『変人=異能人の時代へ』

なんとも親しみのもてるノーベル化学賞学者、田中耕一氏の登場である。
その画面からは生真面目で誠実な人柄が伝わって、思わず顔がほころび優しい気持ちにさせられるものである。
’49年湯川秀樹氏が「中間子理論」によってノーベル物理学賞を受賞、敗戦に自信を喪失した日本人を勇気ずけるもので、以来の12人目、前日の小柴昌俊氏に次いでの快挙でもある。
博士号もなく、留年をし、ソニーへの就職も面接で落ちたという43歳のサラリーマンには経済低迷の同世代サラリーマンを勇気付け、身近に感じさせて喜びを分かち合っている様にもみえる。
その業績の偉大さについては門外漢の私にはまだ、余りよく分ってはいない。それでも、かって私が理化学機器のデザインに関わっていたこと、京都にある島津製作所の精密化学機器製品を知っていたというだけでも殊更に親しみはあるものだ。
「たんぱく質分析の新しい手法原理」の発見、その応用された機器を使用することでガンの早期診断が容易になるものらしい。その製品「レザーイオン化質量分析装置」は開発者自らの売りこみ、営業回りにもにも実績が無いと1台も売れなかったらしい。その後、まず売れたのがアメリカの研究機関であったということもこの種開発品が認められ始める定石でもある・・・。
27歳の頃の実験で迂闊にもおかした二度の失敗、その「失敗」が偉大な発明に結びついたのだという。しかし、その「失敗」を生み出したものは、淡々と、しかし、極めて忍耐強く続けられた実験があってのこと・・・。
実験があり、失敗が有り、そして成功のヒラメキが生まれる!
このプロセスは歴史の中にある数々の発明・発見の歴史に見られるものであり、示唆し教えられる事は変わることのない事実である。
その報酬が1万1千円であったというところも微笑ましい。
我が国の貧しい研究環境の中でも黙々と仮説研究の実験に、ひたすら無心に没頭する日本人研究者の姿に好感が持てるからである。
これも、ノーベル賞クラスといわれている「青色発光ダイオード」の開発。その報酬の低さ、研究環境の居心地の悪さを逃れてアメリカ、カリフォニア大学教授として頭脳流失した中村修二氏、その発明者としての権利を争った裁判は敗訴となったが、我が国の研究成果、人材確保の在り方への問題提起となって大きいように思う。            
それにしても対照的、日本人的な人柄として映る田中氏、中村氏が提起する問題を浮き上がらせて見せる効果もあって、一層考えさせられるのである。
それらの背景があって企業としての待遇にも困惑している・・・とか。取り敢えずは役員待遇フエローへの特進。

我が国の課題・・・
 しかし、いずれにしても有能な人材を繋ぎとめておけない環境、これは単に企業の問題ではなく我が国の戦後体質そのままで今日を迎えたというところが問題でもあったのだ。
模倣を改良・改善?とすり替えることで良しとした我が国の戦後体質も、時代が大きく変わっていることを強く認識せねばならない。日本が世界経済の第一線に踊り出た時点から欧米諸国からはライバルとしてみられており、また後進国からは、その一挙手一投足を注視され、倣うべき先進国と見られていることを自覚しなければいけなかったのである。
遅きに失したきらいは有るが、しかし、近年急速に言われ始めた「知的財産権」の権利を守ろうとする法的措置に、どうやら社会的な認識も高まりつつあるのが救いだが・・・。
「見える」経済効果、効率のみを評価するのではなく創造性を尊重し、独創性を高く評価、自負するする社会のコンセンサスが重要なのである。
そして、国や大学、企業において人材を繋ぎ止めておく在り方の整備を急いで欲しいものである。
その人材活用先進国、アメリカに習い、その魅力を十分に分析すべきだろう。勿論、そのことは多く理解されてはいる事だが・・・。
これも21世紀、我が国が再び世界に飛躍する為の緊急課題の一つでもある。
何時も均質化、平等主義が言われるのは、能力ある者の意欲を失わせるし無能者の模倣を許し、いたずらに権威主義がはびこる事にしかならないからだ。
アメリカを超えて能力と意欲あるものが、生き生きと働く条件を整え「目標」を与えて欲しいものである。アジア圏に止まらず世界の優れた人材を魅了する「創造」の国、科学・芸術国家を目指すべきであろう!

変人=異能人?
ワンパターン、ワンフレームの生活行動圏をのみ良しとする我が国の価値観。その評価からは計れない人をヤヤ蔑視する意味合いを含めて「変人」と呼ぶらしい。
しかし、多くの「変人」がいて、それが普通であるといえる環境こそが創造的な社会であるという事が出来るし、我が国の未来が約束されるものなのである。
デザイナーもまた、皮相的なだけではない「変人」が、「独創者」「異能人」が現れることを期待したい。今、我が国の命運を賭けて舵取りをしている人も「変人」と言われている、私はその変人政治家に一貫して期待している。
「変人?」とはまた、鬱積する常識を突き抜けていく強固な意志の人でも有り、優れた芸術家、デザイナーに共通する特性でもあった。
果敢に挑戦してみよう・・・。 失敗を恐れるな!
失敗を恐れる事が日本の模倣体質を助長しているし、「独創」を生みがたい環境にしているからだ・・・。
逆説的に言えば「失敗」が次の可能性を生み、「成功のヒラメキ」を誘導すると言うことでもある。
(12/Oct,/2002 記)

その後のスーパーサラリーマン氏の報道、その動向には少なからず驚かされるが、まさにに変人?の真骨頂を見る。その頑固なまでの「生き方」にも多く習いたいものがある・・・。
その文化勲章の受賞、併せて、インダストリアルデザイナー柳 宗理氏の文化功労賞受賞の報道に明日の夢が膨らむ思いでもある。OB諸君の活躍にも期待したい!

(31/Oct,/2002 記9)

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