最近のマスコミのニュースを見ていると、環境問題のニュースが無い日が珍しい時代になりました。今回は環境問題をグローバルな視点で将来予測をしながら、これからのデザイン活動について考えてみたいと思います。
■1:レスターブラウン氏の意見
レスターブラウン氏は米地球政策研究所理事長(元ワールドウオッチ研究所所属)で環境問題の研究者として“世界的な大御所”として大変有名な方です。最近、日本の某大手新聞がレスターブラウン氏の環境問題レポートを掲載しました。主に中国に焦点をあてています。現在好調な中国経済が年8%で成長を続けた場合を想定しています。
■2: 2030年予測
レスターブラウン氏のレポートのポイントは、第1の視点として「中国の好調な経済発展が仮に2031年まで続いた場合、現在の全世界穀物消費量の2/3が必要になる」。第2の視点は「2031年に中国の車の保有率が、アメリカ並(4人で3台)になれば、現在の全世界の原油生産量が必要になる」。この予測を元に「世界は地球的規模で課題解決に向けた努力が必要である」としています。
とてもわかりやすく明快な文章です。しかし、このレポート、よく読んでみると、少し“不思議な感じ”もします。それは、人口13億人の中国の経済発展を基本にしてますが、アジアではインド経済も好調で、成長率が5~8%です。現在10億人の人口も、2030年には中国を抜いて世界NO-1の人口になると言われています。同じアジアでもASEAN諸国も経済が好調で人口は5億人を超えてます。ブラジルも好調、産油国も好調・・・・・・世界最強の先進国アメリカでも人口は増え続け、経済も堅調です。アメリカは移民に寛大な歴史がありますので、2030年は3億人を超えると予測されています。
私の手前勝手な解釈では、「中国だけをみてもわかるような状況ですから、他のアジアの国々や世界を見れば予測がつく。また、自国の“世界的影響力”を配慮して意図的に書かなかった」と思います。
■3:グローバル視点
中国だけでなく、インドを含めた全世界的な視野で見た場合、レスターブラウン氏の2030年予測をまたずに、“ある種の大ショック”(「第1次オイルショック=1973年」のような出来事)が訪れると見たほうが妥当だと思います。急激にではなく、徐々に来る可能性も充分にあります。
実際の予測は経済変動・戦争・気象変動などの要因もあり、正確な予測は大変難しいのですが、最も厳しい予測では「2012年説」があります。もう少し余裕をみると「2016年説」という案も考えられます。この予測が仮に“当たり”ますと、後10年で“大ショック”(&段階的ショック)がくることになります。
■4:豊かさとは
以前、TVで中国の地方政府高官が日本TV記者のインタビユーで、「豊かさ」について答えています。この高官は「欧米や日本の市民は、高価な家電製品や自動車がもてるようになった。中国人も早く持てるようになりたい・・・・・・・」との発言でした。とても“正直”な意見と思います。また、この発言は多少の考え方やニュアンスの違いはあっても、中国に限らず、インドでもASEAN諸国でもブラジルでも世界共通だと思います。つまり、政治・宗教・人種が違っても、ほぼ同じ発想になると思います。
■5:日本的豊かさ
日本的豊かさを考える時、自動車産業の視点から見てみましょう。かつては世界最強の自動車大国はアメリカでした(今でも強いが・・・・)。敗戦国日本は、貧しさもあり、アメリカの豊かさに大いに憧れました。でも、日本は国土が狭い、道路の整備率も低い、資源もない、豊かさも違う(庶民はそれほど豊かではなかった)・・・・・結果、日本的な発想の自動車を考えました。
当時のアメリカ車は5m以上の全長にV8気筒の巨大エンジン=6000ccの乗用車でした。これに対して、日本人は3m+αの短い全長と、1000ccクラスの小さなエンジンの車を主力車種としました。結果として、高燃費省資源型の車でした。この日本的な考え方の基本は、豊かになり大型車を製造できる時代になっても、決して小型車開発には手を抜かずに力を入れてきたのです。
現在のような原油高騰時代の米国では、日本製の小型車、小型ハイブリット車(超省燃費車)が大変売れしてます。時代が変わりましたが、GM・FORDのアメリカ巨大自動車企業は従来型の大型車にこだわったため、業績不振が続いています。つまり、自動車という欧米発祥の文化を、日本の歴史・伝統・風土などに合わせて、日本流にアレンジ(小型高効率型化)し、普及させ、“伝統”として堅持した。これがまさに「クールな日本」だと私は思っています。
もちろん日本の自動車産業が理想的で完璧だと言っているわけではありません。環境的視点に立てば、無公害車=電気自動車・ソーラー自動車・燃料電池車などの開発。リサイクル100%の車の開発(ゴミが出ない!)。リユース部品活用の活性化。リサイクル材料の大幅採用車などなど、限られた時間の中で達成しなければならない課題は山ほどあります。
また、車が生活に必要なアメリカと違い、日本や欧州先進国では市民の価値観変化などもあり、車の売れ行きは横バイ傾向なので、ビジネスとしての厳しさが増しています。
■6:デザイン活動
現在の工業デザイン活動の基本は、鉄・アルミ・ガラス・繊維・材木・石油などが、豊富に安く大量に手に入ることを大前提に考えられています。これが大きく崩れる可能があるのです。特に石油から作る樹脂類は未知数の部分が大きいですね。
現在、日本製の古紙や使用済ペットボトルは、“国際資源”として海外バイヤーの“高価入札”が起きています。
未来は「超限定資源時代」「超高価資源時代」が起きる可能性があります。このような時代がくれば、“鼻つまみ”だった、巨大ゴミ埋めたて地=例:夢の島(東京臨海部)が“金鉱脈”として、大きくもてはやされる時代がくるかもしれません。
価値感や発想が大逆転する時代になる可能性があります。このような時代になった時、必要なセンスはまさに、「クールな日本」です。「日本的クールデザイン=日本的発想の環境デザイン」を未来デザインのコアコンセプトとして新たに確立することを求められる時代と思います。
限られた資源を認識して最大の価値と効率をデザインする。具体的には、長寿命商品。リサイクルしやすい商品開発。リユース可能なデザイン。リサイクルチップを使った商品開発などなど・・・・・。リサイクルチップを使った新デザイン商品を“クールでかっこいい”思わせる活動も大事です。“世界語”となりつつある「もったいない」の精神も大変重要です。
■7:今後に向けて
最近のNUDNを読んで知りましたが、今回、学部・研究室の大変な努力で、定員100名に増員したデンザイ科が出来たことは大変喜ばしいことと思います。悲願達成ですね。私もOBとして自分のことのように喜んでいます。
また、過去にNUDNに寄贈した時、手前勝手な意見ゆえ、OBや学生の皆様より、厳しい感想などを想定していましたが、予想外の方(日大に関係ない方)より、丁寧なお褒めの言葉などを頂き、大変感激しました。それと同時にNUDNが幅広い読者を持ち、日芸&工業デザインのPR活動に大きく貢献していることが、自分自身が寄贈してみて、初めて知ることが出来ました。
今回の増員を機会に、将来は工業デザインコースの中に「環境デザインコース」などが出来るとうれしいですね。単なる環境デザインの視点だけでなく、視野の広い「地球的価値感」なども勉強できるといいですね。
また、総合大学の利点を活かし、学内の環境技術と環境デザインの融合のような活動が出来ることを期待してます。
尚:私個人の勝手な意見ゆえ、みなさまからの反論・感想などがあると思いますので、下記にメールをお寄せ下されば幸いです。
環境NPO:Eco Smart:加藤 均
・Eメール:yta114@yahoo.co.jp
・URL:ecosmart.web.infoseek.co.jp/e