現代デザインとは同義といってよいだろう、ディーター・ラムスの「よいデザイン 10の原則」・・・。その一つ一つを忠実に試みたスケッチやプロトタイプ、モックアップ、そして製品など300余点のブラウン社(ドイツ)の製品が展示されている。
「純粋なる形象—ディーター・ラムスの時代・機能主義デザイン再考」が府中美術館・特別展(’09/5・23~7・20)として開催されていた。
私にとっては4~50年振り? になるのだろう、それらを改めてじっくりと見ることができた。昨年の8月、コラム-75 「Less is More より単純に! よいデザインの系譜」にはiMacやiPhoneなどのデザイナー ジョナサン・アイブとの繋がりからディター・ラムスとブラウン社を取り上げていた。
その時には書籍や雑誌、資料など・・・。まさか、これだけのブラウン製品を見ることなどは考えてもいなかったことだ。会場の入り口では、いささか興奮もしていたし製品の前に立つとなにか懐かしい気持ちにもなっていた。見覚えのある製品、その「カタチ」を読み解くことにも一層興味を引かれたものだった。

それらの起点となるウルム造形大学はバウハウスを継承したもの、その理念を基にブラウン・スタイルはディーター・ラムスによって生み出されたのだ、と言える。
「最高の技術」と「よいデザイン」との結合は、見識ある少数の人々を念頭においていたのだというコンセプト・・・。 「それで良い」と考える企業風土・・・。狭い市場を考えること自体が当時の私には理解出来ないものだった。明快でユニークな形・・・。
しかし、余りにも画一的なのではと思われるデザインスタイルは多くの選択肢を期待する我が国では馴染まないのではと考え、市場調査は大きな市場を捉えることなのだとも考えられていたからだ。
あの時代、我が国のデザインの理念も技術も、まだまだ未熟なものだったのだ。
なによりも世界の生産基地としては、市場の多様なニーズにこたえる大量生産・大量販売を第一義としていた。当然ながら、マス・マーケットを獲得するデザインこそがデザインの目標であると考えられてもいた。
しかし、ブラウンのコンセプトは、その予測を超えて多くの人々に受け入れられていると言うものだった。
この事は、なすべき「デザインの理想」を示唆してくれるもの、勇気を与えデザインの意味や在り方を考えさせるものになった。
それらに触発されたデザイナーによって、製品デザインやCIが計画検討され、社会や企業近代化のデザインが試みられるようになっていたからだ。
しかし、「ブラウンに習い実行すると、デザイナーの個性が発揮できない」とスタッフに不評をかうのだと・・・。
この頃の幹部デザイナーのボヤキを何度か聞かされることも。
まだまだ、デザイン活動はその評価を得るために走り、考え、手探りしていた時代だった。
その優れた製品も・・・。しかし、いまはデザイン史に刻まれ、来場者もまばらで物静かな空間に置かれたものに・・・。
製品は、ただ見るものとしてつくられたものではなく、展示されるものとして在るものでもなかった。あきらかに触れ、使われる事を目的につくられていることを考えると、美術館に置かれる違和感を感じざるを得ないものだ。

生活の変化、ものの進化・・・・

現代社会において、さまざまな問題をはらむことになる幼稚化の進行・・・。
日々の生活のなかに潤いといろどりを与えるデザイン・・・。
「可愛い・・・」
「カッコイイ・・・」
「きれい~・・・」
若者の形容詞は限られるが楽しく、ユニークな製品をもとめる・・・。
これまでに無かった新しいデザイン・・・。
時代の変化はより良いもの、より魅力的なものに・・・。
しかし、つくることはそう簡単なことではない・・・・
思考のプロセスと多くの時間をかけて練り上げられるものである。
技術や材料などの発明、綿密に練り上げられたコンセプトを形に・・・。
アイデアの可能性としてのスケッチ、構成する部位のアイデアを組み合わせ全体から部分へのリ・フアインが繰り返されて新しい可能性は求められていくことになる。

掃除機の進化・・・・

ゴミを集める機能の進化を形として強烈に魅せるデザインが世界の掃除機を一変させた。
オーナーであり理想をカタチとして具現化したデザイナー、ジエームス・ダイソン・・・。
ゴミを吸引し、排気するシステム・・・。
そこにある問題が微細な粉塵を捉える紙パックだった。
「紙パックを使わない掃除機をつくる」・・・。
そう目標を決めてから5000余点もの試作(思索)を繰り返していた。
製材所の煙突に取り付けられていた集塵機(サイクロン)を見て紙パックの目ずまりを解決する着想を得、生み出されたものがサイクロン方式の掃除機だった。
これまでに重視された条件は「取り回し」や「使い易さ」、そして、静音性だった。
しかし、ダイソンは何より紙パックを使わない「サイクロン・パワー」であり、その機能の進化をイメージさせる鋭利で未来的なデザイン・・・。

我が国の狭い住空間を条件に、そのカタチは進化し続けており、性能の信頼を高いものにしてもいる。ダイソン氏は、また、「ものづくり」そのデザインプロセスのさまざまなアプローチを語り、新しい「形」をつくる苦労を語りかけて次代のデザイナー育成にも心している。

意識して「デザイン力」を・・・・

ディター・ラムス、ジェームス・ダイソン、ジョナサン・アイブ・・・。
共通するのは優れた「デザイン力」・・・。
そして、なにより強い自負心!だろう。
ある意味では生来のクリエター資質であり、才能でもあるのだ。

「デザイン力」、その表現・提示する力は、独創的で最適な形を考えるための素材=形、質感、色彩。そして、点、線、面、立体、空間などの造形的要素を持って思考する力・・・。
最適なカタチを求めるには、その組み合わせ、その可能性を極力多く発想することが必要なのだ。造形のための形体要素が少ないと、その可能性は制限される。
また、それを適切に表現する力=スケッチ力が重要で、学ぶべきデザイ力の一つとして大きな意味を持っている。
日頃から絶えずあらゆるものの「形」に興味を持ち”観察する”という心構えが必要だろう。

理性と感性、意識する心をもった「眼」を養うこと・・・・

モノの機能は最終的には手で触れ、視覚的に捉えうる形として具現化される。
その形を決めるものは、デザイナーのセンスや感性が大きくものをいうことになり、感性と審美眼の有無がそのモノの質的完成度を分けることにもなる。

デザイン感性の成分?

自然や人工の形の成り立ちを理解する。
形状や構造、仕組み、質感、規則性、部分の結合、細部の変化・・・。
ものの「カタチ」を明瞭に観察し把握することができる太陽光や人工光・・・。
もの形を捉える明暗、陰影、投影、反射など・・・。
造型、視知覚的な法則性の理解、錯視、空間、点線のパースペクテーブ・・・。
紙面という物理的空間スケールの把握・・・。
比例関係、構図、収まりを考える美意識の理解が重要でもある。
勿論、自然物や人工物の美醜の判断力を持つ識者、専門家の意見も参考に、理性的、数理的な正確さ、仕組み、色や形状の秩序には見習うことも多い。
デザインを学び目指すものにとっては意識して努力することでその能力は確実に研ぎ澄まされてゆくものである。
ただ、人よりは周辺を見る眼をもつと自負し、資質として体に刻み込んできたというその感性も、考えるまでもなく過去のもの・・・。
常に最先端であり、未来を目指す問題意識が必要なのだ。
メモやスケッチとしての記録、手の動きを大脳に刻む一連の行為、その繰り返しが生来の資質を豊かなものにする。

(7・31/2009 記)

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