている。「僕は自分が欲しいものを知っているし、みんなが欲しがるものを知っている!」とも。「大衆の意見に『従う』のではなく、『リードする』感性、自らを信じる強い信念がある」というのだ。
また、「ジョブスはパソコンの中身や、iPhoneのケースの裏側にまでもこだわりをもっていた。
我が国で、商品やサービスについて細かく理解している経営者がいるのだろうか」とも夏野剛氏は疑問を呈している。しかし、考えるまでもないが大企業でも「車」と言うカテゴリーに限られる企業に比べると、異なる数百、数千種の製品をもつ電機系大企業の経営者にとっては、それら個々に「こだわり」を持つなどと言うことはおよそあり得ないはなし。
とくに、横並びを意識した経営環境の中では、「意志決定」の難しさが次元の違うものになっているようにおもう。おのずと調査や数値に依存しがちであり、実感には乏しい決断をせざるを得ないということだ。
美意識を持ったモノづくり・・・・
カリグラフィに形の発想と自在性を学んだジョブス氏と機能性を形としてデザインを学んだダイソン氏に共通するものは美意識と技術的な生産的な発想力。そして、挫折、訴訟、資金難、誹謗中傷、猜疑心、そして多くの失敗・・・。ビジネスと仕事が創造力や充実感、人生の意義の源になりえることをしめし、技術者や経営者もアーティスト感覚であること、優れたデザインと美意識が競争力をもつことを直感していること。モノずくりに自らこだわりを持ち、少年時代から夢を追って関わり続けた創業者CEOでもあるということも・・・。
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ジョブスの直感力はベトナム反戦デモに騒然とするアメリカ社会のなかで、若者らしい悩みを持ってインドを旅し、帰国後はリンゴ園で働いたり・・・。やがて、友人とボードコンピューターを自宅ガレージで造り創業すると一応の収益をあげる。さらに、Trial and errorを繰り返しながらも自らの感性を磨きあげて自信をさらに確信へと変えていったものだろう。それが「こだわり」であり、「思いつき」や「ひらめき」をも生みだす発想の厚みになっているものだろう。
会社の創業と破綻。また、創業した会社は追放されるという希有な経験も人生の哲学であり、信念をもったオーナーCEOでもある。
我が国の競う技術力・・・・
もともと、アイフォンもアイパッドも日本の高い技術力やすぐれた生産力と高品位な部品が無ければつくれなかったものだろう。
スマートフオンはデーターを記憶するフラッシュメモリー(東芝)、イメージセンサー(ソニー)、半導体メモリー(エルピーダメモリー)、通信用電子部品(村田製作所)、水晶振動子(大真空)、さらにパナソニック、旭化成、TDKなど・・・。世界156社の協力を得て造られているのだと公表している。前出の夏野氏の言葉を借りれば、「最先端の技術や部品があり、上場企業がもつ内部留保は200兆円、個人の金融資産は1400兆円ものカネが眠っています。これだけの条件がそろっているのに出来ないのは、なぜ ? これはもう、経営者の問題なのでは・・・」と。
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なにかそのことに答えるように、スティーブ・ジョブスの友人でもある経営者を代表するソニーの井出伸之元CEOが先日のテレビ番組の中で、はじめて告白するのだと・・・。「ソニーにはそれらの条件はすべて揃っていたのだが出来なかった。そのことが悔しい!」と。「社会がつくりあげていた価値観念を壊してもその事をやるべきだった。その事を決断することに腹が据わっていなかったのだ!」とも。決断する立場にあった人の正直な反省の弁、悔しさをにじませた表情が印象的でもあった。
1995年、常務から14人抜きで社長に抜擢されBaioのヒットなどによって3兆9833億円から7兆1500億円にまで業績を伸ばした。しかし、2003年には業績が急悪化し株式市場にソニーショックを招いた、栄光と挫折、苦渋の10年間を経験した当事者でもある。
日本の教育制度の問題か?
日本の教育制度が原因で個性的な人材が生まれにくいという指摘はおおい。更に言えば教える側にも、独自性や個性的な発想をもたない偏差値人間も多くみられる。教育の均質化であり、多様な可能性を理解出来ず、ひたすらマニュアル化した内容を教えればと考えているようだ。
世界はいま群雄割拠、下剋上の様相をていし、悲観論が台頭する中でも強い気持ちをもって創造性を研ぎ澄ませねばならないときなのだ。
ジョブスによってアップルは倒産の危機を脱し、パソコンや携帯、家電、映画、音楽などのメディアなど、生活世界を瞬く間に革新していった。いまや、マイクロソフトやグーグルを抜き、エクソンモービルに次ぐ世界企業に飛躍していた。
自らが欲するモノずくりのこだわり、失敗を繰り返しながらも発想の独自性を持ち続けた創業期のアップルに共通するもの。我が国の中小企業などのこだわりを持ち続けられるものづくりに徹した職人気質、経営の哲学や信念に通じる。我が国独自といえるもの、世界に誇りうるものが、その中から生みだされる可能性は高いのではと考えている。
1 独自の視点をもって、時代の変化を感じとる力をもつ
2 失敗を恐れず、自らを信じる力をもって決断すること
3 他人を説得する力、信頼される力をもつ
4 習うだけではなく、自ら考え試みること
5 アーティスト感覚の美意識があり、優れたデザイン力をもつ
6 即断し行動力をもつこと
7 誰よりも時間をかけ、深く考えたという自負心をもつ
8 現状に安住せず、常に次への可能性を考えておく
9 その他
(2012/1・30記)
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メモ:
・逆風野郎!ジエームス・ダイソン 日経PB
・ダイヤモンド 201112/24特大号「いまの経営者さえ入れ替えれば日本からアップルは生まれるよ」(夏野剛:慶応義塾大学特任教授 東京ガス、ベンチヤー企業を経てNTTドコモ、iモードの立ち上げと拡大に貢献し、多くの電機メーカーと深くかかわる。現在多数の会社の社外取締役)
・ジョブスの「こだわり」を「形」にするインダストリアル・デザイナー ジョナサン・アイブとのパートナーシップ
(デザインコラム/連載 -110 12/01/2011)
・理想とするリーダーとしてステーブ・ジョブスが挙げられたが、同時に多くのスタッフを傷つけ、憎まれてもいる。この特異な気質、天才と言われるデザイン至上主義者 ステーブ・ジョブスでもある。会議中にもよく眼の前に手をかざし動きを詳細に観察していたのだとか。その手の中にiPhone の理想をもとめて描いていたものだ。潔癖なまでのこだわり!
「放漫で、暴虐で、烈しく、おおむね強情で譲らず、まったく我慢のならない男だ!」(元アップルコンピュウターCEO ジョン・スカリー)
「新しいアイデアを提示されると、すぐに『ばからしい!』と否定する。そのアイデアが優れていた場合、自分のアイデアであるかように人々に話すのです」(マッキントッシュ開発者 ジェフ・ラスキン)「何か指示を出すときは、ひとたび決めたことは絶対譲らないし妥協を許さない。
と、いう観点で『神は細部に宿る』というか、徹底的に細かいところまで見て行く」(元アップル副社長 日本法人代表取締役 前刀禎明)
・経営者の座右の銘(ダイヤモンド 特大号/別冊)
:努力×時間(藤田田 マクドナルド創業者)
:明確な目標を決めたら、あとは執念だ。ヒラメキも執念から生まれる。安藤百福(インスタント ラーメン 日清食品創業者)
:いろんなことで失敗をしています。そもそも商売と言うものは、失敗するのが普通だと思うのです(柳井正 ユニクロ創業者)
:アイデアの良い人はたくさんいるが、それを実行する勇気のあるひとがすくない。我々は、それをがむしゃらにやるだけだ(盛田昭夫 ソニー共同創業者)
:人間は苦労し、鍛錬されることで初めて人間になる。苦労しなきゃ人間の呼吸は分からない(出光佐三 出光興産創業者)
・この国が今日あるのは創業者の苦難と決断力の結果でもある。
生きるための生産活動は、欧米先進国に習う事からはじまり、組織の一員としてなすべきことを自ら考え、自己犠牲をいとわないで頑張るおおくの日本人が生まれてもいる。その結果が優れた生産活動となり、企業となって高度な技術力を蓄積していることだ。しかし、大局的な戦略はなく、それらの知財もいまは世界に流失し、拡散しつつある・・・。
・キヤノンの御手洗富士夫氏(76)が社長に復帰。キヤノン社長として10年間勤めた後、’6年から’10年まで経済界のリーダーとして経団連会長を務めており異例の社長復帰だ。
先行き不透明な中では経験豊かなベテランに舵取りを任せるということ。かっては、ヤマハ、ユニクロなどが会長が社長に逆戻り、経験不足は世代交代をはばむことになった。また、1面には国のリーダー、政治家のたちの経験不足をヘンリー・キッシンジャー(米 元国務長官・ノーベル平和賞)によって指摘されている。経営者にも言われること・・・。(讀賣新聞 論説:指導者考1 1/31)