近頃、「夢」と言う文字をよく目にし、耳にするようになった。
巣立ち、また新たな旅立ちの季節なのだ。
「夢に挑戦しろ」、
「夢もって生きましょう」、
「夢を・・・・」
しかし、現実は、「夢すら見ない時代だ!」という。
厳しい、我が国の長引く不況。閉塞感がそう言わせているのだ。
大分前の新聞にもその様な大見出しを目にした。「だから夢を見れないんだ!」と、そのせいにしてぼやくものも・・・。ストレス発散のひとつになる。
とは言え、人は誰でも夢を見る、見ることは出来るのだ・・・。
人は夢があるから生きていけるのだといわれている。
その夢が青少年から失われるとすれば、それは極めて深刻なこと・・・。
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2月22日付の読売新聞紙面には中学生以上の未成年者、五千人(有効回収数2,942人回収率59%)に実施した「全国青少年アンケート調査」が掲載されていた。
「社会観」や「人生観」、そして、「日常生活」について聞いたものだ。
「日本の将来について」4人に3人が「暗い」と思い、75パーセントが努力をしても誰でもが成功出来る社会ではない、と見ている。
更に質問は、「日本が外国に侵略されたらどうする」というのがあった。
「武器を持って抵抗する」13%、「武器以外の方法で抵抗する」29%に対して、「安全な場所へ逃げる」44%、「降参する」は12%だった。
「どんな人生を送りたいか?」の質問には、「好きな仕事につく」69%、「幸せな家庭を築く」62%、「趣味などを楽しむ」54%、「金持ちになる」32%、「人のためになることをする」30・4%、「有名になる」15・2%、「出世する」13・5%など・・・。
社会の現実に否定的、悲観的な回答が目立つ一方、個人や家庭を大事にすることが伺える。「悲観の10代」の大見出し。
夢より現実・・・。
「内向き世代」大きな夢や希望は抱かない「血の気の薄い」若者達の姿が調査からは浮かび上がってくる、と。
右肩下がりの、元気の無い日本を、大人を見て育った世代であるとも・・・。
上田紀行東工大助教授(文化人類学者)のコメント。
「暗い未来」、「努力しても報われることのないだろう未来」に向けて「夢を持って生きよう!」
「学び、意欲を持つて頑張ろうぜ!」などと、とてもいえないからだ・・・。
「夢」を断たれ、夢を失った青少年が短絡に、自ら生命絶つ者。そんな悲しいニュースも多い時節でもある。
日本国民としての誇りは「ない」33%。
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我が国の「生き方の価値観」、単一、短絡過ぎるのではと思う。
「失敗」、「失望」、「挫折」・・・。「辛い」、「苦しい」、「悲しい」こと。
夢の実現はそれらの前提が常にあることを学ぶことが必要なのだろう。・・・。
そして、その次に「喜び」があることを「信じる強さ」、「逞しさ」をつくるべきなのだろう。
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現実というものは、厳しいものである。
生半可な気持ちでは実現出来ない。
その厳しい現実があり、困難があるから「夢」なのである。
簡単に、誰でもが実現するのであれば、そんなものは「夢」ではない。
まさに筆舌に尽くせない「困難」への挑戦があるからこそ夢、その実現が「大きい喜び」となるのである。
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その「困難」は、「解決すべき問題」と置き換えても良いのだが、勿論、この問題への挑戦とは、日々、生活の中にあるもの・・・。
そう見ると「夢」を実現する事は「問題」への挑戦だと言える。
夢があるから頑張れる。辛いと思うときも我慢が出来るのだ。
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困難な「夢」を実現させる挑戦!「問題に向かう生き方」が、豊かな人生でもある、と言えるのだ。
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バブルの破綻後、私にはこの厳しい現実の浸透が若者の緊張を生み、良い結果に繋がるのでは、と微かな期待を持っていたのだが・・・。
その期待は裏切られたことになる。
最近の無気力な大人社会の現象は、映してそのまま若者の姿なのだ・・・。
夢は誰でもが持てる。が、しかし、その「夢」の実現を待つが、努力はしない若者も多いのだとか・・・。
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戦後の廃墟の中から、明日の見えない中でも無謀とも思える「夢」を追って、必死に生きた時代があった。
あの輝かしい時代を知らない世代によって、世界の片隅で静かに慎ましく生きることになるのだろうか。
寂しく複雑な気持ちだ。
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バブル後のデザインも右肩下がりの時代を正面に受け、目標を喪失ている。
若い世代のデザインはいま、残念ながらアンケートに見る「内向き世代」の、それに近い。
我が国の、あの輝かしい経済成長時代。その「未来への夢」は、夢なのだろうか?
再びデザイナ―はその現実に目を見開き、奮起し、我が国の世界へ向けた「活力」を呼び起こすことに注力して欲しいものである。
(’03/4・12 記)