まず、はじめに栄久庵憲司氏への「ラッキ―ストライク・デザイナー・アワード賞」の授与。
この賞は、レイモンドローウイ・フアンデーシヨン・インターナシヨナルが主催し、ヨーロッパに於いて権威あるデザインアワードとして知られている。
今年の受賞者に日本を代表する工業デザイナー栄久庵憲司氏が選ばれたのだという。
授賞式は既に9月18日、ベルリンのドイツ歴史博物館で750名余の識者の参列者を得て開催されていたもの・・・。
そんな主催者・ミヒヤエル・アルホフ会長の報告、そして、受賞者ご本人の挨拶があった。
その次に、「ラッキーストライク・デザイナー・ジュニア-賞」の授与。卒業・修了制作、本年度の応募68点を対象とした審査結果によるものである。
前列には、白いリボンを付け緊張の面持ちの受賞者たち・・・。
まず、本年度新設されたという「審査委員特別賞」からの授与だった。
9名が順次呼ばれ審査委員ご本人から賞状、トロフィが手渡される。
次いで佳作賞が3名、大賞1名の順に・・・。
・・・・
その緊張から解き放されたざわめき、「カンパーイ!」の音頭で主催者、招待者が受賞者を囲み、数人ずつの人の輪が出来て話が弾む・・・。
10月18日 3回目になるラッキーストライク・ジュニア・デザイナー・アワード賞の授与式は今、最もトレンデイ-な六本木ヒルズ、森ビルの51階に設えられた会場で取り行われていた。

壁面には入賞者の作品、パネルがあり、熱心に見入る人も・・・。
他大学の顔見知りの先生方とも話を交わし、栄久庵先生には先程の受賞のお祝いを述べた。
ジュニア―賞の審査委員でもある先生、「日大、頑張ってますね!イヤーいいですョ・・・」と、お褒めのことばも戴いた。
昨年の橋本君が佳作賞。今年は遠藤暢子君、柳川穣君の2名が審査委員特別賞を得ていた。
遠藤さんは照明デザイナー「石井幹子賞」を。
「定番となっている卒業制作のテーマだけではなく、アフリカの子供へ目を向けたそのテーマに・・・」とのこと。「日本の若者も、もっと世界に目を向けて欲しい・・・」とも思いを述べられた。
私も、「全くの同感!」
実は、そんな、意味をこめて、昨年の「軽井沢セミナー」ではテーマを「アフリカの青少年のための情報・娯楽機器–ソーラーバッテリーラジオ」のデザインとしていたのだ。
柳川さんは本学大学院客員教授で武蔵野美術大学名誉教授でもある「向井周太郎賞」。「障害者のスキューバダイビングをサポートする衣服のデザイン」にと・・・。
何れも社会性を持ったテーマへのチャレンジが審査委員の評価を得ていたものだ。
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ところで、夫々の審査委員のコメントの後、マイクを向けられた受賞者の挨拶は一寸はにかみながらも、社会人として初々しく、そして自らの抱負を述べるものであった。
しかし、2、3の受賞者の挨拶に一寸、気になるものがあった。
「自分の大学では余り認めてもらえなかったのに、ここでは評価して戴いて感謝しています」。「こんな重箱の隅をつついたようなテーマでは駄目だよ・・・」と。
何れも大学では「理解されず、評価されなかったのに・・・」というもの。
そこには、「不満があリ、不信感が有る」様にも感じられた。
「自信がないままに応募しました。まさか入賞するとは・・・」と感動しきりの女性も・・・。

こんなはなし、結構多いのではないだろか。
立場は変わるが、私自身も、そう思う時があるからだ・・・。
「同じ作品でも評価は割れるもの」それがデザインだし、デザインの教育でもあるのではと考えている。
それ程に評価する視点は多く、また、評価の条件が異なるものでもあるのだ。
まして、「課題のテーマ」についての解答は無数に有ると、考えるべきでもある。

直接指導する教師にとっては、その本人の資質、将来を見据え、足りない部分をアドバイスする。
学生の立場にたてば、「自分のアイデアを否定される」、「分ってくれない」という無念さ、それも分からないではないのだが・・・。
ひらめいた時、アイデアと言うものは、「これだッ!」と思い込んでしまうもの。
自信満々の、その「アイデア」が「駄目だ」と言われる・・・。
しかし、実はその「アイデアがより良いものか」どうかは、「他のアイデア」との比較ではじめて決められるものでは・・・。
デザインプロセスの早い時期から決めつけ、他のアイデアを考えようとしない。「1点のみへのこだわり」は、必ずあるはずの「他の可能性、アイデア」との比較もないままに、その課題を終えてしまうことになるからである。

発想能力の育成から言えば・・・。
当然、広く可能性を探る。
時間をかけて深く考える・・・。
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審査会場で作品の全てを並べ俯瞰しながらの評価は、制作の過程の評価とは明らかに異なる。
作品の「傾向」や「質」など、全体としての印象は違ったものにもなるからだ。
たしかに、「認められる」こと、「褒められる」ことは、何よりも嬉しい。
励みにもなる。勿論、そのために頑張る・・・!
しかし、より高度のレベルを目指して欲しいと思っている教師の側に立てば決して、「褒める」ことだけで評価し、認めることにはならない。
期待すればこそ、強いアドバイスにもなる。否定もするだろう。
若さは、多くを受け入れる<心の柔軟性>を持っている。
受け入れることで「独創性」が育まれていく。
受け入れない「独りよがりの頑迷さ」とは明らかに違う。
・・・・
「指導教師による推薦文は、その作品を知る上でも審査の評価判断でも、大いに役に立っていますね・・・」と向井先生。
認められなかったという彼らの作品にも、じつは、指導教師による熱い推薦文が寄せられていたのだ。
(2003/11・13 記)

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