8月まっただ中。横須賀にある、海洋研究開発機構ジャムステック本部にお邪魔してきました。前々回のマッシー通信で、有人潜水調査船の科学探査生中継の様子を書きました。そこに登場した「しんかい6500」が日本に帰ってきたのです。(すいません、今回、マッシー通信を初めてご覧になったという方 、テンションについてこられないかもしれません。大変お手数ですが、前々回のマッシー通信連載115「30万人で海底探査の旅」をざっとお読み頂けると幸いです)
これまで、お台場の日本科学未来館では旧型のしんかい6500の実物大模型を見ました。現在、上野の国立科学博物館で行われている「深海展」では、新型の実物大模型を見ました。ついに、本物のしんかい6500に会う機会がやってきました。本物のしんかい6500にはたくさんの「勲章」が残されていました。潜航のときにできた、傷やへこみが見られます。今年に入って、インド洋やブラジル沖、カリブ海の海底探査をしてきた歴史です。
全体を覆っている外皮には、熱水に触れたときの「焦げ」 がいくつかありました。(海底には300度とも400度ともいわれる熱水が吹き出している場所があります)この熱水が、内部の蓄電池やケーブルなどに直接当たらないように、外皮が守ってくれています。
船体の後部に設置された潜水船が進むためのプロペラ、主推進器(しゅすいしんき、スラスターともいいます)は、海底にできた煙突上の物体、チムニーにぶつかったため、ちょっと欠けていました。この程度なら問題ないそうで、このまま次の潜航に向かうそうです。(もちろん予備のプロペラも持っていくそうです)
採集したエビやイソギンチャクなどを入れる、サンプルバスケットもベコベコに形が変わっていました。しかしこれはハンマーでへこんだ部分を打ち 出して、なおして、この状態なのだそう。しんかい6500は丈夫なチタン合金で出来ている部分が多いのですが、このサンプルバスケットはあえてアルミ製、柔らかい素材でできています。海底で何かにぶつかった時に、衝撃を吸収して、船体へのダメージを和らげるバンパーの役割も担っているからです。もちろん大切なサンプルを入れる部分なので、ぶつからないに越したことはないのですが、船体に問題が生じると人命に関わりかねません。サンプルバスケットにも、潜航の勲章がたくさん見られました。
しんかい6500には、浮力材が隙間という隙間にぎっしりはめこまれています。まるで寄木細工のよう。これは動力を使わず、浮上するためです。しんかい6500は金属の固まり のように見えますが、この浮力材のおかげで、そのまま海水に浸かると自然に浮くようにできています。潜入するには鉄の重りをたくさん積んで沈み、海底で重りを半分切り離して、浮きも沈みもしない状態で探査をし、浮上するときに残り半分の重りを切り離して、自分の浮力で浮上します。その浮力を生み出しているのが、この浮力材です。見ると、いろんな数字が書かれています。「240を先に入れる」とか、「290も先に入れる」とかマジックによる手書きです。なんだか我が家の押し入れみたい。「130センチ冬物」「110センチ夏物」のような生活感があります。これまで、何度か浮力材を詰め込んだときに、必要になった情報をその都度書いていったのですね。
しんかい6500は最 先端技術の結晶なのに、ところどころアナログな部分が垣間見えて、ホッとするというか、人の温かみを感じます。
さらに今回、本物のしんかい6500の耐圧殻内部に入れていただきました。本物!しかも内部!嬉しすぎます。実際の潜航と同じ、パイロット、コパイロットのお二人に加え、私(本来なら研究者の方)合計三人で耐圧殻(たいあつこく、コックピット)に入りました。耐圧殻の内径は2メートルですが、様々な装置がついているので、もっと狭く感じます。両手を広げると届いてしまいそうです。さらに人が座れるのは直径120センチ程度です。ここに大人3人、着水から海底探査、浮上までのおよそ8時間を過ごします。
耐圧殻内では、海底の生き物な どを採集する「マニピュレータ」というアーム操作も体験させていただきました。幸せすぎる。
日本の有人潜水調査船、一番深く潜れるのは、このしんかい6500です。名前の通り、潜れるのは、水深6500メートル。世界でもっとも深いところは水深10900メートルのマリアナ海溝です。ここまで潜って探査ができる、有人の潜水調査船、日本で作って欲しいなぁ。いつか、日芸ID出身者がデザインしてくれないかなぁ。パイロット、コパイロット、研究者に加え、さらに何人か乗れるくらい広くて、もっと深く長く潜っていられて、窓がもっと大きくて、トイレもあって。夢は広がるばかりです。有人潜水調査船のデザイナー、かっこよすぎる。今から6歳息子の尻をたたくかな。
しんかい6500のファンの方も、知識をもっている方も大勢いらっしゃるのに、今回、本物のしんかい6500に触れる機会をいただいて、身に余る光栄でした。
暑かったこの夏、深海の世界にどっぷり漬かった夏でした。しんかい6500は再び科学探査の旅に出ています。次に日本に帰ってくるのは3ヶ月後、年末。また、たくさんの研究成果と勲章を積んで戻ってくるのでしょう。再会が楽しみです。
2013年8月31日
増子瑞穂
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「しんかい6500」帰国報告 整備場から生中継
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深海5000メートルへの有人科学探査を生中継
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