とにかく、『40枚のパッドを楽々クリア?』そんなセミナー攻略本が出回りそうな時代になってきた。
「のびのび」と「自然」に「ゆったり」と・・・。成績や出世競争より「人間らしさ」など、否定出来ない本音であり、タテマエでもあるが・・・。
豊かさを得たとみえる社会は、また人間としての生き方の矛盾と混乱を生みだしてもいる。
なんでもありの恵まれ過ぎる生活には、「学ぶ」意味を見失わせるものがある。少なくとも「ほどほどにやれば・・・」というものにはならないようにしたいものだ。
セミナーを学ぶ・・・・
キーワードによる予備調査ーテーマの理解と可能性の予測ーデザイン条件によるアイデアとそのスケッチー評価と選択ープレゼン用パッドの制作ー提出するという一連のデザインプロセスを3泊4日。短いが、ギユーッと詰め込まれたデザイン実務活動の一端を体験するもの。学ぶ意味はやがて分かるようになり、「学ぶ」ことが決して要領のみを体得するものではない、ということも分かるはずだ!
セミナーでは・・・・・
まずは、テーマに関わる発想の内容を正確に、素早くスケッチやメモとして紙面に記述することからはじめる。手を自在に動かして紙面を埋める動作は、脳を刺激し活性化することにもなる・・・。そのことがデザイン学習にとって極めて重要な感受性を育て、スキルアップにつながるものだからで、軽井沢セミナーが回を重ね継続されてゆく目標ともなっているものだ。
勿論、デザイナーに限らず技術者、モノづくりに関わる人々にとっても極めて重要なことなのだと思う。
広く歴史的・社会的な視点から見ても、モノづくりの「心」にある機微、思考の深みに関わる能力は、「スケッチ」という意識的行為(思慮・洗濯・決心・・・)の過程をもつ人々に多くみられることだからだ。
見る―描く―考える―脳のヒラメキ・・・・
参加者能力の個人差はあるものの、同じテーマ、一連のデザインプロセスを共に取り組む仲間・・・。しかし、生みの苦しみはすべての人に共通するもの、時間の経過する中での忍耐は、それでも多くの「アイデア」を生み、「解決のヒント」を生み出すものだ。必ず解決の手掛かりは忍耐と集中する時間に比例して次々に生まれ出てくるようにもなる。
なにか修行僧の「無」の境地で行う「行」のようにもみえるものだ。一人黙々としてアイデアのスケッチを繰り返す。忍耐強く・・・。
ある高名な建築家は、1000枚ものスケッチの後に、それまでにはなかった全く新しいアイデアのヒラメキがあるのだと。
忍耐と集中するなかで体得される創造の「ヒラメキ!」、デザインのプロセスは、その繰り返しに耐えることでもある。
なによりも学ぶ過程や、発想する時間が省力化され、軽減されてはいけないものなのだ。
「ヒラメキ」の感動! セミナー終了後の達成感!の経験が大切なことでもある。
自ら主体となる忍耐の意志・・・・
デザインのアプローチには、若い感性を刺激する多くの発想のスケッチ、まさに試行(試考)錯誤、多くの《失敗》を学ぶこと、その《挑戦》によって人は大きく成長することになるのだ。セミナーを体験したことは、今後のデザイン学習に生きたものとなっているのだと断言できる。
もちろん、自分の能力の拡張を知り、信じるのは自分自身の努力を知る、自らの「心」でもある。生き方の自信と確信を裏ずけるものにしたい。
自分自身の性格や能力、強さや弱さを知ること、デザイナーとして生きる基礎力を知るチヤンスともなる。このセミナー以外では決して体験できない、実に貴重な時間であり、経験となるものなのだ。
(2011/7・3 記)
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メモ:
「人間って、ものぐさになろうと毎日思っている。便利さに浸ると、人間はものを考えなくなる。そうやって今、人間がダメになってきている」(三鷹光器株式会社・会長 中村儀一)
41年に創業、社員40名余の中小企業ながら世界が注目する会社がある。NASAからはスペースシャトルに搭載する「特殊カメラ」を依頼されており、あのライカ社(ドイツ)からは「外科手術用顕微鏡」の開発を依頼されたりと、これまでだれもが創ることが出来なかった様々な宇宙開発、精密機器などを生み出している。小粒ながらユニークな社風から生み出されるアイデアと高度な技術力は世界的に高い賞賛を受けているのだ。
その製品開発のアプローチであり独創性はデザイン教育にも共通するものであり習うべきことが多いようにみえる。ライカ社に開発を託された顕微鏡は、執刀医と同じ術野を助手が見ることができる仕組み、作業に支障のないレイアウトが考えられた構造のアイデアが採用されてもいる。
創業者でもある中村義一三鷹光機会長は、「人間にもともと備わっている『工夫しようと考える力』を発揮させるだけだと言う。一方で、考える力が、便利な世の中に浸るうちに退化してきていると、今の日本に警鐘を鳴らしているのだ!
人間って、ものぐさになろうと毎日思っているでしょう。何でも買えばいい、自分でやらなくてもいいだろうと思っている」
確かに、世の中にモノは溢れている。お金を出せば買える、何だって与えてもらえるという環境にいるうちに、人間は自分で考え、生み出すことを忘れていく。便利さの落とし穴とは、思考停止に陥っていくことなのだ」と。
アイデアを作るときにも、なんであれ買うことをせずに自分でつくる。つくるときに使う測定器も市販のものではなく自分でつくるのだという。もちろん、製品の部品も自分でつくり、部品を削りだす刃物ですらも自分でつくるのだという徹底ぶりなのだと言う。
「世の中にないものをつくるんだから、部品も道具も新しくつくるのだ!」という。中村会長の自らの経験に裏付けられた信念なのだろう。
また、入社試験、技術者の試験なのだがユニークで実に面白い!
これまでにも「自画像」や「テニスボール」を描き、「紙飛行機」を製作させ、「焼き魚」を食べさせるなど、という課題が与えられている。
中村会長が手にした2~3枚の絵。今年のモチーフだろうか「電球」の絵・・・。決して上手ではないのだが、光を発するニクロム線、覆うガラス球、ソケットにねじ込む金属部。それらの形に映り込むものなど・・・。電球がおかれた空間の観察力にも繋がる。勿論、うまい下手で評価するものではなく、受験生の感受性やモノ作りの適性を読み取る手掛かりとなるものだろう。
「新入社員には、図面より、下手でもいいから絵を描かせ、寸法を書き入れさせるのです。絵をみて、それを全部つくらせるのだ」と。
世界からの高い評価は自在でとらわれのない「モノづくり」の発想を許す企業環境をつくり、ユニークで意欲ある人材を集めた結果でもあるのだろう。今後も目が離せない企業だ!